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ブラジル映画『フランシスコの2人の息子』レビュー

ブラジルの映画『フランシスコの2人の息子』が3月後半から東京で公開された(全国で順次公開予定)。

この10年くらいの間に『セントラル・ステーション』(98年)、『オルフェ』(99年)、『シティ・オブ・ゴッド』(02)など、ブラジル映画もたびたび話題になってきた。

マルセル・カミュの『黒いオルフェ』のリメイク『オルフェ』はもちろんのこと、ブラジルの映画ではどれもそれぞれ音楽が重要な要素を果たしているが、今回の『フランシスコの2人の息子』は文字通り、“2人の息子”たる実在のミュージシャン、そして彼らの家族と音楽が主役の映画である。

ここで主役となるミュージシャンは現在のブラジルで大人気のゼゼ・ジ・カマルゴ&ルシアーノという男性二人によるグループ(二人は兄弟)。“セルタネージャ”と呼ばれるジャンルの音楽を奏でるデュオである。

ブラジル音楽ではサンバ、ボサノヴァ系の音楽や、ロックやジャズにも影響を受けた70年代のMPB(ブラジル版ポピュラー音楽)は日本でもたくさん紹介され、今ではカフェや雑貨店でのBGMとしてもすでにお馴染み。

ところが特にボサノヴァはブラジルではほとんど過去の音楽としか見なされていないそうだが、この“セルタネージャ”は現在、特に人気のあるジャンルだという。

“セルタネージャ”とは、ブラジルの内陸部などの民謡を元々のルーツに持つ歌謡音楽。というのは非常に大雑把な説明だが、映画の前半でじっくりと描かれるように、ギターとアコーディオンをバックに、二人の男性がハモりながら朗々と歌う、素朴な歌謡音楽が原型のようだ。

現在は米国のカントリーの影響も受けた、バラードが中心の歌謡音楽として人気を博している(スティール・ギターも時々聞かれたり、服装もカウボーイ・ハットにブーツというのが面白い)。

日本でも10年前の97年にレアンドロ&レナルドという当時、人気絶頂だったというセルタネージャの男性二人組のベスト盤CDが発売され、確か日本でもコンサートを行なったはず(この二人に曲を提供したこともあるのがゼゼ・ジ・カマルゴというのは、この映画を見て初めて知った)。
 
現役ミュージシャンの伝記映画がその活動期間中に作られるというのもなかなかないことだろうが、この映画には彼らの両親と子どもたちがどのように生きてきて、そこからゼゼ・ジ・カマルゴ&ルシアーノという人気デュオが誕生したかが、ドラマティックに描かれている。

物語が始まるのは長兄が生まれる1962年だから僕自身(1968年生まれ)も近しいと感じる年代のはずだが、周りにはホントに何もないブラジル/ゴイアス州の田舎の風景や、娯楽といえばラジオしかない小作人の家族の生活ぶりは、同時代の日本と比べるととても同じ時代とは思えない。

妻の父親に借りている土地の地代も払わず、最初はハーモニカ、次にアコーディオンと楽器を覚えさせ、息子を音楽家にすべく奮闘する父親を村の人たちは変人呼ばわりするが、楽器と歌を覚えた長兄と弟のちびっこデュオが誕生する。

しかし、怒った妻の父親はとうとう家族を土地から追い出し、一家は州都に移る。そこでも困窮した家族を助けるため、兄弟はバス・ターミナルで歌い始めた。バス・ターミナルを黒山の人だかりさせた兄弟は、それに目を付けた興行師から誘われ旅に出ることに…。
 
そこからは、家族と兄弟にまつわる様々な悲喜こもごもが綴られるサクセス・ストーリー…というわけだが、主に兄弟のちびっ子歌手としての活躍を描いた前半と、セルタネージャの中心地と言われる大都市サンパウロに出た兄の音楽業界でのサヴァイヴァルが描かれる後半でトーンはけっこう異なる。

とはいえハリウッド映画とは全く違う“素朴で清々しいサクセス・ストーリー”という印象を見終ったときに受けるのは、セルタネージャという音楽のシンプルな叙情味が映画全体を包み込んでいるからだろう。

ちなみにソニーから発売されたサントラを共同プロデュースしているのは日本でも人気の高い歌手/作曲家のカエターノ・ヴェローゾで、妹のマリア・ベターニアとともに歌声も聞かせてくれる。
 
セルタネージャという音楽の響きとリオ・デ・ジャネイロやバイーアなどとは全く違う風景。広大なブラジルの音楽・文化にはやっぱり奥深いものがあると改めて思った。

『フランシスコの2人の息子』オフィシャルHP=http://2sons.gyao.jp/


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