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アートの今がここにある アートフェア東京2007

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小出 茜/カイカイキキ/2007

●小出 茜/リスカ/カイカイキキ/2007

●copyright 2007 Akane Koide/Kaikai Kiki Co., Ltd.
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昨今、深夜の六本木界隈は、タクシーを捕まえるのに苦労するそうだ。
「東京ミッドタウン」オープン、外資系ホテル進出ラッシュ、─ネオバブルの到来なのか・・・

4月10日から3日間にわたり、アートフェア東京2007が東京国際フォーラムにて開催される。古美術・工芸から日本画そして近代洋画や先鋭的な現代アート、写真までジャンルを越えて、約100の選りすぐりの画廊がトップクラスのアートを展示する日本最大の見本市だ。工芸、日本画といっても、現代的なテイストを取り入れたチャレンジスピリット溢れる作品も多く出品されるそうだ。

気に入った作品を、その場で買うこともできる。そこが、鑑賞のみの美術館巡りとは異なる特徴だ。街に散在する100軒の画廊や美術店を回るのは大変な労力と時間がかかる。が、アートフェアなら限られた時間で、多様な作品に出会える。ギャラリーは、敷居が高くて入りづらい、という方も、ここなら気軽に見て回ることができ、ギャラリストとのコミュニケーションも取りやすい。

アートフェアをより楽しむための下記の関連イベントやサテライト企画も用意されている。

<プロモーション・プログラム「プレ・アートフェア東京2007」>
アートフェア東京2007に出展する選りすぐりのギャラリーの作品がインターネットで購入できるプレ・アートフェア。[期間] 2007年4月7日(土)まで

<サテライト企画「会場ガイド・ツアー」>

<トーク・シリーズ「ダイアローグ in アート」>

詳細は下記URL参照。
http://www.artfairtokyo.com/   公式ブログ: http://artcafe.weblogs.jp/

●開催場所:東京国際フォーラム 地下2階展示ホール1〒100-0005 東京都千代田区丸の内3丁目5番1号代表電話 : 03-5221-9000 東京都千代田区丸の内3-5-1

──アート業界の現状を伺うために、アートフェア東京2007のエグゼクティブ・ディレクター                   である「辛 美沙(シン ミサ)」氏にインタビューを行った───

【辛 美沙 プロフィール】
ニューヨーク大学大学院芸術経営学修士課程卒業。専門はアートマネジメント。ニューヨークにて現代美術の分野におけるPR,マーケティング、およびファンドレイジングを専門とするリヴェー・ライカード社に勤務。1999年、拠点を東京に移し、アーティスト・イン・レジデンス、アーカスのディレクター、森美術館広報マネージャーおよびディベロップメントマネージャーを経て独立。第二回横浜トリエンナーレではディレクターの磯崎 新とともに副ディレクターを務めた。2005年、株式会社Misa Shin&Co.を設立。現在、アートならびに建築関連プロジェクトのコンサルテーションおよびマネジメントに関わる一方、2005年11月よりアートフェア東京のエグゼクティブ・ディレクターとして活躍。東京芸術大学において、アートアドミニストレーションの教鞭もとる。


──────── (辛 美沙 談)

初回のアートフェア東京は、2005年8月に開催されたが、トータルで約3万人規模の集客という盛況ぶりであった。今回は、出展料として9平方メートルのブース1コマが45万円という値段で提供されたが、昨年の6月時点で、SOLDOUT。多くのギャラリーの参加申し入れを断らざるを得なかった。注目度は増している。

画廊にとって、メジャーなアートフェアに参加することの重要なメリットは露出である。潜在的なコレクターの目にふれる可能性が高いし、海外の美術館から展覧会のオファーがくることもあるだろう。

古美術からコンテンポラリー・アートまでをカバーする月刊業界紙「アートニューズペーパー」に掲載された興味深いランキングがある。美術館における展覧会ごとの入場者数を比較するために、トータル入場者数だけではなく、それをトータルの日数で割り、1日平均の入場者数を割り出してランキング化したものだ。2006年の上位は下記のようになっている。

