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三角合併解禁 M&A買収防衛策の基本

2007年5月1日付けで、新会社法に従って三角合併が解禁された。

新会社法は、2006年5月に施行された法律で、いまから100年以上も前につくられた、商法第2編、有限会社法、株式会社等の監査に関する商法の特例に関する法律などの各規定を、抜本的に見直したものである。

国際化が迫られている日本経済を取り巻く環境の変化に対応する目的で施行されたが、三角合併については、産業界の外資脅威論が根強く、1年遅れでの導入となった。

なぜ外資脅威論が生まれたのか? それは、新会社法により、会社を合併する際に、消滅会社の株式の対価として、存続会社の株式に限らず、現金や他の財産を用いてもよいとされたことに起因する。これにより三角合併の実現が可能になったのだ。

例えば外国会社(親会社A)が日本国内に100%出資の子会社a社を設立し、子会社aが日本の会社であるB社を吸収合併する。その際、存続会社a社は、消滅会社B社に対し合併対価としてその親会社Aの株式を付与することが可能になった。

日本においては、現金や外国会社の株式のみを対価とした合併について疑問視されてきたが、新会社法の施行により状況は一転。国境を越えたM&Aの障壁が低くなったことで、外国企業による日本の会社の子会社化が加速する、という予測が市場を支配した。

三角合併解禁までの延長された1年間は、外資の脅威を軽減するための法整備や、日本企業の買収防衛策を講じる準備期間となった。

野村證券金融経済研究所によれば、日本の上場企業で買収防衛策を導入、または導入を発表した企業は、解禁前夜の4月16日時点で229社だったという。東証一部、二部・地方取引所・新興市場を含めた、全上場企業の5%強が買収防衛策を導入している計算だが、この数字は、多いのか少ないのか?

実際、5月より解禁とされたものの、外国の企業にとっては、会計基準の違いや、内部統制ルールの運用の成果がでていない状態での買収はリスクと考えるのが自然であり、準備は進めるものの本格化するのは、もう少し先との見方が大勢を占めている。

三角合併の解禁で外資企業による敵対的買収が急増するかどうかは何ともいえないが、戦略的な動きをする外資や日系の投資ファンド等による買収は今後、着実に増えていくと考えられる。その根拠は、欧米の会社の時価総額に比較して、日本企業の時価総額が小さいところにある。

世界のマーケットの垣根がなくなるにつれて見えてきたのは、日本国内においてはトップクラスといわれている企業も、世界の競合会社との株式時価総額比較で、肩を並べられるような規模ではないのが現実だ。海外企業と日本企業の主な時価総額の比較として、ざっと以下の例が挙げられる。

【小売業界】
ウォルマート=約24兆円

セブン&アイ・ホールディングス=約3.5兆円
イオン=約2兆円
高島屋=約5,000億円

【製薬業界】
ファイザー=約22兆円

武田薬品工業=約7兆円
アステラス製薬=約3兆円

【食品業界】
ネスレ=約17兆円

キリンビール=約2兆円
日清食品=約6,000億円

こうしてみると、海外の巨大企業がその気になれば、自らの株式の一部で、日本のトップクラスの企業を買収できてしまうのだ。日本の企業は、早急に防衛策を講じる必要がある。

企業買収は、時価総額のみによって決まるわけではなく、買収される側の株主の承認が必要になる。株主が拒否をすれば買収は成立しないのだ。特に、日本では市場の論理より、私情が優先されるケースもあるため、従業員の考えや世論にも影響を受ける場合がある。

しかし、株主や従業員が常に会社の味方であるとは限らない。それぞれの立場でメリットやデメリットを検討した上で決断するのだ。つまり、買収防衛策として、株主や従業員の満足度向上にも努めなければならない。もっとも、株主や従業員の満足度向上は、業績の向上にも直結するので、当たり前のことかもしれない。

三角合併解禁により、日本のマーケットは、より世界の企業および投資家にとってオープンなものになった。今後、日本国内では、企業が世界に通用する競争力をつけるために、戦略的な事業再構築や攻めの経営実践が求められる。そのための有力な選択肢としてM&Aが定着し、各産業における業界再編の活発化が予測される。

買収防衛策の基本は、株式時価総額拡大および株主・従業員の満足度向上だ。これまでの日本では、お金を稼ぐことだけが目的の敵対的買収のニュースが目立っていたが、今後は企業価値を高めるための戦略的合併のニュースが世論を賑わすかもしれない。世界で勝ち抜くために、これまでの日本では考えられなかったような“超企業”が生まれる日も、そう遠くはないかもしれないのだ。



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