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野生のコアラを見られるのは、あと何年?

<記事概要>

コアラは20年以内に都市部で絶滅する可能性が高く、その責任は概して人間にある、と研究者は警告する。

サンシャイン・コーストにあるオーストラリア動物園の野生動物病院マネジャーは、「わたしたちにとって象徴的な動物を失ってしまうであろうことは、『もし』や『しかし』ではなく、『いつ』という問題なのです」と語る。

クロコダイル・ハンターこと故スティーブ・アーウィン氏が設立した「ワイルドライフ・ウォリアーズ」と野生動物病院の研究員は、飼育されていたコアラを都市部で自然に帰す研究の成功をふまえ、新たに、無線付きの首輪をはめた12頭の雄コアラを地方で野生に帰し、追跡調査に取り組んでいる。その中には、飼育コアラのほか、病気やケガの治療をした野生のコアラも含まれている。

2007/5/1 The Daily Telegraphより


<解説>

オーストラリアを代表する動物といえば、誰もが思い浮かべるのがコアラ。どこにでもいるようなイメージを持たれているが、野生のコアラは大陸東部から南東部の海岸沿いと周辺の島々にしか生息していない。都会に暮らすオーストラリア人に聞いてみれば、「野生のコアラなんて見たことがない」という人の方が断然多いのだ。

NGO団体のオーストラリアコアラ基金(AKF)は、現在のコアラ生息数を10万頭弱と推計している。異論もあるが、正確な数字は誰にも分からない。コアラの保護は国ではなく、各州政府が管轄している上、実際の保護活動となると地方自治体に委ねられているからだ。

そんなわけで、抱っこされるコアラの寿命が短いことが明らかになり、他州がコアラの抱っこを禁止する法律を制定してからずいぶんたった今でも、観光重視の政策を取っているクイーンズランド州では、旅行者相手に「コアラ抱っこ」を売り物にすることがまかり通っている。

クイーンズランド以外の州にある、抱っこコアラ禁止の法律は、「ストレスが原因で抱っこされるコアラの寿命が短い」ことを訴えるキャンペーンを動物愛護団体が展開し、New South Wales Association of Fauna and Marine ParksやExhibited Animals Advisory Committee などの賛同を得て施行された。

ただし、一部の専門家からは適切に管理されていれば、抱っこコアラがストレスを受けることはないという声もあり、寿命が短いのが抱っこのせいなのか、と疑問の声もある。

とはいえ、1日20時間ほど眠る夜行性のコアラを今もって旅行者に抱っこさせるのは、勝手な人間側の都合だ。

シドニーがあるニュー・サウス・ウェールズ州では、コアラは絶滅の危機が増大している「危急種」に指定されているものの、状況は地域によって大きく異なる。

たとえば、わたしの住むシドニー近郊のリゾート地ポート・スティーブンスでは、住宅地やビーチのすぐそばにある広大なユーカリ林で野生のコアラを見つけることができる。「コアラ注意」を促す道路標識の周辺はいわばコアラの生活圏。看板にはケガをした野生動物を見つけたときに通報する電話番号と共に、交通事故や山火事などで死んでしまったコアラの数が示されている。

野生のコアラが多数生息していることで有名なこの街でさえ、コアラのための予算はないも同然で、病気になったり、ケガをしたコアラの保護は、ほぼボランティア任せ。「コアラ・ケアラー」は、24時間体制の世話ができるよう、自宅に広い庭があり、車を持っていて、いつでも連絡が取れ、仕事をしていないことが必須条件で、治療に関しては地元の獣医が無償で協力している。

南オーストラリア州では、乱獲でコアラが絶滅状態となった約90年前に、本来コアラが生息していなかったカンガルー島に隣りの州のコアラが移された。恵まれた環境で異常繁殖したコアラは、島の生態系のバランスを崩し、あわや駆除という騒ぎにまで発展したのだが、結果的には、捕獲した上で避妊手術や本土への移送をしている。

その顛末が国内外で大きく報道されたせいで、「コアラは増えている」と誤解をしている人も少なくない。実際のところ、コアラ増加に困惑しているのは、孤立したごく一部の地域だけ。全体的に見れば、都市開発や森林伐採で生息地は激減し、毎年数千頭のコアラが車にひかれたり、犬に襲われたりして命を落としている。

自然界に天敵はいないはずなのに、人間と共存するために受難の時を生きているコアラ。「生命体としての地球にとって、人類はガン細胞」なんて説はできれば信じたくないけれど、動物園でしかコアラが見られない時代が、そう遠からずやってくるのかもしれない。


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野生 動物メンバー 2007年08月02日 20:44
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