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アートの測り売りART-Meter(アートメーター)がリアル─WEB─Second Life連動型ショップを実現

  • MediaSabor

2年半前に、「アートの測り売り」というオンラインのみのビジネスとしてスタートしたART-Meter(アートメーター)。その斬新な発想に、以前から興味を持っていたのだが、先月末に自由が丘に実店舗をオープンしたのを、たまたま街を歩いていて見つけたので、即座に取材を申し入れた。

ART-Meter(アートメーター)は、株式会社カヤック(http://www.kayac.com/)というオリジナルECサイトや、各種ASPサービスの提供などを主な事業とする会社の、新規プロジェクトとして発足した。

「面白法人」を標榜しているだけに、独特な制度、社風が特徴である。

たとえば、株式会社カヤックの給与体系には、基本給および各種手当てにプラスアルファとして「サイコロ給」が取り入れられている。毎月給料日前に、サイコロを振り、その出目によって基本給への付加給額が決まるというもので、一般的な企業経営の常識では、推し量れない突飛な制度である。

柳澤社長は、人間が人間を評価する人事査定には、感情が入り込むことで、ブレが大きくなりやすいという問題点があり、公平さを担保するのは難しいと感じている。むしろ、会社全体での成果、チームでの成果による給与配分(ボーナス)のほうを重視したほうが、1+1が2ではなく、4や5になっていく可能性が高いと考える。

いわば、「サイコロ給」というのは、そうした考えを社員に浸透させるための、一つのメッセージなのである。

『虚妄の成果主義』(高橋伸夫)や『内側から見た富士通 「成果主義」の崩壊』(城 繁幸)が大きな反響を呼んだように、メディアやコンサルタントが礼賛する「個人のパフォーマンスを評価して、給与に大きな比重で反映させる成果主義なるもの」を導入した企業の多くは、そのマイナス面の大きさに直面している。

もっとも、「成果主義」とは名ばかりで、目的が高すぎる報酬を下げるため、人員を切り捨てるために割り切って導入した企業も多いだろうから、その意味では功を奏したと、ひねくれた見方をすることもできる。


さて、本題のART-Meter(アートメーター)事業について筆をすすめよう。

ART-Meter(アートメーター)は絵の委託販売ショップであり、画家登録すれば、プロ・アマ問わず、誰でも自分で描いた絵を売ることができる。現在の登録画家数は900名にも及ぶ。扱う絵はすべて、オリジナルの1点モノであり、価格は絵の面積によって決まる。但し、ART-Meter(アートメーター)で人気が出て絵が売れると、画家レベルがアップして、単位面積(1平方cm)あたりの単価を画家が自由に設定できるという、モチベーションアップの仕組みがある。

柳澤社長は、この事業を始める前に、ギャラリストなどのアート業界関係者に種々、相談を持ちかけている。ほとんどの人は、「やめておいたほうがいい」「素人が安易な考えで参入できるような分野ではない」といったネガティブな反応だったという。

元々、社内に美術に関して造詣の深い社員が存在していたわけでも、社長自身にアート業界とのネットワークがあったわけでもない。事業アイデアは、海外の事例を参考にしたということもなく、柳澤社長のオリジナルだという。

WEBサービスを主体に事業展開していた経営者が、確たる勝算もなく、なぜ、唐突に「アート」事業を発案したのか?

現在はライブドアに売却済みであるが、柳澤社長は、ART-Meter(アートメーター)の事業を起こす前に、T-SELECT(http://t-select.livedoor.com/)というTシャツ販売のWEBショップを手がけた経験を持っている。

T-SELECTは、デザイナーから応募があったTシャツデザインを毎週、ウェブに掲載し、掲載期間中に受注が一定数以上集まったら、生産が決まり、販売されるというビジネスモデルである。

メディアにも多く取り上げられ、ある程度の成果を収めたことで、柳澤社長自身、プロ・アマを問わないクリエイターとのネットワークづくりと、それによって生み出されるオリジナリティのある商品販売に面白さ、可能性を見出した。

この経験が、ART-Meter(アートメーター)のプロジェクト推進に繋がっていくのである。

アート業界関係者の反対はあったが、最終的には「やってみたい」という意欲のほうが上回った。

美術館で鑑賞するだけのアートではなく、季節に合わせて、気分によって、飾り変えて楽しめるぐらいの、お手頃価格での販売を目指していている。作品の平均価格は4,000から5,000円程度なので、まさに雑貨感覚だ。

