Entry

空飛ぶカンガルー「カンタス航空」買収(TOB)に対する国民感情

<記事要約>

そろそろ、カンタス航空買収のためのTOB(株式公開買い付け)は失敗だったという頃ではないだろうか? 同社の株価はさらに下落して今朝の時点で5.08豪ドルとなり、買い付け価格の5.45豪ドルを37セントも下回っている。

財界、政界、マスコミと、買収反対派の数は日に日に増えている。テリー・マッククラン(ジャーナリスト)の例えのように、ほかにふさわしい代わりの家を見つけるのが非常に困難だとしたら、どうして素晴らしい家を売ろうとするのか?

TOBに応じれば、株主は高額の税金を支払い、資金をほかの投資に移動しなければならない。

2007/3/13 Crikey(オーストラリアのオンライン専門メディア)より


<解説>

カンタス航空のTOB実施が発表されたのは、12月半ばのこと。国際コンソーシアム「エアライン・パートナーズ・オーストラリア(APA)」による買収計画は、世界各地で航空業界の再編が進む中、大きな注目を浴びている。

懸念されたオーストラリア競争・消費者委員会(ACCC)や外国投資審査委員会(FIRB)の介入もなく、今月上旬には、オーストラリア政府も買収の承認を正式に発表した。

これで法律的な問題はすべてクリアだ。

だが、国民感情はそうあっさりとはいかない。市場調査会社エーシーニールセンの調査では、56%が買収に「反対」、31%が「支持しない」と答えている。

「空飛ぶカンガルー」の異名を持つカンタス航空が一優良企業に過ぎないだなんて、この国ではたぶん誰も思っていない。株主に判断を委ねる方針を政府が明らかにしたときも、野党のグリーン党党首がこんな風に批判をした。

「ハワード首相は、チャンスがあればオペラハウスもウルル(エアーズロック)も売るんじゃないか?」

カンタス航空の創業以来のキャッチフレーズは、スピリット・オブ・オーストラリア(オーストラリアの精神)。1995年に完全民営化された後も、大半のオーストラリア人にとって、「おらが航空会社」であることに変わりはない。

テーマ曲の「I still call Australia Home」は、パブロフの犬的に人々から感情的な反応を引き出すフシギな力を持っている。日本で生まれ育ったわたしだって、思わずぐっと来てしまうくらいなのだ。

●I still call Australia home (QANTAS, 1997)

●I Still Call Australia Home 2004 Director's Cut

頭でグローバル化を理解していても、実態は外資という企業連合に、お気に入りのトレードマークのトップ10に入る“空飛ぶカンガルー”の運命をおいそれと任せることなんて、できっこない。もちろん、買い付け価格が低すぎると主張する大株主の思惑は、別のところにあるのだろうけれど。

TOBに応募した株主の持ち株比率は、3月23日時点で約29%。買い付け期限は、再び延長されて4月20日となった。株式の90%を取得できなかった場合、買収案は撤回されることになっている。この記事ほどはっきりした論調ではないものの、成立に懐疑的な見方をする声が増えてきた。さて、どうなることやら。



  • いただいたトラックバックは、編集部が内容を確認した上で掲載いたしますので、多少、時間がかかる場合があることをご了承ください。
    記事と全く関連性のないもの、明らかな誹謗中傷とおぼしきもの等につきましては掲載いたしません。公序良俗に反するサイトからの発信と判断された場合も同様です。
  • 本文中でトラックバック先記事のURLを記載していないブログからのトラックバックは無効とさせていただきます。トラックバックをされる際は、必ず該当のMediaSabor記事URLをエントリー中にご記載ください。
  • 外部からアクセスできない企業内ネットワークのイントラネット内などからのトラックバックは禁止とします。
  • トラックバックとして表示されている文章及び、リンクされているWebページは、この記事にリンクしている第三者が作成したものです。
    内容や安全性について株式会社メディアサボールでは一切の責任を負いませんのでご了承ください。
トラックバックURL
http://mediasabor.jp/mt/mt-tb.cgi/106