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動画コンテンツビジネスの将来 ―次世代CGMコンテンツの最新動向―

  • MediaSabor

森ビル株式会社が運営する教育文化施設「アカデミーヒルズ」において行われたビジネスセミナーに、初めて参加した。

講師はビデオジャーナリストの神田敏晶氏。
セミナーテーマは、「動画コンテンツビジネスの将来 ―次世代CGMコンテンツの最新動向―」
開催日:4月26日(木)
 
以下に神田氏が話した概要を紹介する。


■動画ビジネス環境の変遷

動画ビジネスは映画とテレビの独占市場、装置産業としてはじまった。

その後、1980年代にホームビデオが登場。「ニューメディア時代」に入り、CATV、サテライト、BSが出てきた。1990年代に入り、コンピュータ、マルチメディア時代となる。

2000年代に入り、DVD、HD(High Definitionハイディフニッションの略:テレビなどにおける高解像度のこと)が登場することになる。


■無料ビジネスモデルの登場

Googleに象徴される無料での価値提供時代が幕を明けた。

Googleは、Gmail(ウェブメール)、Picasa(写真や画像の整理、編集、共有)、カレンダー(予定やイベント情報を整理して友人と共有)、Earth(世界を見渡す3Dソフトウェア)、マップ(ドラッグできる地図検索)、翻訳(テキスト翻訳とウェブ翻訳)、Analytics(ウェブ解析ツール)、トランジット(乗換案内、路線と地図で目的地までのルートを案内)、ニュース(何千ものニュースソースから記事を検索)など様々なツールを無料で提供している。

それらの中には、つい最近まで、別の企業により月額何十万もの費用で提供されていたようなサービスもある。まさに、パッケージソフトを無意味にする破壊的なビジネスモデルだ。

このようなビジネスモデルを総称して「WEB2.0ビジネス」ともいわれるが、むしろ、WEBという枠組みを超え、リアルビジネスをも飲み込もうとする「メディア2.0」といったほうが適切かもしれない。


■YouTubeの登場

ネット回線の高速化と価格の低廉化、加えて、ビデオをキャプチャしたり、編集したりするツール(ソフト&ハード)の普及などを背景に、個人が保有する映像を自由に投稿し、共有できる「YouTube」というサービスが2005年に登場した。

YouTubeはサイトオープンから1年で、驚異的に利用者を増やした。

このような「映像共有SNS」の人気が爆発的なものになっていったことで、個人が所有する映像のみならず、企業CMもテレビでの配信を前提としないネット向けのコンテンツが流通するようになった。逆に、ネットCMとして制作されたコンテンツがヒットすることで、それがテレビでも流れるようになるという現象も生まれている。

また、企業の依頼で広告会社が制作するCMではなく、消費者が使用者側の視点と感性で創った映像がCMとして採用されるケースもある。メントスとペプシコーラを混ぜて大噴水する映像がYouTubeで話題になったことで、一挙に注目されるようになった。このような映像はCGCM (Consumer Generated Commercial Message)と呼ばれる。CGCMを創る際、消費者はその商品を購入したり、食べたりするケースが多い。

その後、Googleは、「The Diet Coke & Mentos Experiment」の作者であるFritz Grobe氏およびStephen Volts氏と、最新の映像から得られた広告収入の多くを支払う契約を結んだ。

●Extreme Diet Coke & Mentos Experiments II: The Domino Effect


YouTubeの成功を機に、内外で多くの投稿動画サイトが乱立することとなった。しかし、システムを真似するだけでは、先行サイトに対抗し、生き残るのは難しく、今後、映像のジャンルを特定分野に絞り込むなどの差別化戦略が求められるだろう。


■ロングテール化する動画ビジネス

興行収益のみで映画ビジネスを成立させることは、特に多額な制作費を投じるケースの多いハリウッドメジャーでは難しくなってきていて、DVDやキャラクターグッズなどの派生商品を販売するための興行という位置づけになりつつある。

ヒットチャート形成のための興行という意味あいが強いので、映画館の割引サービスも様々な種類が出てきている。料金が一律に安くなる日や、夫婦50割引(夫婦どちらかが50歳以上なら映画料金が一人1000円)、高校生友情プライス(高校生三人で映画館に行けば映画料金が一人1000円)などの割引サービスだ。

