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テレビ業界に地殻変動 ─既存の放送局はJoostと共存できるのか─

  • 米国在住ビジネス・コンサルタント

  • 鶴亀 彰

それまでベニスプロジェクトと呼ばれた隠密計画のお面を脱ぎ、今年一月にその正体を明らかにしたJoostだが、いよいよ本格運営開始のようである。

私はモニターの一人としてその進捗状況を見守ってきたが、最近、「何人でも友人・知人を招待しても良いですよ」とのお知らせメールが届いた。更にモニターの数を大幅に増やし、P2P参加の裾野を広げる動きと思われる。

放送される内容も日々充実しつつあり、現在ではNational Geographicの映像などが楽しめる。

先日は欧州や米国、中国の有名なベンチャーキャピタルなどが総額4千5百万ドルの投資を決定した。欧州からはIndex Ventures、米国からはSecoia Capitals、中国からはLi Ka Shing Foundation等が出資する。日本のベンチャーキャピタルの名前がないのが、いつもながら淋しい。

投資した企業の中には映像コンテンツを持つ、CBSやViacomも入っている。Joost側の狙いは、一挙に世界規模にまで事業を拡大することと、十分なコンテンツを獲得することである。

CBSは2千時間に及ぶ同社のコンテンツをJoostに提供すると言う。

また、Viacomは若者に人気のあるMTVやパラマウント映画の親会社であるが、Joostには事業資金とコンテンツを提供する一方、YouTubeに対しては現在、著作権侵害として訴訟中である。

著作権保護を宣言しているJoostには、それ以外にWarner Brothersのテレビ部門などからも映像が提供されている。

Joostは世界で初めて高品質のフルスクリーン映像を、インターネットを通じて配信する新しい時代のテレビ局であるが、配信コストを抑えるためにP2P技術を活用する。

Joostの卓越したP2P技術は、共同経営者であるJanus Friisと Niklas ZennströmがSkypeの成功で世界中に証明済みである。Joostは従来のテレビ放送とは違い、いつでも好きな時に好きな場所で番組を楽しめる視聴者主導のスタイルをとる。

また、インターネットの性質をフルに活用し、双方向性かつリアルタイムのコミュニケーションなども実現するだろう。

映像は全て無料で提供され、広告収入で運営される。すでに広告主としてコカコーラや、ヒューレット・パッカード、インテル、ナイキ、更にはモトローラ、ソニー、ユナイテッド航空、マイクロソフトなど32の大手企業が名を連ねている。中にはThe United States Army(米国陸軍)なども入っている。これからどんどんスポンサーは増えていくだろう。


Joostとコンテンツ提供者は、広告収入を分け合う形になる。今後、既存のテレビ局とJoostを皮切りとするインターネット・テレビ局は、どのように共存していくのだろうか? 大いに注目される点である。

放送と通信の融合が現実のものとなりつつある米国に比べると、日本の動きは遅い。映像の著作権管理の問題でも大きく遅れ、時代にそぐわない古い体制のままである。

アナログとデジタル、国内と国外、放送と通信、その境界は日に日に、それも急速にボーダーレス化する世界の動きの中で、母国日本だけがあまりにもスローに見える。

世界が繋がるインターネット時代においては、国ごとのサービス領域という考え方は古いものになってしまう。

ひとたび、頭に鉢巻を締めれば、ブロードバンドの品質や価格も一挙に世界のトップに立った日本である。

日本のテレビ局は通信(ブロードバンド)を過度に怖れる事なく、積極的にインターネット放送に取り組んだほうがいい。それしか道はない。早目に自ら働きかけることで勝機が見出せるであろう。なぜなら、通信はツールにすぎなく、コンテンツを持つ放送の側が本当は強い立場にあるのだから。

米国のテレビ局も、昨年の秋ぐらいまでは通信を敵視し怖れていたが、彼らはこのままでは通信の発展をとどめる事は出来ないと判断し、去年の冬あたりから一斉に通信陣営(Joost等)との提携を開始した。

人々のライフスタイル変化を受け、米国では、従来の午後7時・8時台がゴールデンタイムという認識は過去のものとなっている。特に若い層はテレビ離れが激しい。

そのような現実から、今後人気を呼ぶと思われるのは、好きな時に好きな場所で楽しめるインターネットTVである。

今までは技術的な難点が多々あったが、現在ではそれが大きく改善され、品質の点で、従来の放送に追いついたといえる。

ここで一斉に金と人材が、インターネット映像配信分野に殺到し始めている。遅かれ早かれこの動きは日本に飛び火することだろう。もう止められない世界の趨勢である。

日本のテレビ局には、放送と通信の融合、著作権処理の簡略化などに、早く本腰で取り組むことを切望している。そうでないと、欧米のみならず、韓国や中国などにもその後塵を拝することになりかねない。



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