Entry

マウスもファッション・・・いたずらが大ヒット商品へ

 

<記事要約>

ビジネスアイデアは、いたずらからも誕生する―――。

経済学を学ぶ2人のドイツ人学生。2人は、実習先の銀行で、コンピュータのマウスに色を塗ってしまった。翌朝、社員たちは、怒るどころか色付きマウスを絶賛。「グレー1色が華やかになった」と口をそろえた。

ここから、一風変わった色と形のマウスを売るアイデアが生まれた。その後、2人は2003年にPat Says Now社(http://www.pat-says-now.com)を起業。チューリヒに本社、ドイツ・エッセンに支社を構える。

まずは、企業向けにオリジナル版の制作を開始。この企業向けは、すでに30万個を販売。そして2005年中頃から、一般向けの普及版を作り始めた。普及版は現在25種類で、世界20カ国のデパート、ギフトショップ、文房具店で発売中。

同社は、2006年のスイス・マーケティング・トロフィー小企業部門で、金賞を受賞。また、世界で最も高額なホワイトゴールド製のマウスも創り出し、さらに注目を集めている。

2006/12/27/NZZより  (チューリヒの日刊紙Neue Zürcher Zeitung。知識層が読む高級紙として有名。発行約16万部)




<解説>  (岩澤里美、2月にインタビュー取材)

Pat Says Now社は、現在社員10人のスモールビジネス。オリジナル版のヒットに続き、普及版も30万個を販売している。

この小企業のマウスが、世界中から絶大な人気を誇る理由の1つは、優れたデザイン性。担当は、ファッションデザイナー、グラフィックデザイナー、建築家だ。

写真の、桜のデザインのマウス(普及版)も、なかなか美しい。数年前に話題になった、あの桜デザインのルイ・ヴィトンのバッグよりも、何倍もオシャレだ。同じ桜なら、私は迷わずこのマウスを買う。

桜はオリエンタルの象徴。「愛」や「花」といった漢字をプリントした商品と同様、西洋の人の心を引き付ける。Pat Says Now社でも、人気のデザインになると見込んだ。豊富なマウスのラインナップに、2種類の「Cherry Blossom」が並ぶ。普及版は、2月の時点では37種類に増えている。常に目新しさをと、新しいデザインを毎年加えている。

さて、良質商品をどう売るか。戦略が必要だ。小企業のPat Says Now社は、予算が少ない。大々的なPRは難しいし、インターネットでも見る人は限られる。そこで思いついたのが、マウスを「ファッションアイテム」として売ること。

最新トレンドを紹介するファッション雑誌でマウスを紹介してもらえるよう、とにかく手紙を送った。これが功を奏し、ヴォーグ、コスモポリタンを始め、ドイツ語、英語、フランス語の雑誌や新聞でマウスが続々と紹介されるようになった。

また、マウスの販売場所もコンピュータショップが中心ではない。フランスのボン・マルシェ、N.Yのコンランショップといった集客力の強い店、人々が日常的に足を運ぶギフトショップや文房具店だ。有名デパートでの販売には、仲介人を立てた。たとえば、ロンドンのセルフリッジ百貨店に対しては、この仲介人がマウスを陳列するようにデパート側と交渉を続けたという。 

 “よい商品”は“よい戦略”で世に出されたが、もう1つの勝因も忘れてはならない。それは“需要がある”ということ。この点も、Pat Says Now社は優れた見識を持っていた。マウス自体の流行だ。

お手持ちのマウスをご覧いただきたい。オプティカル(光学式)マウスを使っている方たちが多いだろう。そのため、実は、マウスパッドはもう必要ない。しかし、みな惰性で使っている。

マウスパッドが不要なら、「マウスに色を付けたり、メッセージを入れたりすればいい」。CEO ディヤク・ルエンツ氏とパトリック・ストゥルンプフ氏の起業は、実習先でのいたずらから3年後。この3年の間、こんな目からウロコの発想を、2人以外に気づいた人がいなかった。

「遊びの発想が、良質なヒットを生む」という法則が、Pat Says Now社にもぴったりと当てはまる。ヒット商品をお考えの方々、働き詰めもいいけれど、どうぞ遊び心は忘れずに。



  • いただいたトラックバックは、編集部が内容を確認した上で掲載いたしますので、多少、時間がかかる場合があることをご了承ください。
    記事と全く関連性のないもの、明らかな誹謗中傷とおぼしきもの等につきましては掲載いたしません。公序良俗に反するサイトからの発信と判断された場合も同様です。
  • 本文中でトラックバック先記事のURLを記載していないブログからのトラックバックは無効とさせていただきます。トラックバックをされる際は、必ず該当のMediaSabor記事URLをエントリー中にご記載ください。
  • 外部からアクセスできない企業内ネットワークのイントラネット内などからのトラックバックは禁止とします。
  • トラックバックとして表示されている文章及び、リンクされているWebページは、この記事にリンクしている第三者が作成したものです。
    内容や安全性について株式会社メディアサボールでは一切の責任を負いませんのでご了承ください。
トラックバックURL
http://mediasabor.jp/mt/mt-tb.cgi/85