装置産業である映画ビジネスが段々、難しくなっている要因の一つは、人々のライフスタイルの変化にあり、2時間特定の場所に拘束されることを好まない層が増えている。一方で、YouTubeに代表される「映像共有SNS」人気で、個人所有の映像がネット上に溢れ出し、それを楽しむ層が増えている。

自宅に居ながらにして、無料で、時間枠に束縛されることもなく多様な映像を閲覧できるというメリットがあるからだ。クチコミや検索で、面白い映像、衝撃的な映像を探したり、発掘したりするという楽しみもある。

「動画共有SNS」は著作権問題が取りざたされることも多いが、無料宣伝という側面もあり、一概に著作権者の利益を損ねているとはいえない。販売しているコンテンツが魅力的なものであれば、購入に繋がるはずだ。現状は、著作権者本人よりも、著作隣接権者が権利侵害の主張を声高に叫んでいる傾向にあるが、一つのプロモーション方法として、ネットの活用を考えていかないと、宝の持ち腐れになりかねない。

個人が発信する映像の中には、販売を目的としたものも多数出てきている。ペット飼育方法などのちょっとした智恵とともに、それに必要な物品を合わせて売るというスタイルだ。アイデア次第で、色々と面白いものがクリエイトできる可能性を秘めており、関心を持っている。


■動画利益共有

Revver(http://one.revver.com/)という動画共有サイトは、投稿された映像の最後に広告を挿入し、その広告がクリックされた数によって、広告主から得られる広告料を映像制作者と分け合っている。

このビジネスモデルの登場で、個人がビデオ制作で稼げる時代になった。これは何も大人だけの特権ではなく、子供でも簡単なビデオ制作の技術を身につけることで、小遣いを稼ぐことができるようになったのである。親から小遣いをもらうしかなかった世代から見ると、隔世の感がある。


■CGM(消費者制作メディア)キャンペーン

2006年8月23日 渋谷HMVにて行われたパリス・ヒルトン デビュー・アルバムのプロモーションセレモニーにおいては、普段とは逆に、報道陣のカメラ撮影が規制され、ファンによる撮影は規制されなかった。

パリス側は、ファンが自分のブログに当日のことを書くための素材を提供したのである。これは、ファンがそのまま媒体として、プロモーションを伝播していくことを意図したものである。

30分遅刻して登場したパリス・ヒルトンは、自らデジカメのビデオモードでステージ上からファンを撮影し「"ユーチューブ"に掲載するから見てね!」と発言した。事前に、新アルバム「PARIS」を発売する米ワーナー・ミュージック社が、プロモーション目的で、ユーチューブにパリス・ヒルトンだけが登場する専門ビデオチャンネル枠を購入していたのである。http://www.youtube.com/parishilton

こうすることで、ファンはパリス・ヒルトン・チャンネルに自分が写っているコンテンツが掲載されているかもしれないと、サイトを見にくるという効果が期待できる。


英国のハードロックバンド、ディープ・パープルのボーカリストであるイアン・ギランは、最新ソロアルバム「Gillan's Inn」の発売と全米ツアーを記念して「Smoke This!」というキャンペーンを実施した。

イアン・ギランが歌った伝説的な名曲「スモーク・オン・ザ・ウォーター」のボーカル抜き、ギター抜きのカラオケMP3ファイルをWeb上で提供。その曲に自分のボーカルやギターを重ねて送ると、そのプレイがサイトの視聴者から評価される。平均点により、毎週1組ずつが選出され、その中からイアン・ギラン自身が優勝者を決める。

ボーカル部門、ギター部門の優勝者はラスベガスのライブハウス「House of Blues」で、イアン・ギランのバンドと共演することができる、といったものだ。

このように、ウェブを介してファンに参加してもらい、楽しんでもらうことで、多額のコストをかけることなく、効果的なプロモーションを実現させ、より親密なコミュニティの形成に繋げていくことができるのである。

CGMの可能性は、プロモーションに限らない。例えば、楽曲をリミックスしたり、アレンジを変えるなどの「権利を売る」ことで、新たな収益源とすることも考えられる。そして、そこから新しい音楽の世界が生まれたり、思わぬ才能の発掘があったりするかもしれない。


■インターネット紀元後社会

新たな映像によるコミュニケーションの時代が萌芽しようとしている。

写真、映画、テレビが発明された時代、19世紀末のメディアのルネッサンス時代へ、レイドバックしている。

旧来のビジネスの枠組みに捉われることなく、未来の「共有」市場へ目を向けようではないか。


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