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副業規制の是非 ─日米の社内ルール徹底比較

週刊ダイヤモンド誌が「副業時代がやってきた」という特集を組んだのは2003年9月のこと。当時のインターネット調査では、副業者16.6%という結果が出ている。

一方で総務省統計局による「就業構造基本調査」がある。最新で2002年の結果によると「副業を持っている雇用者」はわずか3.6%。10年前の4.8%から大幅減少だ。

このような数字のギャップが表れる原因の1つには、就業規則における副業規制があるのではないだろうか? 規則上は副業できない。しかし副業したい。しなければならない。多くの人々が非公式に副業しているのが日本の現状ではなかろうか。

一方、アメリカはどうだろう? 2007年労働省統計局のデータでは、複数の仕事をする人(multiple job holder)は、労働人口全体の5.3%。自由の国、会社に依存しない社員、皆が好き勝手に副業しているイメージがあるものの、数字の上ではさほど多くない。

そもそも会社員は副業できるのか? ここで日米の副業規定をとりまく現状を比較、検証してみたい。


■ 副業の可否
日本の場合:8割強の会社が副業を規制、うち5割強が禁止
2004年、独立行政法人、労働政策研究・研修機構(JILPT)は「企業における副業の取り扱い」(http://www.jil.go.jp/event/ro_forum/resume/060131/ogura.pdf)について、5000社(うち有効回答1111社)を対象に調査を行った。

副業を「禁止している」と答えた企業は50.4%。「禁止していない」が16%、「届出が必要」が計4.5%、「許可が必要」は計28.5%という結果が出た。

合わせて83.4%の企業が、禁止、許可、届出、いずれかの形で副業を規制している。

米国の場合:副業は自由、約半数の会社が副業に関する規定あり
(注:副業規制に関して政府レベルの実態調査はない。規制は州、地域によってまちまちであるが、ここでは米国の一般論として記述する。)

副業禁止は事実上ない。消防士、警察官を含む公務員の副業さえも認められている。日本では公務員法を根拠に公務員の副業は原則禁じられている。

基本的考え方として、就業時間外は個人の時間とみなされる。その時間は、副業であろうと従業員が好きなことをして構わない。副業が従業員のパフォーマンスの妨げにならなければ、会社は口出しできない。

日本のような規制はないが、副業に関する規定はある。

人事関係者を対象にした人材コンサルティング会社BLR Inc.のオンライン調査結果(http://hr.blr.com/poll.aspx?poll=360)では、「副業に関する規定がありますか?」に対して、「ない、必要としている」が40%、「ある、実施している」が29%、「あるがさほど実施していない」が20%、「ないがあればいいと思う」が11%という回答結果が出た。

まとめると、規定が「ない」が51%、「ある」が49%。約半数が副業に関する規定を設けていることになる。


■ 副業に関する規定の中身
日本の場合:就業規則に副業の規制ありき
就業規則に「会社の承認を得ないで他の会社に雇い入れられることを禁ずる」という条項が置かれるケースが多い。82% (前出:JILPT2004年調査)の企業が、就業規定もしくは内規、通達で副業を規制する。

副業の許可、届出に「基準がある」と回答した企業はわずか3.1%(前出:JILPT2004年調査)。認めるための基準を設けるより、規制ありきという印象が強い。

企業は以下を「副業規制の理由」(複数回答可)に挙げている。

業務に専念してもらいたいから・・・78.1%
業務に悪影響を及ぼすから・・・49.3%
企業秩序を乱すから・・・40.9%
業務上の秘密を保持したいから・・・27.8%
その他・・・1.8%
(前出:JILPT2004年調査)


米国の場合:業績、勤務態度、利益相反の有無が問われる

従業員の本業における業績、勤務態度が維持されるかどうかが問われる。また、副業先が競合する企業であったり、副業によって企業秘密の漏洩があったりしてはならない。ここに「利益相反(conflict of interest)」の有無が問われる。

情報が命のIT産業などは、雇用の際に、守秘義務(confidentiality)、非競争契約(noncompete agreement)にサインするケースもある。これにより同業者との副業は凍結される。

専門家の見解は、就業規定で「業績」「利益相反」に言及すればよしとする意見と、副業に関して明確に規定を設けるべきという意見とに、分かれている。

以下は、副業に関する規定文の見本である。

「従業員は、XYZ(当該の雇用者)に対する職務上の責任を果たす限りは、他組織と仕事をしてもよい。すべての従業員は同一の業績基準によって査定され、社外での就労要件に関わらず、XYZの計画要求に応じることとする」

「XYZの就労要件が時折変更されるなど、社外での仕事が従業員に求められる業績や能力の妨げとなっていると見なされた場合、従業員は、XYZに残りたいのであれば社外の雇用を終わらせるよう求められることがある」

「社外での雇用は、XYZに不都合な影響がある場合、利益相反と見なされる」
(National Institute of Business Management発行「The Book of Company Policies」より)

加えて道徳上の問題もある。違法ビジネスはもとより、風俗関係も引っかかる。本業が公務員、聖職者の場合、ことさらハードルは高くなる。ただしこれらは公序良俗に反する時点で、副業規定以前の問題ともいえる。

米国の副業に関する規定に織り込まれる項目は、日本の「副業規制の理由」に挙げられている項目と重複する。社内ルールで規定すべき項目は、日米とも大差がない。


■ 副業規制は無意味?
カリフォルニア州労働法セクション98.6は、就業時間外、就業場所以外での合法的活動を認めている。これによって、言論の自由、政治的活動に加え、副業の自由も保護される。企業は、従業員の副業が会社に明確な損害を与えることを証明しないかぎり、副業を止めることはできない。

これはおおむね全米に共通する考え方である。

このような背景で企業が副業を規制すると、それを嫌った志願者や従業員が他社へ流れてしまうことになりかねない。実行力のない副業規制を設けて、優秀な人材を逃すリスクを冒すことは意味がないと指摘する声も多い。

日本でも同様の考え方がある。以下は2005年9月15日付で厚生労働省、労働契約法制研究会がまとめた最終報告書(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/09/dl/s0915-4d.pdf)からの一文である。

「労働時間以外の時間をどのように利用するかは基本的には労働者の自由であり、労働者は職業選択の自由を有すること、近年、多様な働き方の一つとして兼業を行う労働者も増加していることにかんがみ、労働者の兼業を禁止したり許可制とする就業規則の規定や個別の合意については、やむを得ない事由がある場合を除き、無効とすることが適当である。」

厚生労働省の、副業規制を制限する労働契約法は、2007年国会での法案成立に向けて進行中だ。


■ 副業者はデキる人?
米国では、会社員といえどもフリーエージェントの意識が強い。自分のスキルを売ってお金を稼ぐ。優秀な人ほど、本業、副業と巧みに管理して業績を上げる。自営業者同様、確定申告もする。

日本のビジネス環境も変わりつつある。社員の雇用、昇給は常に約束されるとは限らない。優秀な人材は、与えられた業務に甘んじることなく、自らの可能性を追求する。副業の機会も広がる。

こうしたトレンドに、今後、日本の企業がどう対応すべきか? 「規定を設けて副業を認める」米国企業のやり方は、大きなヒントになるはずだ。



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