1)6,446人 The Price Collection:Jakuchu      Tokyo National Museum(Tokyo)
2)6,324人  Leonard Foujita            National Museum of Modern Art(Tokyo)
3)6,297人  Klimt,Schiele,Moser,Kokoschka                  Grand Palais(Paris)
4)6,296人  Shaping Faith:Japanese Buddhist Statues
                                                         Tokyo National Museum(Tokyo)
5)6,184人  Edvard Munch:the Modern Life of the Soul 
                                                      Museum of Modern Art(New York)

6)6,039人  Faith and Syncretism               Tokyo National Museum(Tokyo)
7)5,448人  Ingres,1780-1867                                         Louvre(Paris)


何と世界のトップに輝いたのは、ロンドンでもパリでもなく、東京のプライスコレクション「若冲と江戸絵画」展(東京国立博物館)だった。しかも、上位7位までのうち、4つが東京で開催されたものであった。

この事実からわかるように、日本人は美術を鑑賞することを好む人々が多いということがいえる。しかし、鑑賞することが、作品の購入にダイレクトに結びついているわけではなく、日本のアート市場は海外に比して小さい。残念ながら、日本においては、芸術は美術館で鑑賞するものという位置づけになっていて、購入するものだという意識は低い。日本人アーティストの作品でも、海外のほうが高値で売れるケースも多い。

原因として、日本の狭い住宅事情や賃貸借住宅における不自由な使い勝手などが挙げられるが、業界として、個人コレクターの開拓、育成を怠ってきた“つけ”が響いている。ライフスタイルとして、個人がアートをコレクションして楽しむ生活が定着していないのだ。

画廊にはアーティストと直接契約して企画展やアートフェアなどでビジネスを展開するプライマリーギャラリーと、ピカソのように既に市場に流通している作品をコレクターやオークションから仕入れて販売するセカンダリーギャラリーがある。現代のアーティストの多くは、プライマリーギャラリーに所属している。

ギャラリーの役割は、アーティストが作品づくりに専念できるような環境作りにある。すなわち、アーティストの作品管理および作品販売のための多様なマネジメント業務を請け負う。

多くのギャラリーは、作品の販売に関して美術館の購入に依存している。
一般のビジネス用語にあてはめれば、「B to B」のモデルだ。これに対して、個人コレクターへの販売は「B to C」ということになる。

通常、「B to B」のほうが、1回の購入金額と利益額が大きく、広告費、営業経費などが少なくて済むため、効率がいいモデルといえる。だが、デパート美術館や企業系美術館は、景気の後退がすぐに縮小、作品購入予算の削減に繋がりやすいし、公立の美術館も自治体の財政難が深刻化する中で、作品購入の予算は削られてしまう場合が多い。

そうなると、途端に弱小のギャラリーは経営難に陥ってしまうことになる。

やはり、安定したギャラリー経営の達成には、時間と労力はかかっても個人コレクターの層を厚くして、裾野を広げていく方策が要求される。これは、業界全体の課題として考えていかなければならない。

日本では、いまだアートをビジネスと関連づけて語ることが憚られるような雰囲気もある。 一方で、アートの持つ大きなポテンシャルに気づき、社交やビジネスのツールとして、また空間の個性を演出するアイテムとして、アートのある生活を大いに 楽しむ人も増えてきている。

日本は、ビジネスシーンや経済と密接な繋がりをもつようになったアートを一つの産業と位置づけ、戦略的にアプローチしていくべきだろう。企業もまた然りだ。

音楽や書籍などのコンテンツマーケットとアートマーケットとの決定的な違いは、アートのほとんどが、「1点モノ」であり、大量生産、大量消費というヒット狙いのマーケットとは明確に異なる点である。

