Entry

タミフル問題を考える─薬の専門家とは誰か

  • グリーンフラスコ株式会社 代表・薬剤師

  • 林 真一郎

抗インフルエンザウイルス薬オセルタミビル(商品名:タミフル)の一連の問題については、NPO医薬ビジランスセンター(http://www.npojip.org/)などが早くからその危険性を指摘していたにも関わらず、厚生労働省や製薬会社が動かなかったこと、さらに、タミフルと異常行動との関連性を調べていた厚生労働省の研究班の主任研究者に輸入販売元の製薬会社から多額の寄付金が払われていたこと、ついでに言えば、タミフルを開発した会社の元会長(大株主)がラムズフェルド米国防長官であることなどは、皆さん、すでにご存知のことと思います。

前回のブログで、抗生物質の使い過ぎが耐性菌を生み出していることを述べましたが、抗ウイルス薬の使い過ぎも耐性ウイルスを出現させます。世界のタミフルの使用量のなんと80%が使われているわが国で、耐性ウイルスがひそかに生まれていることを考えると、恐ろしいかぎりです。

ここで、ひとつ指摘しておきたいことがあります。厚生労働省は「タミフルと異常行動との間には統計学的に関係があるとは言えない。」というコメントを発表しているのですが、数字は答えを出してくれはしないということです。

ある時、ある広場に100人のヒトが集まったとしましょう。その事実(真実)を見て、ある者は「100人しか集まらなかった。」と言い、ある者は「100人も集まった。」と言います。科学はものごとの判断(意志決定)の材料は提供してくれますが、判断そのものは下してはくれないのです。最後は人間が見識によって英断を下すしかないのです。

今回のケースは、新型ウイルス対策として国や自治体がタミフルの備蓄(なんと、計画では2500万人分の備蓄!)を進めていたため、余計に判断停止の状態に陥ってしまっていたように思います。

ここで、ようやく本題に入ります。皆さんは「薬の専門家」とは誰のことだと思いますか? 答えは薬剤師です。一般には知られていないことですが、医学部では薬理学はあまり教えられていませんし、ましてや実際の医薬品については全く教育されません。

では、医師は薬の知識をいつ学ぶのかというと、卒業後に製薬会社のMR(昔はプロパーと言いました。)から情報を得ることで身につけていくことになります。はっきり言えば、医師はそれほど薬についての知識を持ってはいません。

また、医師と言えども人間ですから、不適切な薬を選んでしまったり、誤った処方せんを書いてしまう場合もあります。ここで「薬のチェック」の役目を果たすのが薬剤師なのです。

医師と薬剤師がお互いに事故を防ぐために業務を分担する──このしくみを医薬分業と言います。診察と処方を医師が行い、調剤は薬剤師が行います。実際、医師の書いた処方せんに疑義がある場合は、薬剤師がそれを書いた医師に問い合わせることになっています。

欧米では、薬剤師は医療スタッフの一員として確固とした権限と発言権を持っている一方、わが国は薬剤師の地位が低く、存在感が希薄なのが実状です。このことは、医師の側に問題があるというよりも、薬剤師の側の「言われた通りにしていれば…」といった事なかれ主義に原因があるようです。

タミフルの話に戻りますが、タミフルで異常行動が起きたケースで、薬剤師がコメントを出したり、発言を求められることはほとんどないと思います。薬剤師不在、つまり薬の専門家不在の医療がまかり通っているのです。

最後に、薬の副作用や薬害を未然に防ぐために、皆さんに提案したいことがあります。調剤薬局で薬をもらうときに、1.この薬は何のクスリですか?、2.この薬の副作用にはどんなことがありますか?、3.この薬を飲むことが本当に必要ですか?、といった3つの質問をするのです。

答えが返ってこなかったり、イヤな顔をされるようなら2度とそうした医療機関は受診しないことです。クスリは命に直結します。あなたの命を最終的に守ってくれるのは、あなた自身しかいないのですから!


  • いただいたトラックバックは、編集部が内容を確認した上で掲載いたしますので、多少、時間がかかる場合があることをご了承ください。
    記事と全く関連性のないもの、明らかな誹謗中傷とおぼしきもの等につきましては掲載いたしません。公序良俗に反するサイトからの発信と判断された場合も同様です。
  • 本文中でトラックバック先記事のURLを記載していないブログからのトラックバックは無効とさせていただきます。トラックバックをされる際は、必ず該当のMediaSabor記事URLをエントリー中にご記載ください。
  • 外部からアクセスできない企業内ネットワークのイントラネット内などからのトラックバックは禁止とします。
  • トラックバックとして表示されている文章及び、リンクされているWebページは、この記事にリンクしている第三者が作成したものです。
    内容や安全性について株式会社メディアサボールでは一切の責任を負いませんのでご了承ください。
トラックバックURL
http://mediasabor.jp/mt/mt-tb.cgi/138