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NO STYLE 広告論 アジアのコマーシャル Part1

世界の広告のいま一番面白いところに触れていただくため、昨年のカンヌ広告祭の
上位入賞作を中心に紹介してきたが、今回は「アジアのコマーシャル」について
書いてみたい。

広告の「世界一」を決めるカンヌ同様、「アジア一」を決める広告祭が存在する。
それがアド・フェスト(Asia Pacific Advertising Festival)だ。

毎年3月頃開催され、10回目となる今年は、日本からの出品作である
TOYOTA「Humanity」がグランプリを受賞。クルマの安全性を第一に考える
トヨタ社員の“ホスピタリティ”を、ユーモラスに、そしてちょっと
グロテスク(海外から見た日本人という意味で)に描いた快作で、昨年のカンヌ
でもシルバーを獲得するなど、世界の広告賞を取りまくるCMになった。企画は
博報堂、演出はNe-o(イギリスのディレクター)だ。

●TOYOTA「Humanity」


今年はグランプリこそ日本だったが、例年アド・フェストで他を圧倒しているのは
タイのコマーシャル。TOYOTAについてはいずれ書くこととして、今日はタイの
コマーシャルパワーのすごさに触れたい。

例えば昨年のグランプリだったSmooth E「LOVE STORY 」(カンヌでもゴールド)。
これはなかなかの名作だった。4話からなる90秒のドラマ仕立てのコマーシャルで、
内容と言えば、ニキビ面でやんちゃな女の子が、「Smooth E」の洗顔フォームを
使ってから、憧れの男子のハートを射止め……というたわいもないものなのだが、
コミカルなディテールで笑わせる。

まず、主人公のキャラクターがリアル。いまの日本にはいなさそうだが、
もしかするとタイになら……と思わせる女の子。冒頭、父親の営む運送会社の現場を
指揮する様子が数カット描かれ、ここで主人公の男勝りの性格がほのめかされる
のだが、これなど日本のコマーシャルではお目にかかれない光景だ。
仮にあったとしても、それはシュールなギャグとしか受け止められないだろう。

こういったなんでもないシーンに、それぞれのお国柄や文化、経済事情まで
映ってしまうのが、コマーシャルの面白いところだ。この後主人公は、
薬局の女性店員に「Smooth E」の洗顔フォームを進められ、可愛く変身するのだが、
その変身っぷりも「それなりに」美人な感じで、逆に親近感が湧く。何話かめに、
その女性店員が、実は男という事実も明かされるのだが、これなどはゲイの多い
タイのお国柄を反映したギャグである。

ドラマ中何度か、薬局の店員がこれ見よがしに「Smooth E」のパッケージを
披露するシーンがインサートされ、そのわざとらしさでも笑いを誘う。
「自社の商品はいい!」と視聴者に強引に押し付け、嫌われることの多い「広告」
という存在を逆手にとった確信犯的アプローチだ。「ドラマ風の映像にしていますが、
これはあくまでCMなのですよ」と自ら暴露してみせることで、笑いに転換し
視聴者の共感を得る作戦と言えるだろう。

ほかにもネタはたくさん仕込まれている。まだ見ていない方は、とりあえず
YouTubeで楽しんで頂きたいが、このCMは本国タイでも大人気だったらしい。
聞くところによるとDVDまでリリースされたそうだが、「Smooth E」を見ると、
タイでは面白いテレビCMを流せば国民的な反響が起こり、商品も大いに
売れているだろうことが想像される。

「高い広告費を投じてCMを流しても、思ったほど見てもらえない」
「CMがヒットしたのに商品が動かない」という関係者の嘆きの声を聞くことの多い
我が国とは、そこがけっこう違う。日本の80年代のように、タイではいま
コマーシャルが元気なのだ。

昨年のクーデターにより、今後また状況が変わってくるかもしれない。
いい面と悪い面があるだろうが、タイの活発な経済成長と表現に対する寛容さは、
前首相タクシンの政策によるところが大きいからだ(ちなみにアド・フェストは
例年、タイのパタヤビーチで開かれている)。それにしても、ここ10年
(90年代後半以降)のタイのコマーシャルの勢いは凄まじいものがある。

その特徴を簡単に言うなら、「人間的でシンプル」ということになるだろうか。
どれも人間くさい「笑い」が全開で、その点、キンチョーをはじめとする、
関西発のコマーシャルに近いところもある。映像のディテールへのこだわりも
ハンパではない。

もちろん、いまやインターネットを介して世界中で見られているわけだが、
そういったヒットコンテンツは、そうとう考え抜かれた上で作られた、
クオリティの高いエンタテインメント作になっているということ。それは
タイであれ、日本であれ、アメリカであれ世界中みな同じ。国境を越えるのは、
豊かなクリエイティブなのだ。


YouTubeで簡単に視聴できる、ここ数年のタイの私的「Best 3」
を以下にあげておきます(あげ出すときりがないので、とりあえず3コ)。


●Smooth E「LOVE STORY」(2006/アド・フェスト「グランプリ」) 

 →名作! CMで“人間”を描いてる。 監督はタイの鬼才タノンチャイ。


●Soken DVD「KILL BILL」ほか(2004/アド・フェスト「金」・カンヌ「金」)

 →タイのDVDはこんな感じなんでしょう。


●UNI President Green Tea「Worms」(2004/アド・フェスト「銀」・カンヌ「金」)

 →商品が緑茶なので舞台は日本。ビミョーな誤解(誇張?)が笑いを誘う。



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