Entry

「ファンド悪者論」を排す

■ファンドに関する会計の新ルール

「ファンド」ということばのイメージは、「ハゲタカファンド」が話題になったバブル崩壊以降すっかり悪くなった。特に昨年はライブドア事件、村上ファンド事件と、ファンドを用いた金融関連の事件が続いたこともあって、ファンドはあたかも犯罪の一手口のようにいわれ、すっかり悪者扱いだ。

そんな中、企業会計基準委員会は昨年9月、企業が投資事業組合等のファンドを連結からはずしにくくする新ルールを発表した。会計の透明性を高めるのがねらいだという。

しかしちょっと待ってほしい。ファンドがすべて悪者というわけではない。企業がファンドを用いてその投資の一部分を自社の決算から分離する手法は、それなりの必要性があって認められ、拡大されてきたものだ。すべてを十把ひとからげにして「ファンドによる連結外しは悪」とみるのはあまりに乱暴すぎる。


■2つあるファンドのタイプ

私見だが、「ファンド」には大きく分けて2つのタイプがある。

1つは投資する側のニーズ主導で組成されるファンドだ。投資資金を集めて規模を拡大したり、企業の決算からはずして会計上、税制上のメリットを享受したりするために利用するわけだが、中には不当に利益をかさ上げしたり、税を逃れたりする目的のものが散見される。批判する側がイメージしているのは主にこちらのタイプだろう。

もう1つは投資される側のニーズ主導で組成されるファンドだ。企業の資金調達は、企業単位のものと事業単位のものとがある。物的担保や企業の信用が充分にあれば、企業単位で資金を調達するほうが一般的には有利だ。しかしそうでない企業、典型的には中小企業の場合、この手法による資金調達のハードルは高い。新規事業に乗り出すために銀行から融資を受けようとしても、やれ担保がない、リスクが高いと断られたりする。

こうしたとき、事業単位で資金調達するほうが有利な場合がある。企業全体でなく、対象となる事業からの収入だけを返済原資とするやり方だ。

この方法だと、その企業がもつ物的担保や信用力に関係なく、事業自体の収益力に基づいて資金調達を行うことができる。中小企業であっても、有望な事業であれば、有利な資金調達を行うことができるのだ。企業単位で調達するよりもいい条件となることもしばしばある。

コンテンツ産業、中でもアニメ業界は、こうしたファンドが事業展開において大きな役割を果たす分野の1つだ。

「クール・ジャパン」の代表格として世界から注目され、政府も振興策を打ち出している日本アニメだが、実際に作品を作っているアニメ業界各社の経営基盤の弱さ、それゆえクリエーターが充分な報酬を得られないことが、大きな問題となっている。

多くが中小企業で、担保となる資産や信用力が不充分であるため、作品を作るための資金調達を自力で行うことが難しく、テレビ局などのメディア企業に頼らざるを得ない。資金面で依存していて交渉上優位に立てず、充分な収益を確保できないため、クリエーターに報いることができないのだ。


■コンテンツ産業振興に妨げとなる会計新ルール

しかし近年、一部企業で、メディア企業の資金に頼ることなく、自ら資金を集めて作品を作ろうとする動きが出てきた。

ここでよく使われるのがファンドだ。

ファンドを組成して主体的に外部から資金を集めることで、自律的な事業展開が可能となる。重要なのは、作品自体への支配と決算の分離というセットが必要だということだ。作品制作を自律的に行えなければ意味がないし、決算を分離しないと資金調達が難しい。

これは、不当な利益かさ上げや税金逃れのためのファンドとは明らかに異なる事情だ。ここで連結を強いるのはファンドの利用自体を否定するものであり、ひいてはコンテンツ産業振興をめざす国の方針にも反することとなる。

すでに影響は出ている。映画「ブレイブストーリー」等で知られるアニメ制作会社ゴンゾの親会社 株式会社GDHは、07年3月期の連結経常損益を黒字予想から赤字予想へと修正した。

連結対象でなかったアニメ製作ファンドを連結対象にしたためだ。このファンドでは、GDHがファンドを組成して資金を集め、ゴンゾが作品制作を受注する。ファンドが連結対象になると、そこからゴンゾが受け取った制作資金も内部取引となり、売上に計上できなくなるわけだ。これでは、ファンドを組成した意味がなくなってしまう。

会計の透明性を高めたいなら、連結以外にもやり方はある。最も重要なのは、情報の開示だ。たとえば財務諸表に注記するだけでも、専門家にはその意味をかなり正確に伝えることができる。法律上、ファンドのキャッシュフローは企業本体から切り離されている。それを会計上連結してしまうほうが、実態を正しく反映していないではないか。

ファンドは悪用することもできる道具だ。しかし当然ながら、そうでないケースのほうが多いはずだ。悪用の恐れがあるからといって、ファンド自体の利用価値を失わせてしまうようなやり方は望ましくない。より高い視点に立ち、かつ実務に即した対応が必要であろう。


  • いただいたトラックバックは、編集部が内容を確認した上で掲載いたしますので、多少、時間がかかる場合があることをご了承ください。
    記事と全く関連性のないもの、明らかな誹謗中傷とおぼしきもの等につきましては掲載いたしません。公序良俗に反するサイトからの発信と判断された場合も同様です。
  • 本文中でトラックバック先記事のURLを記載していないブログからのトラックバックは無効とさせていただきます。トラックバックをされる際は、必ず該当のMediaSabor記事URLをエントリー中にご記載ください。
  • 外部からアクセスできない企業内ネットワークのイントラネット内などからのトラックバックは禁止とします。
  • トラックバックとして表示されている文章及び、リンクされているWebページは、この記事にリンクしている第三者が作成したものです。
    内容や安全性について株式会社メディアサボールでは一切の責任を負いませんのでご了承ください。
トラックバックURL
http://mediasabor.jp/mt/mt-tb.cgi/19