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NO STYLE広告論 BRAVIAの奇跡(2):YouTube動画連動

  

いま、北京のペニンシュラホテル676号室で、この原稿を書いている。

取材のための滞在で、中国は初めてだが来年の北京オリンピックを控えての建設ラッシュに驚いた。 移動の車内から見える風景は、建設中の高層ビルだらけ。“都心”にいるからよけいそう感じるのだろうがサントリー・ウーロン茶のCMに出てくる「古き佳き中国」には、なかなかお目にかかれないのだ。

1Fロビーに LOUIS VUITTON、GUCCI、PRADA、CHANEL、Dior といったラグジュアリーブランドの店舗を備えたこのホテルは客室も実にゴージャスで手入れが行き届いており室内には、SAMSUNG製の大型液晶テレビが備え付けられている。

これまでの偏見だが、ここがとても中国とは思えない。ネット環境も快適だ。 LANケーブルも用意されており、ネットに接続するとすぐさまホテルのサイトが表示された。 折角来たのだから、少しは観光もしようと思い朝5時に起床して故宮博物館(紫禁城)に行くことにする。

しかし、あまりに寒すぎて(マイナス8度)外出どころの騒ぎではない。少し時間を部屋でつぶすことにする。 浅薄な中国理解だが、紫禁城と言えば「ラストエンペラー」(監督ベルナルド・ベルトルッチ)。気分を出すため、出かける前に坂本龍一の手がけた映画のテーマ曲を聴くことにする。 YouTubeで。

あまりあてにはしていなかった。いくらネットがスムースにつながるとは言えここは社会主義国である。ウェブの検閲もかなり厳しいと聞く。ひょっとするとYouTubeまでは見られないのではないかという根拠のない予感……。 が、それは見事に裏切られた。

憂い顔の坂本龍一が、テーマ曲を弾く、20年前のライブ映像が日本にいるときとなんら変わりないスムースさで映し出されたのだ。 前回、実際のオンエア前にYouTube等を介してメイキング映像が世界に広がったSONY「BRAVIA」を紹介したが、いまやそれも中国で簡単に見られるのである。この部屋の壁のSAMSUNGが、SONYに変わる日も意外に近いかもしれない。

さて、第1回目の記事に補足しておきたいことがある。前回アドレスだけ紹介したが、BRAVIAが面白いのは、パロディCMがやたら多いこと。

例えば、TANGOというイギリスの清涼飲料のCM。果実の爽快感を誇張するナンセンスアプローチで知られ、カンヌ広告祭 の常連だが、このTANGOが、BRAVIAを思い切りパロった (おちょくった?)CMのオンエアを開始し、そちらも喝采を浴びたのである。

スーパーボールの替わりに、オレンジやリンゴといった果物を大量に坂で転がすというもの。しかもBGMや背景、各シーンのアングルなど、演出までほぼ同じにする凝りようだ。 とはいえ、果物がスーパーボールのように軽快に跳ね回るわけはない。ボテボテと坂を転がる様が、TANGO一流のギャグになっているわけだ。

どのような面白さなのかは、一度ご覧頂きたいが、このTANGO以外では、「バトルフィールド2」というコンバット・ゲームもBRAVIAのパロディCMをオンエアしている。 こちらはホセ・ゴンザレスの「Heartbeats」(BRAVIAのテーマ)にのせて、 CGの兵士が大量に坂を下ってくるという、いささかシュールな表現になっている。

こういった「パクリCM」まで生み出され、それらもヒットしてしまうことから、本家本元がどれほどの反響だったかが推察されようものだが、この「BRAVIA現象」とでも言えそうな一連の動きには、もうひとつ注目すべきポイントがある。

それは、素人(視聴者)による、たくさんの「パロディCM」が生み出されたこと。そして、いまはそれらをYouTubeで簡単に見られること。 YouTubeで「BRAVIA」を検索すると、本編やシリーズ第2弾、メイキング、そして先ほどのTANGOのようなパロディCMが、驚くほどたくさんアップされているが、その中に素人が作った投稿ビデオ映像がチラホラ混じっている。

例えば、「Tribute to the Sony Bravia Bouncing Balls advert」とタイトルされた映像にジャンプすると、家庭用カメラで撮られたとおぼしき “BRAVIA風”のポエジーな映像が、「Heartbeats」にのせて流れるのをご覧いただけるだろう。

こういった「作品」はもちろん、何かを「広告」する目的で作られているわけではない。BRAVIAにインスパイアされた視聴者が、自分でもやってみたくなり、勝手に映像を制作してYouTubeにアップしている。言ってみれば、ただそれだけのものである。

しかし、こういった映像が多数寄せられるという現象は、企業の制作したものが一方的に流され、視聴者はそれをただ受け取るという、これまでの一方通行の CMのあり方を根本から揺さぶるという意味で、画期的な出来事だと言えるだろう。

受け手がその位置にとどまらず、自分の解釈をYouTubeというメディアを使って発信し、そのメッセージがさざなみのように世界に広がっていく。広告主がそれを的確に分析すれば、自社ブランドが消費者にどのようなイメージを持たれているか、把握することだってできるかもしれない。 いまやYouTubeは、広告のコミュニケーションをより深める装置にもなっている。

以下でご覧いただけます。

●TANGOというイギリスの清涼飲料のパロディCM


●「バトルフィールド2」というコンバット・ゲームのパロディCM


●「Tribute to the Sony Bravia Bouncing Balls advert」 アマチュアによるものと思われるパロディ映像


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