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日本人初のNHLプレーヤー 福藤 豊は野茂になれるのか

▼奇跡的なNHL公式戦デビュー


日本スポーツ界にうれしい知らせが舞い込んだ。2005年にロサンジェルス・キングズと契約した「福藤 豊」選手がNHLに昇格。1月のセントルイス・ブルーズ戦で、途中出場ながらゴールキーパー(GK)として公式戦デビューを果たした。


負けはしたが、負けがつくということは、確実にNHLにその足跡を残したということ。これは、はっきり言って奇跡に近いと思った。1995年「野茂英雄」がMLBで初勝利を挙げた時よりも衝撃的だった。


日本ではアイスホッケーと呼ぶが、北米では単にホッケーと呼ぶ。NHLとはNational Hockey Leagueの略で、カナダに6チーム、アメリカに24チーム、計30チームが毎年10月から翌6月まで、「スタンレーカップ」獲得を目指して熱い戦いを繰り広げる、世界最高峰のホッケーリーグである。


その大舞台に日本人が立つというニュースがにわかには信じられなかった。野球とは違ってまず日本での土壌が違う。


さらにNHLはカナダ人52%、アメリカ人19%、残りがヨーロッパ出身者で構成されている。95%以上は白人だ。バンクーバー出身の日系人ポール・カリヤ以外は、日系人の活躍すら聞いたことがない。


それは肉体的なハンデが理由と言われる。別名「氷上の格闘技」と呼ばれるこの競技は、とにかく肉弾戦が基本。パックを追いかけるのではなく、パックを追いかける選手に突進するといった方が正しい。そのため体が華奢なアジア人には不利な競技でもある。生で見るとよくわかるのだが、ぶつかった時の迫力といったら、それはもうアメフトの比ではない。




▼ゴールキーパーというポジションの特異性


そう言う意味では、GKというポジションは特異である。基本的にGKにぶつかることは反則。そのため肉弾戦が強いられることはあまりない。反面、精神的な強さが求められる。


60分間リンクに立っているのはGKだけ。「相手チームのシュート数が少ないと体が冷えて、いざパックが飛んできた時には体が動かないということもある」と以前インタビューをした時に言った選手がいた。


60分間集中力を切らさずにパックを追いかけること、いつも冷静であること、選手の動きを読み、パックの動きを予測してポジショニングを取れることなどFWやDFとは違う能力が要求される。


さらにGKは、野球の投手と同じく個人に勝ち負けがつく。必然的にチームの中で最も注目される。勝てば称賛されるが、負ければ非難を一身に受ける。北米ではファンもメディアも容赦がない。これに耐えられる強さも必要となる。


だからこそ、強いGKがチームに与える信頼感はチーム全体を強くする。


まさしく要となるポジションなのである。それは年俸にも反映されている。正キーパーの年俸は総じて高い。


30チーム中最も高いのはシカゴ・ブラックホークスのカビブーリン選手で675万USドル(1ドル116円=約7億8300万円)。続いてバンクーバー・カナックスのルオンゴ選手、ダラス・スターズのターコ選手の600万ドル、福藤選手のあこがれであり、目標であるニュージャージー・デビルズのブロデュア選手が520万ドルと続く。


東西カンファレンスともGKの年俸が高いチームが現在プレーオフ圏内に生き残っている。ちなみにNHL最高年俸はNYレンジャーズのヤガー選手で836万ドル。700万ドルを超える選手はヤガー選手を含め今季10人。


どれだけ優秀なGKを獲得できるか、育てていけるかが優勝への近道である。






▼NHLのとてつもなく厚い壁


こんな重要なポジションで福藤選手はNHL選手として生き残っていけるのだろうか。


1月25日からのカナダ遠征3連戦で、バンクーバーを訪れたキングズのクロフォード監督は地元メディアに対し、「まだAHL(NHLの2軍)レベルに達したところ」と評価していた。同チームのランフォード・ゴールテンディングコーチは、「トレーニングキャンプからいい動きをしていた。毎年レベルアップしていることは確か」と一定の評価はしているがまだまだ発展途上といったところだ。


本人は至って前向きに、キングズの練習では最後までコーチの指導を受けて黙々と練習をこなしていた。それは、心の中に北米でやっていく覚悟と日本ホッケー界に対する熱い思いとがみなぎっているからにほかならない。


「(日本の選手へ)何か与えられればいいと思っているし、これで日本のホッケーが少しでも盛り上がってくれれば。いい道が作れればいいと思います」と語る。


日本代表としては、「(オリンピックも)日本の一つの目標。でも今のままでは絶対に通用しないと思う。もっともっと海外でできる選手が増えてこないと。ここでNHLの選手を相手に戦っているじゃないですか。これが日本のチームと対戦すると考えた時に、やっぱりまだまだ・・・」


これが今の日本の現状だ。しかし彼は、上を目指してがんばる日本の選手達に、NHLという夢の舞台が雲の上ではなく、手が届くかもしれないという現実的なものにしたことで、パイオニアとしての役割を十分に果たしている。


練習後、ゲートの前でファンに囲まれても、疲れた表情も見せずにひとつひとつ丁寧にサインをしているNHL「福藤 豊」の姿にほんとうに新鮮なものを感じた。涙ぐんだと言っては大げさだろうか。


日本人初ということで、北米メディアでも大きく扱われた福藤のNHLデビュー。しかし、実際のところリーグに与えたインパクトは太平洋に投げられた小石ほどのものでしかない。


「福藤 豊はNHLの野茂 英雄になれるのか」名実共に答えが出るのはこれからだ。


 



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