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マネーゲームが生んだサブプライムローン危機

米国では2006年までの五年間で住宅価格が全米平均で55%も上昇し、この住宅バブルがどのような形で終焉するのかが注視されてきた。

2006年には、一般住宅価格の全国中間値が2005年の第4四半期から2.7%下落して21万9300ドルとなり(全米不動産協会調べ)、地域によっては新築住宅も15%から20%の値下げを余儀なくされている。他方、オレゴン州のセーラムやノースカロライナのバージニア・ビーチ、ユタ州のソルトレイクシティのように2006年に住宅価格が16%から20%近く上昇した都市もある。

また現在の長期金利は4.6%程度、失業率も4.5%と低く、ソフトランディングが可能という見方もあった。ちなみに1990年から91年に住宅市場の調整が起きた時には、長期金利は9%台に達し、失業率も7%台後半まで上がっていた。

しかし、これまでとは大きく違う要因がある。住宅ローンである。

そして今年3月、米住宅ローン会社大手のニューセンチュリー・フィナンシャルが、会社更生手続きの適用を申請したことで、住宅市場が直面している危機が誰の目にも明らかになった。同社はサブプライムと呼ばれる信用度の低い借り手に高金利ローンを提供していた。


■マネーゲームとしての住宅ローン

従来は住宅購入額の20%以上を頭金とし、残りを30年、15年の固定金利住宅ローンとして銀行から借り入れるのが一般的だった。銀行側は申込者のクレジットカードや借入の返済歴に基づくクレジット履歴、収入証明、資産と負債の比率、購入予定の家の評価額などをもとに、与信審査を行う。審査基準を満たせばプライムに区分され、優遇金利が適用される。30年固定金利だと、ここ数年は6%前後である。

一方、過去にローン返済の遅延歴や、自己破産歴、低収入で返済能力に疑問のある人はサブプライムに区分され、銀行ではローンが組めなかった。そうしたリスクの高い消費者に対し、独自の審査基準で10%以上の高金利ローンを提供してきたのが、ニューセンチュリーのような住宅ローン専門会社だ。

住宅ローン専門会社は銀行と違い、自己資金で貸し付けをするのではなく、金融機関からの借入で貸し付けを行う。その一方で、利回りの高い住宅ローンを証券化し、投資銀行や証券会社に売却してリスクを減らす。しかしローンが焦げ付けば、住宅ローン専門会社自体が金融機関に返済できず、倒産の危機に陥ってしまう。

モーゲージ・バンク協会によれば、2000年に米国で販売された住宅ローンのうち、サブプライムが占める割合は2.6%だったが、昨年は13.5%とサブプライムの割合が急増した。

なぜサブプライムローンがこれほど増えたのか?

ローン販売で手数料を得るローン仲介業者、高金利で稼ぐ住宅ローン会社、利回りの良いサブプライム住宅ローン証券で利益を得る投資会社、住宅ブームに乗った、にわか不動産投資家、ローン会社の甘い言葉に踊らされたファイナンシャル・リテラシーの低い低所得者等の存在が、その背景にある。


■サブプライムローンの正体

住宅ブームとともに登場したのが、「クリエイティブ・ローン」という言葉だ。財力のない消費者のために、住宅ローン専門会社は頭金ゼロ、収入証明不要、クレジット履歴の悪い人でもOKといった「クリエイティブ」なローン商品を考案し、高金利で販売した。

最初の数年間の返済額を低くするための3年固定型変動ローンや、インタレスト・オンリーローン(最初は金利分だけ返済)、40年ローンなど、数えあげればきりがない。ローン仲介者が不動産鑑定士に圧力をかけて、高い評価額をつけさせて必要金額以上の借り入れを勧める例や、ローン仲介者が申込者の収入を水増し報告してローンを成立させる悪質な例もあった。

持ち家は今もアメリカン・ドリームの重要な要素だ。「頭金も収入証明も不要で、最初の3年は低金利。住宅の価値は毎年上昇するので、金利がリセットされる頃にはより有利な金利で借り換えができる」と誘われれば、誰でも家を買いたくなる。頭金なしで20万ドルの家を買っても、毎年10%ずつ値上がりすれば、黙っていても3年で6万ドル以上の含み益が自分の財産になるといった売り文句に踊らされたのだ。

サブプライムに区分される人々は、概してファイナンシャル・リテラシーが低い。月々の最低返済額が低いローンに飛びついたら、最低返済額では利息分さえカバーできずに借入総額が雪だるま式に増えていったという悲劇もある。返済が滞り、売却してローンを完済しようにも不動産が下落していて売ることもできない。

2006年末までの深刻な債務不良(60日以上の支払遅延または競売、自己破産)ローンの割合は、前年の8%から13%まで上昇した。また競売情報会社のRealtyTracによれば、債務不履行で競売にかけられる率も、前年より25%上昇した。


■住宅市況の悪化と米国経済

バブル期に過熱したラスベガスやマイアミ、西海岸やニューヨーク、自動車産業の打撃を受けているデトロイトやオハイオなどで住宅市場の調整が続くかもしれないが、ナッシュビル、テキサス州、アトランタ、オクラホマシティ、ニューメキシコ、ノースカロライナなど南部や中西部では堅調な値上がりが予想される。

しかし問題はここでも住宅ローンの債務不履行で差し押さえ物件が増大し、住宅価格破壊を招く可能性があることだ。

もともとは、2004年以前に4%程度の3年固定の変動性ローンを借りた人々の利率がリセットされ、支払いが滞るという懸念があった。しかし実際には、2004年に組まれたローンの債務不履行率は2.2%程度なのに対し、2006年に組まれたばかりのローンの債務不履行率が4%に達しており、昨年、いかに危険なローンが販売されたかを示している。

2006年のローンがまだ低い固定金利の時期にあることを考えれば、債務不履行はまだ始まったばかりで、2年後に金利がリセットされる時には、事態が著しく悪化することも予想される。

差し押さえ物件が増え、住宅市場が低迷すれば資材供給から不動産仲介業、家具販売など住宅関連産業が打撃を受ける。州政府も固定資産税から売上税まで税収が落ち込むなど、波及の影響が大きい。

住宅所有者は、住宅価格上昇に伴い家の純資産価値を担保に借り入れ(ホーム・エクイティーローン)し、個人消費に利用してきた。住宅価値が下がれば、こうしたローンも不可能になり、個人消費の低迷につながることも予想される。またローン審査基準の引き締めで、リフォーム転売で利益をえていた、にわか不動産投資家もローンの確保や、リフォーム後の転売が困難になる。

住宅ブームに乗ったマネーゲームのツケは、こうして米国経済に戻ってくる。無理なローンを組んだ多数の消費者が家を失う危機にさらされる影で、サブプライムの住宅ローン債権で一儲けした投資会社らは、次のマネーゲームを考えているのかも知れない。


【関連ブログ】
米国経済を襲うサブプライムローン爆弾
http://mediasabor.jp/2007/04/post_83.html



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