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NO STYLE 広告論 「広告」としてのblog(ブログ)

(1から2回目で取り上げたSONY「BRAVIA」のような、ネットを介して
世界に広まり、国境を越えて多くの人々を楽しませた、ここ数年のCMの
成功例を今後も紹介していきたいと考えていますが、ここで一度寄り道を。
今後の広告のあり方を考える上で、興味深い「blog(ブログ)」について触れて
おきたいと思います)


▼集客の強力なツールとなったCGM(ブログ、SNS)

3月16日から18日、新木場のSTUDIO COASTで開催された「東京環境会議」
に密着取材した。いやにカタいタイトルだが、別に環境活動家や研究者が
集うわけではない。簡単に言うと、音楽を通じて「環境問題」を考えることを
趣旨とするライブイベントで、ヘタすると若者層が忌避しかねないテーマの
わりには、連日多くのオーディエンスがつめかけ盛り上がりを見せた。


出演者の顔ぶれがすごい。KREVAを初めとする旬のミュージシャンが
参加しているだけでなく、鬼束ちひろ、岡村靖幸といった活動を休止していた
ミュージシャンの久々のカムバックの場ともなり、さらにはシークレットゲスト
として、ENDLICHERI☆ENDLICHERI(堂本剛)、井上陽水が登場するなど、
連日話題に事欠かなかった。銀杏BOYZと倖田來未という、おそらくまったく
ファン層がかぶらないミュージシャンが、同じ日に出演するという、
このイベントならではの日頃ありえない取り合わせも面白い。


イベントが終了したいま「東京環境会議」をblog(ブログ)検索すれば、
おそろしいほどたくさんのファンの感想が出てくる。「お目当ての(久々の)
ミュージシャンを生で観られて感動した」的なものがほとんどだが、
イベントの趣旨に共感したというもの(環境を考えてみるきっかけになった
的な意見)やその効果について疑問を表明したもの(この程度のことで
環境問題が改善されるの的な批判)など、多種多様だ。

例えば一度、ask.jpなどのblog(ブログ)検索サイトで、「東京環境会議」
と入力していただければ、その反響のすごさが“実感”としておわかり
いただけると思う。 http://ask.jp/blghome.asp

「環境」をテーマに掲げていることからもわかるように、このイベント
は興行的な成功を第一の目的としていない。

Mr.Children(ミスター・チルドレン)の音楽プロデューサーとして
知られる小林武史が主催するap bank(エコ・コンシャスなプロジェクトに
取り組む団体や個人に低利で融資する)の活動の一環として行われている
もので、エコレゾナンス(環境に対する意識が自然と人々に共振していくこと)
を目指しており、イベントの収益もap bankの運営資金となる。

ミュージシャンもボランティア的な形での参加で、いわゆるマス広告やハデな
PR活動は行っていない。公式ウェブサイトで出演者やタイムテーブルなどの
詳細を発表し、あとは新聞や雑誌などに記事がリリースされたくらいだ。


もちろん、事前に大きく取り上げたメディアもあるわけだが(「広告批評」も
便乗)、それにしてもこれほど多くのオーディエンスがつめかけるのが、
不思議と言えば不思議だ。来場者にもインタビューしたのだが、はるばる
名古屋から来たという人もいた(ブログの感想を読む限り、遠距離来場者も
ちらほら見受けられる)。

それだけ参加ミュージシャンたちの人を集める力がすごいと言えるわけだが、
イベントの情報を短期間でここまで浸透させるには、いまは、やはりネット、
特にblog(ブログ)やSNS(mixi:ミクシィ)が果す役割が大きいだろう。


▼最も優れた広告会社は「消費者」

さっきblog(ブログ)に書かれたコメントについて触れたが、書き込まれて
いるのは感想や意見だけではない。開催前にまで履歴をさかのぼれば、この
イベントへの期待感を綴ったコメント(「だれが出る?」的な憶測も含めて)
に、これまたいやというほど目を通すことができる。

実際には、「東京環境会議」の開催が発表されたのは昨年末で、音楽の
イメージからあまりにかけ離れたタイトルのせいもあってか、当初は
ライブイベントであることさえ十分に伝わっていなかったと思われる
(少なくとも私には)。

出演者の発表もなかなか行われず、シークレットゲスト以外の全出演者が
公表されたのは、なんと開催の約2週間前である。徐々に情報が明らかに
なるにつれ、blog(ブログ)やmixi(ミクシィ)のコメントも飛躍的に
増えていき、ファンの期待を多いにあおっただろうと推察される。


いま(今後)の「広告」は、ネットを介した「クチコミ」(バズ)効果
を無視して語ることはできない。テレビCMが昔のような“万能薬”
でなくなっているのも、成熟した消費者による本音のマーケティングが、
従来のマス広告の「ウソ」を暴いてしまったことと無縁ではないだろう。

米「アド・エイジ」誌が、昨年の「エージェンシー・オブ・ザ・イヤー」
(最も効果的なキャンペーンを展開した広告会社が選ばれる)として
「消費者」を選んだそうだが、本来は広告をただ受け入れるだけの
存在だった個人が、blog(ブログ)やSNS等に、商品を使用してみた感想や
意見を自由にコメント(自ら情報を発信)することで、それを読んだ人、
そして商品流通をも動かす。そういった傾向が、今後はますます顕著に
なっていくと予想されている。


▼ネット上のクチコミを意識する広告クリエイティブ

すでに、一線の広告クリエイターたちは、どうやればそういった口コミ
を効果的に引き起こせるか(例えば、BRAVIAのような話題作りが
できるか)を視野にいれつつ、広告のクリエイティブやメディア展開を
考えている。

もちろん「口コミ」は昔から有効な“メディア”だったわけで、
優れた広告クリエイターはその重要性を理解していただろうが、
広告する側がネットを巻き込んだ「手法」として自覚的に考えるように
なったのは、日本ではここ3から4年のことで、その背景には
blog(ブログ)やSNSの登場による、メディア環境の劇的変化が存在する
ことは言うまでもない。


「東京環境会議」について言うと、最初は出演者も全員は公開せず、徐々に
情報をオープンにしていき、ファンの期待感を高めたあたりが、極めて
“広告的”だったと言えるだろう。

発表のタイミングが早すぎても遅すぎてもうまくいかないわけだ。
時間がありすぎるとモチベーションが下がってしまうかもしれない
(あるいは過熱しすぎて、肝心の「環境」というテーマが、かすんで
しまうかもしれない)し、遅すぎると情報が伝わらない危険性もある。

しかも、「東京環境会議」の場合、生の感動を売る「ライブ音楽」という
“商品”だからこそ、今回のようなやり方が有効なわけで、これが
環境リサーチャーを招いて行われるシンポジウムか何かだったら、
うまく人を呼べないだろう。最初から正確に情報をリリースしないと、
信用を失う可能性さえ生じるからだ。


いずれにせよ、そのテーマだけでなく、広告の仕方(ブログ等ネットの
力をうまく活用したところ)を見ても、「東京環境会議」は、実にいま
を感じさせるイベントだったと言える。



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