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カリブ海に打ち寄せたオープンソースの波

(記事要約)

ソフトウェア・フリーダム・デイ(9月16日)に合わせて、ベリーズ北部の町コロザルにある公立のコロザル・コミュニティ高校でも一般公開イベントが開かれる。

この高校では、9年前からLinuxの導入を進めており、2つの教室に150台のコンピュータを備えている。そして特徴的なのは、プロプライエタリ・ソフト(商用ソフト)を使用せず、オープンソース・ソフトと呼ばれるフリーウェアを活用していること。大幅な経費削減を狙ったこのやり方を進めることで、ソフトにかける費用をほかのことに回すことができたのだ。

最初にLinux導入を決めたのは、前IT部長のジャン・ウィルソン。現在は引退したが、彼の教え子が後任を務めている。

2006/09/16 linux.bzより(中米ベリーズのLinuxコミュニティサイト。 .bzはベリーズの国別ドメイン)

関連記事リンク: http://linux.bz/sfd06/index/en


(解説)

ベリーズ北端の町コロザルは、カリブ海に面した人口8000人ほどの小さな町だ。メキシコとの国境近くなので、スペイン語がよく飛び交う。

町外れにある公立高校のIT系イベントに参加した。全部で150台ほどのパソコンが導入されているが、驚くなかれ、Windowsは1台もインストールされていない。生徒用のクライアント機でも、管理用のサーバ機でも、すべてLinuxのひとつであるUbuntu(ウブントゥ)というOSが動いている。

Ubuntuは英国の自治領マン島に開発の本拠を置き、「人類のためのLinux」を合言葉にオープンソースで開発されているフリーウェア。Ubuntuとはアフリカのズールー語で「他者との協調」を意味するという。

オープンソースとは、プログラムコードを一般公開し、改変の自由を保障しているソフトのこと。音楽に例えるなら、楽譜を無料配布して、しかも自由に変更していいと謳っているようなものだ。逆に商品として代金を取る非公開のソフトのことをプロプライエタリ・ソフト(独占的商用ソフト)という。パソコンショップに並んでいるソフトはこれだ。

フリーウェアの「フリー」には2つの意味がある、とコロザル高校のIT教員が説明する。「ひとつはlibre(自由)で、自分にとって使いやすいように改変する自由だよ。もうひとつはgratis(無料)で、入手するのも、人にコピーしてあげるのも無料ということなんだ」スペイン語を交えながら2つの違いを説明してくれた。

UbuntuはインストールCDを無料でダウンロードできる。ネット環境が乏しい国のために、CDの無料送付サービスもある。メモリやハードディスクが少ない旧式のPCでも動作する。途上国に優しいソフトだと感じる。

ベリーズのような途上国では、ソフトにお金をかける余裕がない。パソコンショップや一般企業、それに官公庁でも、正規品のソフトはあまり見ない。町中のCD屋やビデオ屋を覗いても、本物のCDやDVDを見かけることはなく、どの店にもCD-RやDVD-Rにコピーされた海賊版がズラリと並んでいる。ふと「現代版パイレーツ・オブ・カリビアン」だなとくだらないシャレが脳裏をよぎる。

こんな風潮の中で、不正コピーに頼るのでなく、フリーウェアを活用するコロザル・コミュニティ高校での試みは興味深い。インターネットでの情報収集も困難だった9年前からLinuxの導入を進めてきたのだから本当に驚きだ。

この「仕掛け人」であるウィルソン氏にインタビューした。12年ほど前にアメリカから移住してきた彼は、コンピュータ暦30年。パソコンのない時代に「マイコン」を半田ごて片手に自作したという筋金入りのコンピュータ通だ。

「Windowsに代わってLinuxを導入することに、生徒や教員たちから反対の声はありませんでしたか?」

ウィルソン氏は豪快に笑いながら「Linuxに入れ替えたとき、画面が似ていたから生徒たちは誰も気付かなかったよ」こう答えてくれた。引退した今、彼は学校向けの成績管理システムをオープンソースとして公開すべく活躍している。

現在は地方の一高校に導入されたに過ぎないが、カリブ海に打ち寄せたオープンソースの波が、どのように波紋を広げていくのか楽しみだ。


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