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NO STYLE広告論 アジアのコマーシャル Part2

さて、前回は予定を急遽変更して、トヨタの新作「MEET篇」について触れたため、一回あいてしまったのだが、引き続きアジアのコマーシャルを紹介したい。前々回、ここ数年のタイの名作をいくつか挙げたので、今回は今年のアド・フェスト(アジア太平洋広告祭)の受賞作から、新しくて面白いところをピックアップしてみよう。

まずテレビCM部門(テレビロータス)のグランプリはTOYOTA「Humanity」だったわけだが、これについては前回書いた。そのTOYOTAと最後までグランプリを争ったのが、インドのHappy Dent Teeth Whitening Gum(金賞)である。


夕暮れどき、自転車に乗りどこぞへ急ぐターバンを巻いた青年。バックの風景は雄大なインドのそれである。

自転車が壊れたため、途中からダッシュ。その彼をクルマが追い抜いていく。が、不思議なことにそのクルマのヘッドライト部分には、青年と同じようなカッコの男らが身を乗り出している。

青年がマハラジャの宮殿へたどりつくと、庭の街灯から室内のランプ、シャンデリアにいたるまで、宮殿内の灯りという灯りに、人がスタンバイ。彼も自分の持ち場へ急ぐ。

午睡から目覚めたマハラジャが食事のためテーブルにつく時間になんとか間に合い、青年はシャンデリアの真ん中へ。ガムを噛み、白い歯を剥き出したかと思うと皿に光が差す。すると、たくさんの人間照明たちが一斉に点灯し、宮殿は光で満ちあふれる……。

「ガムを噛むことで歯が白くなる(輝く)」ことを誇張したシンプルなアイデアだが、90秒使ってディテールまで丁寧に演出されており、笑える。いかにもインドっぽい音楽が、クライマックス(点灯)に合わせてわざとらしいほど盛り上がるのもいい。

豪勢な生活をするマハラジャやその一族(光輝くダンスホールで踊りまくる)と無言の人間照明たちを対比的に描くことで、いまだ影響力の強いインドのカースト制をちょっと皮肉っているようにも思える。ただバカバカしいようでいて、批評性の高いCMなのだ(何年か前の明治製菓XYLISHのCMで、これと同種のアイデア[人間照明が点灯]があり、そこは気になるのだが)

ほかタイのShera Flexy Board(銀賞/建材のCM。いかにもタイっぽい)や韓国のCanon Power Shot A(銅賞/「引き」と「寄り」の違いを面白く伝えるデジカメのCM)なども個人的には面白かった。

●Shera Flexy Board


●Canon Power Shot A


TOYOTA以外の日本勢はどうか。高橋酒造「白岳(はくたけ)」などが銀賞、コナミ・ウイニングイレブン「人生はサッカーだ」が銅賞を受賞している。

主に地方でオンエアされているため、東京ではほとんどの人が見たことはないだろうが、球磨(くま)焼酎「白岳」のシリーズは面白い。

例えばこんなCM。部下と上司が取引先に謝罪している。が、その誠意のない言い方に「本当に悪いと思ってるの?」と突っ込まれ、二人は同時に「思ってます、思ってます」。そこへ「人間、本当のことは、一回しか言わない」の字幕がインサートされ、「一回しか言いません。球磨焼酎と言えば、白岳」というナレーションで商品に落とす。

「嘘をつくときは思わず言葉を重ねる」という、だれもが身に覚えのある人間の性癖(海外の広告賞を取っているのだから、おそらく多くの国で共感されるのだろう)を恋愛や仕事などの様々なシーンで描いており、そこがちょっと笑えるのだ。

「White Lie(ホワイト ライ)? ─たわいない[罪のない]うそ─」
人間、本当のことは一回しか言わない

●「マミのマンション前」編

●「ケータイ」編

●「ニアミス」編

●「カノジョだよね」編

●「カレシだよね」編

●「マミの部屋」編

●「マミのブティック」編

●「会議の専務」編

●「深夜の帰宅」編

●「広瀬家の団らん」編

●「疑惑の政治家」編

●「職務質問」編


球磨焼酎でwebが充実というのもミスマッチ感があって面白いが、サイトでも上記シリーズCMおよび、その他のCMが視聴できるだけでなく、CMではバラバラに登場する9人の人物相関図までわかる。実はこの人たち、ちょっとややこしく絡み合っていたのだ。http://www.hakutake.co.jp/fun/kokoku/white_lie.html


これまでなら、せっかく面白いものを作っても、タイプ数の多いシリーズCMの場合、十分にオンエアできず、まして、地方CMはその地域に住んでいないと見られなかったのだが、いまは大企業(メジャーブランド)だけでなく、地方の企業でもwebサイトに自社CMをストックして、それが話題になればかなりアクセスを増やせるのだ。

銅賞を受賞したコナミ・ウイニングイレブンも、白岳に近いところがある。こちらはオフサイドやセンタリングといったサッカーのワンシーンが実生活のワンシーンと重なるひとコマを描いて、「人生はサッカーだ」のコピーに落とす。

20タイプ以上をwebで公開し、どれが一番面白いかの人気投票までやっていた(こちらは現在キャンペーン終了)。人物相関図にせよ人気投票にせよ、webならではのイベントを仕かけるのも、いまはキャンペーンの常識になりつつある。アドフェストの受賞作からも、インターネットがテレビCMの形を確実に変えていることが見て取れるのだ。


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