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アメリカの中国語フィーバー、CEOの子どもたちを悩ます

<記事要約>

グッチグループのCEO、年商50億ドルのジョーンズアパレルのCEO、ゴールドマンサックスの前社長など名だたる企業のエグゼクティブたちが、娘、息子に中国語を習わせようと必死だ。

中国語は、今後のビジネスに絶対必要だと考えているからだ。学校で中国語クラスを取らせることはもちろん、留学させたり、中国出張に同行させたり、あの手この手で子供に迫る。

ベビーシッターの語学力にも、細心の注意が払われる。ジョージ・ソロス氏との共同基金設立者であるジム・ロジャース氏は、3歳の娘のために新聞広告まで出して、中国語を話せるベビーシッターを探した。応募者選考では、中国語を話せる友人に審査を依頼するという念の入れようだ。

アメリカの昨年の対中輸出額は32%アップ、中国に住むアメリカ人も増え続けている。中国語はいまや、アメリカにおける習得“マスト”言語なのだ。

2007/3/17 THE WALL STREET JOURNAL(全米・世界に影響力を持つ経済新聞。1889年創刊)


<解説>

成長を続ける中国経済。今年のGDP成長率も、多少減速気味とはいえ10%と予測される(アジア開発銀行)。

このところのアメリカでは、みなが中国中国と大騒ぎだ。いわんや、中国のすごさを日々実感するCEOたちにおいてをや。彼らの矛先は、自らの子どもたちの教育にも向かう。中国語習得に向けて、強いプレッシャーをかけるのである。

投資銀行ニューハーバーのCEO、ジェイ・ビーティ氏も、そのクチだ。息子のマシューが6歳のとき、リトルリーグに入りたがる彼をアイスクリームで釣り、中国語のクラスに登録させた。

11歳の今、50余りの単語が言えるようになった。問題は漢字だ。「ライティングが、ほんとうにたいへんなんだ」とマシューは言う。書く、という段になると、とたんに学習が遅れがちになる。

それはそうだろう。日本人だって、漢字には苦労する。アルファベットの世界の住人が、漢字を書けるようになるには、相当な努力が必要だ。専門家によれば、中国語の習得には、フランス語やスペイン語のそれの3から4倍の時間がかかるという。

そんな難事業を、親に押し付けられる子どもは、たまったものではない。彼らはグチる。「フランス語を習うほうが楽じゃないか」「練習相手がいないよ」「北京ってあんまり行きたくないし」などなど。

ホームシアターなどの周辺機器メーカー、シマ・プロダクツを率いるイレーナ・ダイアモンド氏も、今まさに嫌がる娘を説得中だ。今年もう一度、秋の中国語クラスを受けさせたい。しかし、抵抗する娘の言い分も、もっともなのだ。「中国語を習ってるなんて、家族の中でも私一人よ。どうやって家で会話を練習すればいいのよ?」

CEOたちは言う。「中国市場への参入は、わが社の成長に重大な影響を及ぼす。将来、ことばの問題で、中国のしきたりをきちんと理解できず、顧客の信用を失うなどという事態を避けたい」

なるほど。それももっとも。しかし、そんなに重要な中国語なら、自分で勉強したらどうか。おのずとそんな疑念が湧く。だが忙しいCEOたち、どうも自分で勉強しようという気はないらしい。

グッチグループのCEOロバート・ポレット氏も、自身は中国語ができない。中国に出張しても、当地の25店舗の従業員と直接話せないのだ。だから、娘のフランシーヌがハーバードで上級中国語クラスを受講していることが、うれしくてたまらない。

そんなポレット氏も、一度だけやる気を見せたことがある。娘の中国語クラスに同席したのだ。やはり、自分で話せるに越したことはない。しかし、ここで大失態。CEOは、授業中にいびきをかいて居眠りをしてしまったのだ。娘に蹴られて気づいたポレット氏曰く、「時差ぼけでね。恥ずかしいよ」

やはり、若くて覚えの早い子どもたちに望みを託すのが得策なのか。

国も中国語教育には力を入れる。昨年新設された、国から学校区に与えられる語学教育の奨学金70件のうち、半分以上が中国語関係だ。

はたしてCEOの思惑通り、子弟たちは、将来中国語がペラペラになり、語学力を武器に、実りある対中ビジネスを展開するようになるのだろうか。そのためには、フランス語の数倍という習得期間を、意欲を失わずに乗り切らねばならない。さもなくば、80年代の日本語習得ブームの二の舞だ。


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