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東アジアの経済安定は中東情勢次第─米朝合意の裏に潜められた意図

北朝鮮の核問題をめぐる米国、中国、日本、韓国、ロシアの5カ国と北朝鮮との6カ国協議は今年に入り大きな進展を見せています。2月にはエネルギー緊急支援の見返りに北朝鮮は核開発施設の閉鎖を約束、3月には米国は金融制裁解除に踏み切りました。

2001年発足のブッシュ米政権はクリントン前政権が達成した米朝合意をことごとく破棄、北朝鮮を「悪の枢軸」のひとつとして敵視してきました。米現政権の北朝鮮との最近の「和解促進」が本物なら、日本、中国を筆頭に世界経済を牽引する東アジア地域に安定をもたらし、一層の経済飛躍の展望が拓けます。

しかし一方、今回の米朝合意は一時的な妥協の産物との見方もあります。今回の合意内容とその波紋をみた後、協議の裏舞台をのぞいてみましょう。


▼ 日米の論調は合意を歓迎

ニューヨーク・タイムズをはじめ米国のオピニオンリーダーの大半は、2月の6カ国協議で北が約束した「初期段階措置」を事態打開への第一歩と高く評価しました。日本でも有力紙は拉致問題などで厳しい注文をつけながらも「エネルギー支援は北の核開発凍結を決めた。(今回の合意は)北の核廃棄の第一歩だ」(日本経済新聞)などと、概して積極面を強調する論調が目立ちました。

重油100万トン相当の支援実施合意で、北は核査察受け入れも認めました。また、朝鮮半島非核化、米朝国交正常化、日朝国交正常化、経済・エネルギーなど5つの作業部会設置が決まり、さらに米政府は3月に北が設けていたマカオの銀行口座凍結の全面解除を発表しました。

この一連の動きが朝鮮半島の和平構築に突破口を開いたと評価されたのは当然とも言えます。


▼ 一転した米の姿勢

しかし、米国が金融制裁を発動したのは2005年9月のことでした。北朝鮮は制裁実施に猛反発して6カ国協議への参加すら拒否、06年10月には北の核実験実施という最悪のシナリオが現実化しました。ところがこれを契機に、ブッシュ政権はかたくなに拒んできた米朝二国間協議を開始、北を6カ国協議に復帰させる道を探り始めたのです。そして今年に入り、上記のような「雪解け」が急進展しました。

特に、マカオのバンコ・デルタ・アジアに凍結されていた北の口座約2500万ドルの全額返還は、依然経済困窮の続く北にはエネルー支援と並んで「干天の慈雨」とも呼べます。

しかも、2月の共同声明には核施設の閉鎖・封印を義務づけられただけで、核兵器廃棄要求は含まれず、願ってもない好条件でした。

北の取り扱いに苦慮してきた中国も安堵の胸をなでおろしたはずです。奇跡とも言える高成長を持続し、今や自他共に認める「世界の工場」となり、外貨保有高は日本を抜いて世界一の約1兆1,000億ドルに達しました。08年には北京オリンピック、続いて上海での万博開催が控えている中国としては、朝鮮半島の安定は絶対的条件です。米国からの「北の手綱をしっかりと締めろ」との脅迫じみた要請にも従順でした。


▼ 方針転換の背景

ブッシュ米大統領は、今回の合意を「米国の外交力を示す好機だった。合意は朝鮮半島非核化への“第一歩”」と胸を張りました。ところが実質的に現米政権を牛耳っているネオコン(新保守主義者)の一人、ボルトン前米国連大使は共同声明を「猿芝居」と嘲笑したそうです。

米国の著名な国際情勢分析家らからは「非核化の第一歩と見るのは過大評価」との厳しい見方が出ています。実際、合意を促した要因として米国が最重視する中東問題を挙げざるを得ません。

米国はイラクで泥沼にはまり込んでいます。また、イラク国内のシーア派を支援してスンニ派とのイスラム宗派対立を煽ってきた元凶としてイランを挙げています。

イラク駐屯の米軍は大増派にもかかわらず消耗し、同盟国は部隊引き上げへと動き、状況は悪化するばかりです。とにかく米国は政治的エネルギーをイランに集中したいのです。実際、昨年末来、米軍は空爆主体の対イラン臨戦態勢に入っています。

米政府が一時的に北朝鮮問題を据え置きたかったのは明らかです。米国は「悪の枢軸」と呼んだイラク、イラン、北朝鮮の3カ国のうち中東2カ国への対処を優先したと見ることは自然です。しかも、一時的にせよ東アジアへの政治的安定付与は経済最優先の中国に恩を売る一石二鳥の手段だったと思えます。


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