Entry

ICPFシンポジウム 「日本のブログは、これでいいのか」

  • MediaSabor

3月23日、都内で開催された情報通信政策フォーラム(ICPF)のシンポジウム「参加型メディアの可能性」「日本のブログは、これでいいのか」 ブロガー討論会に行ってきたので、以下にディスカッションの概要をお知らせする。

パネリストは佐々木俊尚氏、小飼弾氏、磯崎哲也氏、原淳二郎氏、池田信夫氏


           *********************************

日本のブログは匿名が非常に多い。これは、海外に比して特異な現象だ。一体、なぜなのか。
「2ちゃんねる」の影響ではないか。

日本の場合、企業がブログを規制しているケースが多い。新聞社もまた然りであり、記者など、取材、情報収集の上、記事を書くことが仕事になっているため、個人ブログの情報を本業と線引きするのが難しいからである。表立って規制していなくても、無言の圧力があり、うしろめたい気持ちにさせる雰囲気がある。

日本は閉鎖的な村社会なので、何か問題が発生した場合、まわりから袋叩きにあうリスクが高い。

単純に実名で書くほどのメリットが少ないからという見方もある。

一方、米国の場合、人材流動性が高く、キャリアアップを目的とした転職が盛んに行われている。そのため、ブログなどで発信している情報が評価されて、他社からスカウトされたり、あるいは、自ら売り込む際の武器になることが多い。だから、自然と実名で書く人が多くなる。日本では、一昔前に比べれば、人材流動性は高くなっているが、一定の年齢を超えると、スキルが高くても、途端に転職が難しくなる。

実名で書くことに、ためらいを感じるのであれば、匿名ではなく固定の別名(ペンネーム)で書くようにすればいい。日本でもアルファブロガーといわれる人は、ほとんど実名で書いている。それは、実名であるがゆえのメリットも多いからである。たとえば、読者からのフィードバックが質の高いものになる傾向がある点や、本業に好影響をもたらすことがある点などである。固定の別名(ペンネーム)としても、それに準じる効果があるだろう。

ブログやソーシャルメディアの一般化により、ジャーナリズムが変質しつつある。

新聞、TV、雑誌などのマスメディアは、記事が出るまでの過程はブラックボックスであり、結果として情報を読者に一方的に押し付けるだけ。それに対して、ブログはオープンで双方向性があるので、色々な人の意見が寄せられることによって、書き手が鍛えられ、レベルアップしていく。ソーシャルメディアである「はてなブックマーク」や「newsing」にエントリーが登録されることにより、さらに多くの人の目に触れ、議論が深まる。

現在は、そのような議論の過程そのものがジャーナリズムであると捉えることもできる。単なる誹謗中傷を真に受けることはないが、真っ当な批判であれば、耳を傾け、建設的な議論をすることも必要。それによって、ジャーナリズムは進化する。

現状の日本のブログは、議論のネタが、ほとんどマスコミ発のものになっている。その意味で、マスメディアも一次情報収集の面で重要な役割を担っているのだが、もっと、ブログ発の議論が増えていくことが望ましい。

ネット上の情報は玉石混淆であり、玉といえる質の高い情報は一握りで、現実は石のほうが圧倒的に多い。しかし、「電車男」の例があるように、編集者が何万というコメントの中から、ノイズを除去して、うまく編集することによって、1冊の本や映画、TV番組などのマルチユースなエンターテインメントコンテンツに生まれ変わるというケースもある。

したがって、ノイズが多いからといって、簡単にネット上の情報は質が低いと、切り捨ててしまうのは、みすみす宝を逃してしまうことになりかねない。

アメリカのブログを見ると、概して書き手の質が高いが、そのエントリーに寄せられるコメントもまた、レベルが高い。日本も、多様な分野の専門家がブログを書くようになってほしい。

それを促すためにも、日本人は、匿名だから何を言ってもかまわないというスタンスでコメントを寄せるのではなく、礼儀をわきまえた議論をすべきだ。そうしないと、いい書き手が参入しづらいし、育ちにくい。

とはいえ、非礼なコメントを寄せる人を根絶することはできないので、サイトのアーキテクチャやシステムの面で、炎上が起こりにくくするような工夫も大事になってくる。

ブログを書く人へのアドバイスだが、エントリーを秀逸なものばかりにしようと意気込む必要はない。継続して書き続けることによって、中に、いいものがポっと出てくるものである。そうした玉(質の高い情報)が出てくるまで、10エントリー書くことになるのか、100エントリー書くことになるのかは、その人によりけりであるが、とにかく、あまり気にせず書き続けることだ。

「ザ・サーチ」の著者ジョン・バッテル率いる米国の「FEDERATED MEDIA」http://www.federatedmedia.net/ は、有力ブロガーを多数、集結させたブログメディアであるが、1ヶ月の閲覧ページ数は3億を超えていて、既存マスメディアの脅威にもなっている。月間の売上も億を超えていて、広告単価が1ページビューにつき2から3円と、日本のサイト広告単価より、はるかに高い。

これは、企業がブログを広告媒体としても高く評価している証左であり、ブロガーを取り巻くエージェント・サービスが充実しているということが言える。

日本は、まだ、ブログだけで生活していけるような状況にはない。

したがって、経済合理性からブログをやるというよりも、執筆能力を高めたり、読者を増やすことによって人脈を拡げたり、読者からのフィードバックを期待することによって、自身の情報感度を高めたりすることを目的に始めるということになる。情報整理や備忘録としての利用も考えられる。ブログを運営するメリットは、何も金銭面だけに限らない。報酬は、あくまでも副産物として考えたほうがいい。


  • いただいたトラックバックは、編集部が内容を確認した上で掲載いたしますので、多少、時間がかかる場合があることをご了承ください。
    記事と全く関連性のないもの、明らかな誹謗中傷とおぼしきもの等につきましては掲載いたしません。公序良俗に反するサイトからの発信と判断された場合も同様です。
  • 本文中でトラックバック先記事のURLを記載していないブログからのトラックバックは無効とさせていただきます。トラックバックをされる際は、必ず該当のMediaSabor記事URLをエントリー中にご記載ください。
  • 外部からアクセスできない企業内ネットワークのイントラネット内などからのトラックバックは禁止とします。
  • トラックバックとして表示されている文章及び、リンクされているWebページは、この記事にリンクしている第三者が作成したものです。
    内容や安全性について株式会社メディアサボールでは一切の責任を負いませんのでご了承ください。
トラックバックURL
http://mediasabor.jp/mt/mt-tb.cgi/102