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日本で一番小さなキューバ音楽レーベル「カミータ・レーベル」への招待

  • MediaSabor

●リハーサルに励む若手ミュージシャンたち

以前、「MediaSabor」に寄稿(http://mediasabor.jp/2007/04/post_64.html)いただいたのが縁で、写真家の高橋 慎一氏を取材させていただいた。といっても、写真のことではなく、主宰している音楽レーベル「カミータ・レーベル」(http://www1.odn.ne.jp/kam/index.html)についての話を伺うためである。

最初、プロフィールを確認したとき、音楽レーベルを運営していることが記載されているのを見て、ちょっと信じがたい思いにかられた。音楽C Dの制作・販売、宣伝にどれだけのコストがかかるか、ある程度、認識していたからだ。

フリーの写真家が、なぜ、レーベルを設立したのか、どのようにC Dをプロデュースしているのか、興味を持ったのが取材に至ったいきさつである。


─では、キューバへトリップ!


高橋氏の仕事の比重は、写真 6割、執筆 3割、レーベル 1割くらいだという。
元々、表現すること、表現されたものを見たり聴いたりすることが好きで、表現方法の一つとして写真家という職業を選択した。若い頃は、美術館や画廊に足繁く通った時期もあるとのこと。

「10代の頃は、ロックが好きで、ローリングストーンズやジミ・ヘンドリックスを聴いていた。が、その後、ロックへの興味が薄れ、しばらく音楽から遠ざかった空白の時代を経て、世界中の音楽を聴きあさった。その中で、キューバ音楽に一番インパクトを感じ、よく聴くようになった。」

キューバ音楽は、スペイン系とアフリカ系が融合して生まれたものであり、ラテン音楽の中心的な位置づけにある。代表的なものは、ソン、ルンバ、マンボ、チャチャチャなど。

キューバ音楽というと、「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」(Buena Vista Social Club)を思い浮かべる方も多いだろう。ギタリストのライ・クーダーが、キューバの老ミュージシャンとセッションしたことをきっかけに結成されたバンド名であり、同名でアルバムと映画が制作されている。2000年に上映された映画は予想以上のヒットとなり、アルバムは欧米のラテン音楽ファンを中心に世界中でヒットした。

小さい頃、アメリカに移住したが、マイアミ・サウンド・マシーンのグロリア・エステファンはキューバ生まれである。

日本人によるバンドでは、「オルケスタ・デ・ラ・ルス(Orquesta De La Luz)」というサルサバンドが、ビルボード誌ラテン・チャートで11週連続1位を保持したことがある。サルサは、キューバやプエルトリコ発祥のダンス音楽にジャズ、ロック、ソウルなどの要素を取り入れて、ニューヨークで確立された。

作家の村上龍氏は、キューバミュージシャンの日本公演プロデュースを行うなど、深い関わりを持つことで知られる。


─音楽レーベル設立の動機を教えてください。

キューバにはじめて渡ったのは、1995年。

ある日、キューババンドのリハーサルを見に行ったとき、当時、東京芸大の学生で、休学してキューバの民族音楽を研究していた二田綾子と出会った。1997年のことであり、後に、「カミータ・レーベル」の共同設立者になった人物だ。

キューバは、フォトジェニック(写真写りがよい、写真向き)な国なので、世界中からフォトグラファーが訪れる。日本からも多くのカメラマンが集まっている。

それだけに、ただキューバの写真を撮っているだけでは、自分の存在意義を示すことはできない。当時の自分はキューバと格闘してない、という物足りなさを感じていた。観光客みたいにはなりたくなかったし、無責任な写真は撮りたくないという強い思いがあった。

二田との出会いと、自分のそうした焦燥感が重なったことが、レーベル設立(2001年)の動機である。



●フルート奏者ホアキン・オリベーロス。愛娘と自宅にて。


─アルバムプロデュースと販売方法について教えてください。

ミュージシャンへ直接交渉して、メンバーを集めている。エージェントやコーディネーターを通すことはしない。日本の音楽業界では考えられないことかもしれないが、参加ミュージシャンはキューバを代表する気鋭のアーティストである。

バンド名をハバナ・ジャム・セッション(Habana Jam Session)としてプロデュース。
コンセプトは、キューバ音楽に現代的なテイストを融合したジャズ系サウンド。

スポンサーはついてない。商売としては、大変なのでお勧めしないが、マーケットは世界に広がっている。中南米、ヨーロッパ地域での販売は、米国資本のメキシコのレコード会社との提携により、実現させている。

注目されたきっかけは、2001年にリリースしたアルバム「Crema Nota(クレマ ノータ)」がキューバのグラミー賞といわれている「クバディスコ2006」のベスト・ジャズ・アルバム賞にノミネートされたことにある。

2005年度に発売された約300タイトルの中で激戦区のジャズ部門でベスト4に入ったのである。日本人がプロデュースするアルバムが選ばれたのは初めてのことで、審査員たちは、「Crema Nota」が日本人プロデュースとは知らないまま選出したと思われる。


●『ハバナ・ジャム・セッション/クレマ・ノータ』(ポリスター・レコード)
 キューバのグラミー賞「クバディスコ2006」ベスト・ジャズ・アルバムにノミネート

ほかに、過去プロデュースした作品で人気が高いのは、「Veneracion(ベネラシオン)」。キューバ音楽の今を体現する若手ミュージシャン18人が参加した自信作であり、夢の共演が実現したアルバムといえる。

制作したC Dの日本でのディストリビューションは、ポリスター・レコードとの提携により行われている。

収支は、現在のところトントンといったところ。


─キューバのミュージシャンについて教えてください。

キューバのミュージシャンの多くは、キューバ音楽のみならず、ジャズも高いレベルで演奏できる。

バンドは、一時的なユニットは稀で、結束が強い。のんびりしていて、細かいことは気にしないのがラテンの気質だとイメージされているので、意外に感じるかもしれないが、彼らの練習量はハンパでない。それは、進化してリズムが複雑になっている現代のキューバ音楽をうまく表現するには、アンサンブル(合奏)を磨き上げることが大切だと心の底から思っているからだ。

キューバを代表するグループといえば、何といっても「ロス・バン・バン(Los Van Van)」
が挙げられる。ベーシストのフアン・フォルマルにより1969年に結成された15─16人編成のビッグ・バンドである。キューバのビートルズ的存在で、他に並び称されるようなグループはいないといっても過言ではない。まさにキューバの至宝だ。ボーカリストなどを入れ替えながら、伝統に捉われないポップでエキサイティングなサウンドを繰り出し続けている。


─最後にMediaSaborから、高橋氏の初著書の紹介です。

2007年3月、産業編集センターから「キューバ★トリップ─“ハバナ・ジャム・セッションへの招待”」というフォトエッセイ集が出版されました。キューバに魅せられ、10年間通い詰めた著者だからこそ書けるエピソードの数々。レーベル立ち上げの経緯、ミュージシャンとの出会い、レコーディング風景、その過程で巻き起こるキューバならではのアクシデント、市民の暮らし、食物事情などが自家製プリントによる豊富な写真とともに、生き生きと描かれています。

 


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