「測り売り」というコンセプトは、透明性があってわかりやすい価格決定の基準を設けたかったから掲げたものであり、話題性を狙ったものではない。他にもっと適切な方式が見つかれば、特に「測り売り」にこだわる必然性はないとのことだ。

オンラインのみのサービスとしてスタートしたART-Meter(アートメーター)。扱うのは、オリジナルの1点モノに限定しており、Tシャツ販売のように、受注が多いからといって大量生産に繋がる商売ではない。売れた場合の利益配分は、画家65%、ART-Meter35%と良心的な設定になっている。

順調にネット上での売上が伸びているとはいえ、実店舗を構えることは、普通に考えるとリスキーなものに思える。今回、ネット上での展開に加えて自由が丘にリアルショップをオープンした狙いは何か? 下記が柳澤社長の答えだ。

リアルショップを構えることによって、扱っている芸術作品の良さを肌で感じ取ってもらうことができ、お客様、画家双方との信頼関係が高まる。それは、より多くの画家に参画してもらえる契機になり、お客様への認知度も高まることになる。

この事業は、必ずしも利益優先の考えで行っているものではなく、お金に換えられない人と人との繋がりを拡げていくことに重きを置いている。

アーティストで生計を立てていこうとする人の中には、既存の画廊には契約してもらえず、苦慮している人が大勢いる。そのようなアーティストからは「このような仕組みを提供してくれたことに感謝したい」と多くの喜びの声をいただく。それが、何よりの支えだ。

ART-Meter(アートメーター)を一つのステップ、宣伝拠点にし、画家として成長していくことで、通常の画廊と契約に至るケースもある。画家を束縛することはしない。


このような柳澤社長の話を聞くと、ART-Meter(アートメーター)事業を社会貢献の一環だと捉える人が多いかもしれない。事実、取材時に話した印象からは、特別な意図は感じられなかった。しかし、筆者は「社会貢献」という単なるアーティスト支援ではないと見る。

それは、この事業が、既存の古い枠組みとしてのアート市場とは別の、新たな市場を創造していくものだと思えるからだ。

ART-Meter(アートメーター)には、お気に入りの画家に様々なテーマで絵を発注できる「オーダーアート」というサービスがある。たとえば、「東京の夜景」や「ひまわり」のようなテーマで、自分好みの絵を1点モノとして描いてもらえるのだ。人生の節目の記念に何かの絵を描いてもらうということもありだろう。自分のためだけではなく、贈り物として考えてもよい。

オーダーすることで、より思い出深いものになり、絵に対する愛着が増すにちがいない。今後、「オーダーアート」が、多様な欲求を満たすサービスとして、注目されることになりそうだ。

本業がWEBサービスの会社であるだけに、ネット戦略についてはお手の物だ。

絵を買わなくても、気になる画家と掲示板などを通してコミュニケーションをとったり、他のネットユーザーがお気に入りにしている画家を調べることができる。これは、さしずめ「アートSNS」といえるコミュニティだろう。

ブログパーツの提供会社としても国内トップクラスである同社は、個人ブログや普通のサイトにART-Meter(アートメーター)で扱っている作品を掲載できるパーツの提供も行っている。特定の作品を指定してもいいし、全作品からランダム表示させる設定も可能。そのサイトを経由して、作品が売れた場合はアフィリエイトポイントが還元され、同社で販売している絵の購入時にポイントを充てることができる。

また、ネット上の3D空間サービスであるSecond Life(セカンドライフ) に、日本企業初のリアル─WEB─セカンドライフ連動型アートショップとして、いちはやく出店を果たしている。Second Life(セカンドライフ)は、アーティストやクリエイターにとって、パラダイム転換になるかもしれない。創作の場が、従来はリアル世界だけだったが、バーチャル空間における、それも3Dの立体的なアート創作と販売の場が提供されたことで、より多くのチャンスが得られるからだ。

アルファブロガーとしても知られる梅田望夫氏が「ウェブ進化論」という書籍で、“総表現社会”と記述している箇所があるが、ART-Meter(アートメーター)は、まさに、それをアートの分野で現実化させるビジネスモデルであるといえる。   ・・・やはり、侮れない。


ART-Meter
WEB:
http://www.art-meter.com/
住所:〒152-0035 東京都目黒区自由が丘2-8-6 ヒロガーデン自由が丘1階
TEL&FAX:03-5726-0543
営業時間:12時から20時
定休日:毎週水曜日(棚卸のための臨時休業があります)
東京都目黒区自由が丘2-8-6


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