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米国経済を襲うサブプライムローン爆弾

私事で恐縮だが、5年ほど前にロサンゼルス市内に中古マンションを購入した。当時は今ほど不動産価格が暴騰していなかったが、それでも高い買い物で、ご他聞にもれず30年のローンを組んだ。

米国の不動産ローンはさまざまな種類があり、その信用状況によって利率も異なってくる。フリーランスのライターといえば不安定職種の代表格、ローンが組めるだけでもありがたいと思わなければならない。

そう自分に言い聞かせながら6.5%という高い金利のローンを選択しようとしていた私に、担当のローンアドバイサー(様々なローンに精通し、クライアントにもっとも相応しいものをアドバイスする)が耳打ちした。「お得なローンがありますよ」。 最初の3年間の金利はなんと3.75%。3年後には、その時点での相応の金利に引き上げられるという。

今、盛んに言われているサブプライムローンの一種である。

ローンアドバイザーは、米国の金利は今後も低めに抑えられるから、これが一番得だという。不安を感じて断ったが、賢明な判断だった事がはっきりしたのは2007年の初頭だった。あの時、変動性を選択していたら、現在は金利8%以上のローンに苦しめられていた筈である。

不動産価格の下落が続く米国。それにともない住宅ローンの支払いが焦げ付くケースが急増している。その多くが信用度の低い借手向けのローン、いわゆるサブプライムローンだ。

過去5年間、好景気により与信基準が大きく引き下げられ、住宅バブルが巻き起こった。米国では、信用履歴の低い借手の場合、通常のローン(プライムローン)よりも高い金利のローン、いわゆるサブプライムローンを組むしかなかったが、こうした層に人気を呼んだのがARM(adjustable-rate mortgage=変動金利)と呼ばれるものだ。

最初の3-5年は低い金利に抑えられ、支払いは比較的楽である。しかし、それを過ぎるとその時点の金利が適用される。前出のローンアドバイサーのように、楽観的な見通しを盾に、こうしたローンを勧める例は多かった。 

住宅バブルが加速するにつれ、見かけの好条件を更に強調したローンが登場した。I/O(金利オンリー)と呼ばれるローンの場合、最初の数年間に支払うのは金利のみなので負担はさらに軽い。

そしてその上を行く、月々の支払額が金利以下というローンまで現れた。 しかし数年後には、繰り延べた金利まで含めた弁済を行なわなければならない。要するに、後になってドーンとツケが回ってくる仕組みのローンを、数年後の経済情勢変化には目をつむり、乱発してしまったのである。

2003年頃にローンを組んだ人々が今ちょうど金利の改変時期に差し掛かり、結果的にローンの焦げ付きを招いている。3.75%の金利だったものが突然10%近くに跳ね上がるケースもあるそうだ。

3年間が過ぎたらローンを組み直せばよい-それが、サブプライムローンを選択した人々の当初の目論見だった。市場がアクティブで、住宅の担保価値が高水準のうちは、サブプライムローンから一般の住宅ローンに借り換えすることも可能だった。しかし、何事にも終わりがある。不動産バブルが翳り始め、またFRBによる利上げが続いたことで市場が減速し、サブプライムローンから一般の住宅ローンに借り換えできない例が激増した。

何故こんなリスキーなローンがまかり通ったのか。

ここ数年間の好景気に支えられた、住宅需要の増加が主因であるのは勿論だが、マネーゲームとしての住宅購入がバブルに拍車をかけたことも大きい。

サブプライムローンを利用したのは低所得層だけではなく、中流以上の層もかなり含まれている。投資目的で住宅を購入する際、手続きが簡便で審査が甘いサブプライムローンは、動きの早い物件を抑えるためには便利なローンだった。素早く購入して売却する。まさにババ抜き、バブルの構造だが、こうしたマネーゲームがなかったとしたら、市場はソフトランディングし、破綻は起こらなかったかもしれない。

サブプライムローンによる差し押さえ物件は、去年から今年にかけて急増している。その数は今後も増え続け、2008年には200万件を超えるという悲観的な予想もある。 FRBは金利を極力据え置き、2003、2004年頃に仕掛けられた“サブプライムローン爆弾” の炸裂を極力抑えようと躍起になっている。 

今のところ堤防の小さな穴であるサブプライムローン問題が、巨大な決壊を招く可能性も十分にある。


【関連ブログ】
マネーゲームが生んだサブプライムローン危機
http://mediasabor.jp/2007/04/post_82.html


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