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ハリケーンが生んだ、清掃業の風雲児

  • モチベーション・コンサルタント&コーチ(米国在住)

  • 菊入 みゆき

<記事要約>


清掃業界に、新しいアプローチで参入した会社がある。弱冠31歳のシドニー・トレス氏が率いる、SDT Waste & Debris Services LLCだ。同社は、この1月から、ニューオーリンズ、フレンチクォーターのゴミ収集と路上清掃の契約を勝ち取った。この事業は、長年にわたり業界最大手のWaste Management Inc.が請け負ってきたが、昨年の契約切れを機に、SDT社に切り替えられた。

SDT社は、洒落たユニフォームを着込んだスタッフ、磨き上げられたこぎれいなトラック、におい消しのためのレモンやユーカリの香り付けなどの新しい戦術で、清掃業界のしきたりに揺さぶりをかけている。今後はテレビコマーシャルなどの宣伝により、ルイジアナ州の他の地区、そして他州にも事業を拡張したい考えだ。


2007/2/20 THE WALL STREET JOURNALより(全米・世界に影響力を持つ経済新聞。1889年創刊)<
記事リンク http://startup.wsj.com/columnists/enterprise/20070221-bounds.html

SDT社サイト http://www.sdtwasteanddebris.com/index.html

<解説>


SDT社の徹底した清掃は、10年来の地元住人にも、「ここがこんなにきれいになったのは初めて」と言わしめる。このユニークな清掃会社は、地元で不動産業を営んでいたシドニー・トレス氏が、ハリケーン、カトリーナからの復興過程で立ち上げた。


トレス氏は、1975年生まれ。20歳でビル改装ビジネスを始め、ニューオーリンズに3つのホテルを有するようになる。コンドミニアム開発にも着手。ダウンタウン近くに70戸の建設プロジェクトを計画し、難題と言われた許認可を取得、竣工前に全戸完売という快挙を成し遂げた。ここまでは、サクセスストーリーの見本のようだ。


ところが、着工しようという、まさにその日、ハリケーン・カトリーナに見舞われる。プロジェクトは延期。トレス氏と社員は苦境に立たされる。しかし、彼はめげなかった。ハリケーンの難を逃れた3つのホテルと、新たに調達したトレーラーハウス内に、仮説収容施設を作り、運営を始めるのだ。


このとき、ゴミ処理を依頼した業者から、「クレージーな価格を要求された」トレス氏は、なんと、自分でやろうと思い立つ。あたりのゴミの山を見て、ニーズがあると見たのだ。


トラック1台、ダンプ2台を購入、自分の名前と電話番号を付けて走らせた。すぐに、住人や地元の会社から、依頼の電話がかかり始めた。SDT Waste & Debris Services LLCの誕生である。

ニューオーリンズをきれいにして観光客を呼び戻したいという、行政の意向とも一致し、同社の業績は好調だ。2007年の売上は2500から3000万ドルを見込む。




トレス氏の成功要因は様々考えられるが、出色はハリケーン後の混乱と絶望の中で、需要を見つけ、行動を開始したところだ。当時被災地は災害の惨状に加え、略奪などが横行する無法地帯でもあったと伝えられる。そんな中で、「これが求められているはずだ」と考え、行動に移す。その結果、まわりにも自身にも利益をもたらす。人間の持つ可能性について考えさせられる。仕事をするというのは素晴らしいことだとも思う。


ニューヨーク・ヤンキースの松井秀喜選手は、どんな状況でも、「それがコントロールできるものか、できないものか」を考えるという。例えば不調のときに、ファンから「結果を出せ」とか監督から「ヒットを頼む」と言われたとする。松井は、「ファンや監督はコントロールできない。しかし、結果を出すために努力することはできる」と考え、コントロールできることに注力すると、スポーツドクター辻秀一氏は言う。


トレス氏にも同様の思考パターンがうかがわれる。頓挫したプロジェクト、目の前の悲惨な現状、法外な見積はコントロールできない。ではコントロールできることはなにか。自分だ。自分の行動はコントロールできる。それに集中する。


ハリケーン被災の悲惨さには及ばなくても、「もう、だめだ」「なぜ自分がこんな目に遭うんだ」と思うことは、我々の日常にもある。トレス氏だったら、松井だったらどうするだろう。


「なにが求められているか」

「コントロールできることはなにか」


非常事態のときだけでなく、普段から持ち続けたい問いである。


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