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JASRAC改革なくして、音楽業界の活性化なし

社団法人日本音楽著作権協会(以下、JASRAC:ジャスラック)は、音楽CDなどにおける利用許諾の証明としての許諾証紙(JASRACシール)発行を、2007年4月1日以降の利用許諾から廃止した。

ネットワークによる音楽配信が一般化しつつある現在、シールを貼るという仕組みが時代に合わなくなってきたようにも思う。情報化時代における、音楽著作権管理について考えたい。音楽著作権管理といえば、JASRACだ。

JASRACが設立されたのは、「著作権に関する仲介業務に関する法律」(仲介業務法)が施行された1939年。著作権管理の仲介業務は内務省の許可を得た者に限るというもので、文化庁から許可を受けたJASRACは、日本の音楽分野における唯一の著作権管理団体として音楽著作権の仲介(管理)業務を独占的に行ってきた。

しかし1990年代後半からのインターネットの爆発的な普及により、ネットワークでの音楽配信環境が急速に整備されていく中で、JASRACの対応が間に合わない事態が起こった。「インタラクティブな配信」というインターネットの特質に対応した規定がJASRACにはなかったのだ。

そこで1997年には、音楽配信の準備を進める6団体(後に9団体)によりネットワーク音楽著作権連絡協議会(NMRC)が発足し、JASRACなどに対しネットワーク上の音楽著作物の使用実態を提示して、適正な音楽著作権使用規定などの制定を働きかけた。

さらに著作者がインターネット上に開設した自分のWebサイトにおいて、著作権流通を直接管理できるような時代が到来したことをうけ、JASRACによる音楽著作権の一元管理の非効率性を指摘するアーティストも現れた。

そしてついに2001年に、JASRACの独占状態に転機が訪れることになる。2000年に成立した著作権等管理事業法が施行され、それまで許可制だった著作権管理事業が、登録制に変わったのだ。複数の民間企業が音楽著作権管理事業に参入した。

これにより、およそ60年に渡って続いてきた、JASRACによる音楽著作権管理事業の独占は終了した。しかしながら、依然としてJASRACの独占に近い状態が続いているという声も少なくない。これまでJASRACが築き上げてきたものが大きすぎて、競争原理が働くに至っていないのだ。

2005年9月17日特大号の『週刊ダイヤモンド』(ダイヤモンド社)誌上にて、JASRACが徴収する1000億にものぼる著作権使用料の配分の実態や天下り人事による組織運営の不透明さなどの問題点を特集した記事が掲載され話題を呼んだ。[1]

また、ジャズ喫茶や音楽を流す飲食店に対し、店舗経営の実情を無視した著作権使用料の取り立てを行い、裁判に発展したケースもある。今年に入ってから、強引な著作権使用料の取り立てを風刺したFlash動画がネットで流れていたのも記憶に新しい。

いずれにせよJASRACの、既存モデルでの著作権料の徴収に無理があるから起きる問題ではないだろうか。

実際すでに、アーティストと有識者、音楽配信システムを手がけるIT企業によって、著作権使用料のあり方から考え、権利者に正しい分配を実現するオンライン課金システム構築の試みが、民間企業主導ではじまっている。競争原理の中で、時代に合った音楽著作権流通のインフラが完成する日も近いだろう。

これまで、音楽業界の不振の原因として、ネットワークによる音楽ファイル交換やCD-Rなどによる容易なデジタル複製技術が槍玉に上げられてきたが、音楽のネットワーク配信が定着してきた現在、音楽文化を活性化させているのは携帯電話を含めたネットワークにほかならない。

音楽を生み出す著作者にとって、不便な制度を見直すことで創作活動を促進させ、著作物の利用者から著作権使用料を合理的に徴収できる仕組みを整備することが、音楽業界の活性化につながるはずである。

ブロードバンド時代においては、JASRACは音楽活動を過度に制限するのではなく、自由を保障していかなければいけないのではないだろうか。ブロードバンド時代においては、個人レベルでの容易な権利の流通が可能になっている。このスピードについてこれなければJASRACと共に日本の音楽文化は衰退していくだろう。

今こそJASRACは音楽文化の発展に資するときではないだろうか。

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[1]記事掲載後、JASRACは、記事の内容は虚偽または歪曲された事実であることを
  理由として、出版社を相手取り、損害賠償と名誉回復措置を求めて東京地方裁判所に提訴。
2007年4月現在も係争中である。


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