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「解雇するのが恐い」、アメリカの悩める経営者たち

  • 米国在住モチベーション・コンサルタント&コーチ

  • 菊入 みゆき

<記事要約>

アメリカの企業が、従業員の解雇をためらうようになっている。訴訟を恐れてのことだ。

GE社は、解雇を不当だとする従業員に訴訟を起こされ、懲罰的賠償金1,000万ドルを含む1,110万ドルを支払う判決を下された。GEはこれを覆そうと係争中だ。業績評価制度の素晴らしさで知られ、秀逸な人材活用システムが世界中で研究対象になっているというGEにして、これである。どこの企業でも起こりうることなのだ。

1991年に、職場での差別の訴訟で、懲罰的損害賠償金と陪審員制度が認められて以来、この分野の訴訟は増加している。連邦裁判所に提起される雇用関係の訴訟の数は、1990年に8,273件であったのに対し、2006年は14,353件。これを氷山の一角として、法廷に持ち込まれない案件が数知れずあるのだろう。

米国企業は、この問題に多くの金と時間を費やしていると思われる。

厄介で高くつく訴訟を避けるために、成果を出さない従業員といえども解雇しない。会社の金を不正に使い込むような社員に対しても、なんら法的措置をとらず、「会社を解雇問題で訴えない」という念書を書かせてから解雇する。こんな事態が、今アメリカ企業で起こっている。

2007/3/23 BusinessWeek(米国の経済週刊誌。1929年創刊)
http://www.businessweek.com/magazine/content/07_17/b4031001.htm?chan=search

<解説>

従業員の解雇は、アメリカ企業のお家芸というイメージがある。映画やテレビドラマでも、経営者の「クビだ」の一声で、社員が荷物をまとめて去っていくというシーンを見る。だが、そんな状況が変わりつつあるらしい。

もともとアメリカでは、人種、宗教、性別、出身国などの理由で仕事上の決定がされることは禁じられている。女性、マイノリティ、ゲイ、密告者、障害者、40歳以上の人なども、同様に法的な保護下にある。今や、法的に保護されていない人を探すほうがむずかしいのだ。

IBMが起こされている訴訟が、象徴的な例だ。同社は、ある従業員を、「仕事中にインターネットの成人向けチャットルームにアクセスしていた」として解雇した。すると従業員は、「自分はベトナムでの兵役でPTSD(心的外傷後ストレス障害)を負い、このような行動をするようになった。IBMは米国障害者法に違反している」と主張し、訴訟を起こしたのだ。

大量のレイオフの話題が報道をにぎわせるが、これらも実際には、法的保護下にある従業員への影響が入念に調べられた上で、行なわれている。企業は、差別によるものでない、正当な仕事上の理由を示して、解雇に踏み切る。

これら差別の問題に加え、最近では、報復訴訟という厄介な裁判が、経営者たちの悩みのタネだ。

社員が、「私が、会社の不当な扱いに対して不満を言ったために、会社は報復措置として、解雇を通告してきた」と訴えるものだ。

GEが起こされている訴訟も、報復措置が重くみられ、1,110万ドルの賠償という判決となった。
いずれにしろ、ことが法廷に持ち込まれると、そのコストと手間はたいへんなものだ。イメージも傷つくし、企業にとってはとてつもない損害だろう。

ではいったいどうすればいいのか。人事、法務関係者は言う。訴訟を起こされないよう、あるいは起こされたときのために、証拠を確保することだ、と。「解雇は、従業員の業績の問題による」と言える証拠だ。即ち、ライン・マネージャーが、日ごろから部下の業績評価をきちんとし、
ミスや失敗などがあったら、それを文書にして残しておくこと。

なるほど。それは、訴訟のあるなしに関わらず、マネージャーとして当然すべきことであろう。

しかし、していないのだ。解雇問題でもめる際、これが最大のネックとなる。マネージャーたちは、業績について部下と話し合うこともしていない。つまり、従業員は、上司との話し合いもなく、いきなり解雇を言い渡されるわけだ。もめるはずだ。

マネージャーらにも言い分はある。そもそもプレーヤーとして優秀だから昇進したわけで、マネージメントに習熟しているわけではない。昨日まで同僚だった人を指導するのは気まずい。
日本の企業でも、よくある話だ。

ともあれ、まずは部下とコミュニケーションをとる。業績目標やその達成度について話し合う。そして、文書化しておく。厄介な訴訟から、従業員と企業を救うのは、やはり、日々の地道な努力しかなさそうである。


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