それだけに、アーティストの経済的成功は、ハードルが高く、一部の脚光を浴びるアーティストの陰には多くの貧しいアーティストが存在する。

経済力の伴わない産業は人材も育たず、国際競争力も高めることができない。

アーティストの育成と支援は、作品の鑑賞も大事だが、「作品を買うこと」のほうが、より、大きな支援となることを認識してほしい。

アートを購入する動機として、愛情(LOVE)のみが正しいものだと決め付けることはない。値上がりを期待して売買されるコモディティーという側面も含まれているのがアートなのだ。

最近の世界的な趨勢として、美術オークション会場は来場者があふれ、アートフェアの開催数は急増している。

グローバル経済の恩恵にあずかったヘッジファンド長者、オイル長者、不動産長者、IT長者など、スーパーリッチの台頭によりバイヤーは拡大している。

現在のアートマーケットの活況を「バブル」と斬り捨てる向きもある。

確かに、世界中からマネーが流れ込んでいる中国のアートマーケットは過熱しすぎているように見受けられる。中国人にとって、初めて体験する「バブル」を目の当たりにすれば、80年代の日本がそうだったように、後先考えずに、儲け主義の行動に走ってしまう傾向になりがちなことは否めない。

中国のアーティストを取り巻く環境、インフラも成熟しているとはいえず、大きな反動リスクが想定されるマーケットとして、バイヤーの警戒心は強い。

その点、日本は、一度バブルの経験を経て、その教訓が生かされているせいか、浮ついたところは、あまり感じられない。海外のバイヤーからも、アジアで最もソフィスティケートされた市場として信頼されている。

ネットで、アート界の情報を取得するとしたら、下記のサイトをおすすめする。
この三つのサイトの情報を見れば、アートの今を把握することが可能だ。

「REAL TOKYO」   http://www.realtokyo.co.jp/japanese/

「Tokyo Art Beat」 http://www.tokyoartbeat.com/

「artscape」      http://www.dnp.co.jp/artscape/index.html


雑誌からの情報取得に関しては、主な媒体として下記のものがある。
「美術手帖」、「月刊 美術」、「ART It」、「アートコレクター」、「芸術新潮」

                                           ──────────── 以上、辛 美沙 談


アートフェア東京は、コンシューマー向けの商品開発に携わっている企業人にとっても必見のイベントだ。もはや、商品は、機能・性能だけで勝負できる時代ではない。

デザインを含めたクリエイティブが、消費者の感動を呼ぶ鍵を握っている。

多様な作品をシャワーのように浴びることで、ヒットに繋がるインスピレーションが得られるとしたら、入場料は安いものだ。

辛氏の話を伺って、日本のアートマーケットが、もっと、活性化してほしいと感じたし、海外からの注目度が高まっている現在、世界に誇れるアーティストが、どんどん出てきてほしいとも思った。

日本には、ぬいぐるみ、ミニカー、フィギュア、切手、キャラクターグッズ、ブランド品などのヘビーコレクターが多数存在する。ただ、それによって潤うのは、企業であることが多い。

優れたアーティストを多く輩出するためには、成熟したアートコレクターの存在が欠かせない。

アートフェア東京では、10から20万円程度のリーズナブルな価格で購入できる作品も、数多く出展されるそうだ。この機会に気に入った作品を購入することで、ギャラリストやアーティストとの接点を持ち、ライフスタイルとして、日常にアートを取り入れてみるのも一興だ。物質的な豊かさでは得られない、精神的な充足感が得られるかもしれない。もしかしたら、将来、ビッグアーティストに成長していくかもしれないという楽しみもある。

マスメディアは、「村上 隆」や「奈良 美智」といった海外で大成功したアーティストばかりを取り上げるので、華やかなイメージを持つ人が、増えていると思われるが、そのような人物は、ほんの一握りにすぎない。

お金がなくて、作品を購入できない、という人でも間接的にアーティストを支援する方法がある。それは、このエントリーURLを知人、友人に知らせてあげること、あるいは、自身でブログを運営されていれば、このエントリーURLをリンクしていただくことだ。

アートフェア東京2007への入場者が増えれば、アートに興味を持ち、作品を購入する人も多くなるだろう。

   

 


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