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「学校開放デー」創設にオトナの無力さを見た

(記事要約)

ジュゼッぺ・フィオローニ教育相の呼びかけで、毎年五月に一日だけ、全国の高等学校が学校を市民に開放することになった。スローガンは「私たちが学校です」。

イタリアにある1万超の高等学校は国の財産であり、教師、職員、生徒がこの国の未来を担っていることを国民に知ってほしい、との趣旨だ。

教育相は言う。
「学校にいじめの問題は確かにある。しかし、負の要因だけではない、誇るべきたくさんのことが知られていない。学校は閉じられた要塞ではない。この国の教育機関は、必要とあれば変化も受け入れる柔軟なものだということを、国民は知るだろう。」

2007年4月3日付 La Repubblica(イタリア有力日刊紙)より


(解説)

この記事を最初に読んだときの感想は、「痛いなあ・・」である。しかし、なんと馬鹿げた政策だろうか、とはいえない悲壮さがあったのも確かだ。

フィオローニ教育相は、学校での携帯電話の使用を中止する通達を出したばかり。3月半ばだった。イタリアは携帯電話の所有率が世界でも1、2位を争うほど高い。学校に携帯電話を持って行かせるのが是か非かなど、昨日や今日始まった問題ではあるまいに、なぜ今なのか。

「ケータイ使用禁止のお触れ書き」は、YouTubeに代表される動画サイトに数々のいじめのシーンが投稿され、社会問題になったことが引き金だったと言える。ケータイ使用の禁を破った者には罰則も辞さず、という厳しいものだったにもかかわらず、携帯電話で撮影された学校生活の映像は、その後も動画サイトに送られつづけている。

そんな中、教育関係者からすれば忌々しいほどのタイミングで、「学校は動物園だ!」というブログサイトが現れた。イタリア北部の大学生ふたりが立ち上げたもので、「学校で撮影した、楽しくて笑える映像を集めています」と謳っている。しかし、載せられている動画には、笑えないものも多々ある。

黒板に字を書いている教師のズボンを下ろし笑いをとる生徒。教壇に火をつける生徒。生徒ばかりではない。教室で生徒に蹴りを入れる教師。携帯電話から通話会社に苦情をいい、1ユーロ70セントを返却しないと訴えるぞ、とすごむ教師。これらはみな、生徒が所持する携帯電話で、教室内で撮影されたものだ。

「学校は動物園だ!」の動画や、YouTubeに投稿されたいじめを撮影した動画が、たびたびニュースや新聞に取り上げられると、目を覆いたくなるような学校生活の実態がますます晒されていった。悪さをして学校の内外で有名になることがクールだ、というような風潮すら、生徒にはあるのだという。

「学校開放デー」創設は、こうした流れの末に出てきたものだ。「ケータイ禁止」条例や「学校開放デー」で、日々を倦む生徒のモラルが向上するとはとうてい思えない。だが教育大臣たるもの、放っておくわけにはいかない。まずは抵抗なく実施できることをやってみる。打ち上げた花火が目立てばもっといい。おカネがかからなければもっといい。そんなところだと踏んだ。

よそ者ながら勝手なことを言わせてもらえば、教師の裁量権を増やしてみたらどうか。裁量権を持つ教師は、それなりの度量と人格が備わっている、という前提が要るけれど。優秀な教師を育てるために、給料を気前よく上げる。ステイタスも上がる。

待遇については現場の教師も業を煮やしているようだ。教職員組合のストが決まった。4月16日、教育省前で気炎をあげる。



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