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「毒」が市場を反転させる

  • 株式会社ジャパンライフデザインシステムズ 代表取締役社長

  • 谷口 正和

■「アンチ」で考える

プワゾンといえばクリスチャンディオールの有名な香水の名前。「毒」のことです。香水によくぞ「毒」とネーミングしたものですが、記号論的にみればよく分かります。最も常識からアンチの場にあるものが最も目立つということです。

むかしストリーキングという、街の交差点などを裸で突っ走るパフォーマンスがありましたが、あれなども記号論的に最もアンチの場に立った行為だったといえましょう。

さて「毒」の論議です。市場が成熟し、物の時代を終え、単なる情報の時代も突破し、サービスの時代に突入した今日、世の中は類似と模倣にあふれています。スーパーへ行けば、あらゆる食品カテゴリーは、ほとんど似たもの同士の陳列競争です。

結果、そこに起きるのはロープライス競争。同じものなら安いほうが売れる。このものの時代の論議から、どうしても抜け出すことが出来ない商品群ばかりです。

どうやって抜け出すか。その手法の一つがアンチ戦略です。逆張り手法といってもいいでしょう。その逆張りの中でも、最も強力な手法が「毒」戦略です。


■成熟社会の求めている物は?

今日の市場の中で一番成熟しているのは、やはりファッション市場でしょう。ファッションは物理的な必要性を超えた、まさに遊びの世界。無駄を遊ぶのがファッションだというわけです。

「毒」がコンセプトのモード誌が創刊されました。『Numero TOKYO(ヌメロ・トーキョー)』(扶桑社)です。

「Numero TOKYO宣言! 毒抜きされたモード誌はもういらない。毒は本質にこそ宿る。」と過激に宣言しています。99年に創刊されたフランスのモード誌『Numero』の日本版として出されたものですが、「毒」をクリエイションに宿る魂であり、モノを生み出すエネルギーとし、創刊号では「毒のある女」「香り」「涙」の3テーマを特集しています。

ファッションは、社会が成熟すればするほど、その無意味性、遊び性が前に出てきます。極端に言えば、いかに実際の役に立たないものを生み出すかが、モードの世界だといってもいいでしょう。

今ではもう当然のファッショントレンドになっていますが、穴だらけのジーンズや破れたTシャツなどは、その最たるものです。

このようなトレンドを生み出すには、どこかで半常識、非常識な発想を持つ必要があります。一番「毒」のある発想とは何か、そのぎりぎりのところを一度考えてみる必要があります。

イマジネーション&クリエーション の時代は、「毒」がブレイクスルー・エンジンなのです。常識に対する非常識、総論に対するアンチ、正論に対する逆論、正解に対する不可解、イエスに対するノー、安全に対するリスキー、正統に対する異端、マスに対するニッチ、多数意見に対する少数意見、ばかばかしくて無意味に見えること、それら一見時代に対する「毒」のような考え方や想像力が、今までになかった、まったく新しい可能性を切り開いていく時代です。

「不潔なスニーカー」コンテストというのがあるそうです。アメリカバーモント州モントビリアで開催され、ユタ州から参加した7年生の少女が優勝。決勝では、勝ち抜いた少年少女が洗ったこともない汚れ切ったスニーカーを履いたまま、その場で飛び跳ねたりターンしたりした後、スニーカーを審査員に提出。審査員はその汗だらけで不潔極まりない、においを順にかいでいき、一番不潔なスニーカーを優勝と決めます。

一見なんとばかばかしいコンテストとお思いでしょうが、話題づくりとすれば相当なものです。

ばかばかしいコンテストで観光戦略を推進しているのがフィンランドです。

「奥様運び選手権」「サウナ我慢大会」「国際雪合戦大会」「寒中水泳世界選手権」「コケモモ摘み選手権」「草刈り選手権」「水中ジョギング選手権」「キス選手権」「蚊たたき選手権」などなど。

「携帯電話投げ世界選手権」は、飛距離を競う部門や、いかに美しく独創的な姿勢で投げられるかを競う部門があるといいます。「毒」とまでは行きませんが、常識はずれの突飛イベントであることは確かです。

一度、市場方向の逆を考えてみてください。ヘルシー、エコロジーだけが顧客の求めているものではないのですから。

■関連情報

●INTERNATIONAL FASHION & CULTURE
「Numero TOKYO」 2006/09/29
http://internationalfashion.blog49.fc2.com/blog-entry-36.html

●Fashionholic Girl「Numero Tokyo 0号 レビュー」 2006/10/30
http://fashion-holic.269g.net/article/3136024.html

●Elastic 「Numero TOKYO創刊号」 2007/03/09
http://taf5686.269g.net/article/3909104.html

●関心空間「Numero Tokyo(ヌメロ・トーキョー)」 2007/03/17
http://www.kanshin.com/keyword/1021252


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