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『村上隆』『奈良美智』ら、日本発アートが海外でブレイクした背景

世界の現代美術シーンを席巻する日本人アーティスト『村上 隆』と『奈良 美智』。

美術に全く関心の無い人でも、この2人の名前は耳にしたことがあるだろう。アニメの美少女キャラクターを模した村上の立体作品や、険しい目つきの幼児が描かれた奈良の油彩画といった彼らの代表作は、現代美術のワクを越えて、ちょっとした社会現象とも言えるブームを巻き起こした。

 

Takashi Murakami (Japanese, 1962-)
727-272, 2006
Acrylic on canvas mounted on board
3000 x 4500 x 50 mm (3 panels)
Courtesy Galerie Emmanuel Perrotin, Paris & Miami
©2006 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.


日本でも多くのファンを持つ2人だが、その人気・評価は海外ではより大きなものとなる。

2003年、村上のフィギュア作品がニューヨークのサザビーズ・オークションで約6000万円で落札されたのを皮切りに、彼らの作品には著名な美術コレクターが付き、従来の日本美術では考えられなかった高値で取引きされる状況が続いているのだ。

何故『村上』『奈良』の作品は海外でブレイクしたのか?

最大級の褒め言葉として言わせてもらうが、それは彼らがトヨタやホンダが新製品を開発するのと全く同じ思想で、作品作りに取り組んでいるからだ。

トヨタの自動車やホンダのバイクが世界市場で売れまくったのは、マーケッターたちが顧客の希望を真摯にリサーチし、その声を自社製品の開発・生産にきちんと反映させたからだ。

こんな、企業経営では当たり前の“マーケッターによるリサーチ”の感覚を、現代美術のフィールドに初めて本格的に持ち込んだ日本人アーティストが村上と奈良なのである。

彼らは“欧米のクライアントや批評家たちは美術に何を求めているのだろうか”という命題を常に自覚しながら創作活動を行っている。コミック・アニメ等、現代日本のポップカルチャーへ接近しつつも、安易な否定/肯定の二元論を越えて、深い諧謔趣味を感じさせる彼らに共通の作風は、いわば周到なマーケッティングによって作成された“調査報告書”といったところだろうか。

加えて、90年代以降の欧米美術シーンが、多文化主義的な価値観でメインストリーム以外の辺境の美術にも注目していこうと動いていたことも彼らの成功の後押しとなった。常に新たな刺激を求めているアートシーンは、『村上』『奈良』を欧米の主流派美術へのカウンターとして、その立ち位置をマーケットの中に確立したのだろう。

だが2人のこんな活躍ぶりに、日本国内の美術関係者からは多くの批判の声が上がっている。特に、マスコミへの登場機会も多く、常に偽悪的な態度で日本美術界をコキおろす村上への風当たりは強い。曰く「金儲け主義だ」「オタク文化の盗用」「欧米人へのウケねらい」などなど。

しかし、村上に投げかけられたこれらの言葉は、図らずも日本の美術界がいかに世界規格の厳しい競争原理から隔離されてしまっているか、という事実を物語っている。世界規模の芸術活動には周到なリサーチや社会状況とのコミット、はては財団や蒐集家に対する腹芸まで、あらゆる雑事を貪欲にこなしてゆくタフネスが必要だということを、実地で証明してみせたのが彼らなのである。

そしてサブカル的文脈で制作される日本の現代アートへの関心は、欧米のマーケットで年々高まりつつある。中でも注目のニューカマーは『束芋』だ。まだ31歳の若き女性アーティストである束芋は、ガロ系コミックを連想させる奇態な登場人物が蠢く映像インスタレーション作品が世界中の美術展で引っ張りだこの人気である。

他には、何百枚というコンビニのレシートにロリコンアニメ風の少女を描いたインスタレーションが話題の『Mr.(ミスター)』や、痩身の美少女が全裸で浮遊するドローイング作品で知られる『タカノ綾』もその評価を世界的なものとしている。

 

Aya Takano
The wind came. The vast sky was a light blue. She sees a world that envelops the entire stratosphere., 2007
Acrylic on canvas
2908 x 4360 mm
Courtesy Galerie Emmanuel Perrotin, Paris & Miami
©2007 Aya Takano/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.


この国に豊富な地下水脈のごとく沸き上がるサブカル・オタク文化のイメージを吸収(盗用?)して、日本の現代美術はまだしばらく世界のアートシーンで注目されることとなりそうだ。


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