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ランキング依存社会の弊害

■ランキングを頼りにするのは是か非か

IT社会においてコンピュータが与えた心理的なインパクトは、産業革命における蒸気機関のそれと同じように大きい――P・F・ドラッカー「ネクスト・ソサエティ」 


ランキングとは「売れているもの」「人気があるもの」に魅かれる人間の心理をテコにした、マーケティング手法だ。ひと昔前は書籍、CD、映画などのコンテンツ商品が主体だったが、最近では家電、自動車など多くの消費財のほか、「人気ブログ」「行ってみたい温泉」「おいしかったレストラン」など、「口コミ」や「人気投票」をデータ化した、新しい形のランキングが続々と生まれた。

この動きを加速させたのがインターネットである。

例えば「価格.com」などの価格比較サイトにアクセスすれば、パソコンやカメラなどあらゆる消費材の売れ筋ランキングがひと目で細かく分かる。「東京レストランガイド」には、ユーザーが訪れたレストランが料理別・地域別で見事なランキングに整理されている。

今まで売上高や人気投票を積み上げて、誰にも分かるような一覧表にするのは手間がかかる作業だったが、コンピュータの手にかかるとお手のもの。あっという間に数字を整理して見せてくれる。これが、ドラッカーが言うところの「プロセスのルーティン化」だろう。

だが、そこに何か新しいものが生まれたわけではなく、意思決定の仕組みも変わっていない。IT革命が行ったことは、昔からあった諸々のプロセスをルーティン化しただけである。だが、その量と速度は、かつての手作業からは想像できない域に達した。

問題は、これに人間の判断力が付いていけるかどうか――である。クリック一つで積み重なる情報は、総じて、その場その場の雰囲気に流されやすい。ブログが容易に「炎上」するのも、炎上させるプロセスがいとも簡単だからだ。キーボードを少し使って、後は「enter」ボタンを押すだけである。インターネットに流れる情報は、ヒトの心理を必要以上に増幅したものが多いことを忘れてはならない。

しかも、デジタル化された数字にサイト運営者やメーカーの恣意が隠されていても、容易には見抜けない。コンピュータの画面に整然と並んだ数字が、全く第三者の手が入っていない客観的なものであるという保証はどこにもない。むしろ、「ランキング上位」の位置をメーカーがお金で買うという、販促費の新しい使い方の事例は、少なからず筆者の耳に入ってくる。
 
だが、筆者はインターネットによるランキングを全面否定するつもりは全くない。日本最大の口コミサイトとして知られる、化粧品口コミサイト「@コスメ」は、460万件以上のユーザーの口コミを背景に、メーカーと共同で製品開発するなどの新しいビジネスの流れを生んだ。

また、価格.com も@コスメも、実際の書き込みをつぶさに見てみると、ユーザーが真面目に書き込んだであろう印象のものが大半で、これこそ「ウェブ2・0」的であり、消費者主役のメディアが育ちつつあることを予感させる。

しかも、クリス・アンダーソンが「ロングテール」理論で指摘した通り、売上高の上位20%を占める人気表品の陰に隠れて、これまで軽視されてきた「その他の80%」がインターネットによって存在感を高めたことも見逃せない。ランキングが下位のニッチ商品でも、その総和は、人気商品をしのぐ存在になり得るのだ。

ランキングの数字だけ追っていても、本当に質の高いものには到達できない。その意味で、「ランキング依存社会」があるとすれば不幸である。ドラッカーが指摘した「コンピュータが与えた心理的なインパクト」のうち、むしろネガティブなものに分類されるだろう。

書籍にしろ、家電製品にしろ、旅行の行き先にしろ、本当に自分が欲しているものにアクセスしたければ、無機質な数字だけではなく、その裏づけとなるようなユーザーのコメントやネットの口コミを活用すべきだ。筆者の経験する限りでは、ユーザーが真剣に書き込んだ意見には、裏切られたことはない。
 


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