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音楽シーンを創ったパイオニアミュージシャンへの思い

  • レコード・コレクターズ 編集部

  • 祢屋 康

昨年の12月にジェイムズ・ブラウンが亡くなった。

90年代には日本のテレビCMにも登場してお茶の間をにぎわせたジェイムズ・ブラウンは、R&B、ソウル・ミュージックのパイオニアの一人。04年に亡くなったレイ・チャールズらと同じく50年代に活動を始めて、当時の新しい黒人音楽、リズム&ブルースからソウルの確立に多大な影響を及ぼした。

50年代から活躍を続けてきたジェイムズ・ブラウンだが、僕自身が音楽を聴き始めた80年代初頭には、当時、大きな話題となり始めていたラップ/ヒップホップの直接的なインスピレーションの元として紹介されていた。

この時期には、85年の映画『ロッキー4』のテーマ・ソング「リヴィング・イン・アメリカ」のヒットもあり、一般的な知名度も再び上がりつつ、ポピュラー音楽の流れの中での歴史的な評価も定まった。

ジェイムズ・ブラウンもレイ・チャールズも1930年代の生まれだが、今も欧米や日本の音楽の大きな部分を占めるロックやポップスの基盤を作ったのは、ほぼこの世代のミュージシャンたちだと言ってもいいかもしれない。彼らや、広い意味で“ロックンロール”と呼ばれた音楽をやっていた同世代の黒人、白人のミュージシャンたちは現在、だいたい70歳前後。

ビートルズやローリング・ストーンズ、エリック・クラプトンといった60年代に活動を始めた“ロック世代”のミュージシャンたちのたいだい一回り上にあたる。
 
エルヴィス・プレスリーらと並ぶ50年代のロックンロールのスター、ジェリー・リー・ルイスの新作(昨年末に日本盤が発売)にも驚かされた。ルイスの音楽を聞いて音楽を始めた“ロック世代”のミュージシャンたち、ローリング・ストーンズのキース・リチャーズやミック・ジャガー、レッド・ツェッペリンのジミー・ペイジ、リンゴ・スターから、ルイスと同時代に活躍したリトル・リチャード、さらにはカントリーやブルース界の大御所までが大挙してこのアルバムに参加している。

レッド・ツェッペリンの「ロックンロール」やブルース・スプリングスティーンの「ピンク・キャデラック」を、原作者本人をゲストに迎えつつも奔放に料理していて、痛快なアルバムに仕上がっている。
 
同じように50年代に活動を始めたブラジルのアーティストのジョアン・ジルベルトも昨年、
来日コンサートを行なった。

ボサ・ノヴァのオリジネイターの一人であるジョアン・ジルベルトは2003年の初来日以来、2004年、そして昨年と立て続けに3度来日したが、初来日時に既に七十を越えていた。自身の歌とギターだけで、3時間近くも緊張感のある演奏を聞かせ、大ホールいっぱいの観客を魅了した。

亡くなる翌日もステージの予定が入っていたというジェイムズ・ブラウンといい、元気いっぱいのジェリー・リー・ルイスといい、たった一人で長時間のステージをこなすジョアン・ジルベルトといい、恐るべき七十代たちである。50年代に活動を始めたミュージシャンには、現在まで続くさまざなジャンルの先駆的な存在が多い。この世代のミュージシャンたちが、七十を越えても精力的な活動を続け、私達を楽しませてくれるのには本当に感服する。

“ロック世代”のミュージシャンも還暦を迎えてはいるが、さらに上をいっているわけだ。とはいえ、ジェイムズ・ブラウンもそれほど元気だったのに急に亡くなってしまったり、1月に入ってB・B・キングの入院が報じられたり、なかなか心配なニュースを聞くことも多いのは仕方がない。

いわゆる“ロック世代”は“大人のロック”としてここ数年また人気を集めているが、もう少し遡って、50年代に活動を始めた他の七十代のミュージシャンたちの本格的な再評価もそろそろ必要かもしれない。


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