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「アップルVSハリウッド」Apple TVに怯える映画会社

<記事概要>

インターネットから映像をダウンロードするのは、少し以前ならオタクと呼ばれる人々の特権的な楽しみだった。今春、アップル社が発表した新世代の映像レシーバー、アップルTVは、オタクの楽しみを茶の間に開放する画期的な装置だ。

アップルTVを使えば、ネットからダウンロードした映像を家庭用テレビで鑑賞する事ができる。iPodの映像版と考えてもらえば分かりやすいだろう。机の上のPCにかじりついて見るものだったダウンロード映像を居間のソファでくつろぎながら見られるのだから、ユーザーにとっては歓迎すべき事に違いない。

ところが、この新製品に戦々恐々としている人々がいる。大手映画会社のエグゼクティブたちだ。ダウンロードベースの映像の普及は、DVD市場にとっては天敵だ。アップルTVが普及すれば、DVDの売り上げがダウンしてしまうのは必至。それは、かつてCDが辿った道でもある。テクノロジーの寵児、アップルが仕掛けた爆弾は、米国の映像産業にどう影響するのか?

(2007/06/11  Los Angeles Times) 


<記事解説>

YouTubeの登場以来、映像をPCで見るという行為は一般化している。多くのダウンロードサイトに魅力的な映像クリップがアップされ、若者たちは、PCで動画を見る事に何の抵抗も感じない。それでもやはり、最新の映画を鑑賞するのはリビングルームの液晶テレビというのが主流だろう。その方が音も良いし、何より大人数で楽しめる。

この棲み分けがDVDとダウンロード映像の正面からの対立を回避させていたのだが、アップル社はこの分野も切り崩しにかかった。新世代の映像レシーバー、アップルTVを使えば、ダウンロードした映像を、既存のテレビシステムで楽しめるのだ。使い方は至って簡単、アップルTVをテレビに接続し、PCで簡単な設定を行うだけ。PCにストアされた映像は、ワイヤレスでアップルTVに転送され、テレビでの視聴が可能になる。

アップルが運営するソフト販売サイト、iTunesでは、現在約500タイトルの映画が販売されている。更に今月下旬にはYouTubeからの映像も視聴可能になる。ユーザーはDVDショップに足を運ばずとも、これらの映像ソフトを入手できる。この成り行きは、音楽CDの売り上げに大きな影響を与えたiPodの時とまったく同じ。CDと同様、DVDの売り上げが激減してしまう可能性を秘めている。映画会社が警戒感を示すのは当然だろう。まして、各社とも次世代DVD、ブルーレイ(Blu-ray)とHDで更なるマーケット拡大を目論んでいた矢先である。

映画会社としては、ソフトの供給拒否というパッシブな方策で対応するしかない。ソニーピクチャーズ、20世紀フォックス、ユニバーサルスタジオ、ワーナーブラザースが全面的に映像提供を拒み、パラマウントが古いタイトルのみ供給という姿勢で様子を伺う。 全面的なソフト供給をOKしているのはディズニーだけである。(小規模スタジオは除く)

アップル自体は、ソフトビジネスで利益を上げようとはしていない。音楽配信を例に取ると、iTunesにおける1曲99セントという価格のうち、アップルの取り分は10%以下で、殆どの利益はレコード会社に行く。アップルの目的はあくまでiPodを売る事だけ、iTunesはiPod販売のためのインフラでしかないのだ。

インフラが充実すればするほどレコード会社との共生関係も強まり、自社のマーケットも広がっていく。ジョブスの天才的な戦略だが、この手法は映像ソフトでも変わらない。ソフト一本のダウンロード価格は14ドル99セントに抑えられ、そのうち14ドルが映画会社の取り分だ。それでも映画会社のソフト売り上げが縮小してしまう事実は変わらない。

音楽ダウンロードの分野では、最後まで渋っていたビートルズまで陥落させる勢いのアップル。ポール・マッカートニーのソロ作品を手始めに、ゆくゆくはビートルズ作品も配信されると予想されている。長い目で見れば、パッケージビジネスはもはや消え行く運命なのだから、積極的な協力体制を模索する方が、映画会社にとっても得策だと思うのだが…。


■関連情報

●ASCII.jp  「Apple TV & YouTubeがもたらすもの」 2007/06/01
(ITジャーナリスト3人が未来を予測)
http://ascii.jp/elem/000/000/039/39106/

●maclalalaweblog「Apple TV は iPhone より重要」 2007/03/14
http://randomnotes.weblogs.jp/maclalalaweblog/2007/03/apple_tv_iphone_6e28.html

●maclalalaweblog 「Apple TV の狙いはなにか」 2007/02/17
http://randomnotes.weblogs.jp/maclalalaweblog/2007/02/apple_tv_88a9.html

●Life is beautiful Apple TV とネット家電の「おもてなし」 2007/05/01
http://satoshi.blogs.com/life/2007/05/apple_tv.html

●CNET 「Apple TV」はリビングで革命を起こせるか? 2007/03/13
http://japan.cnet.com/news/tech/story/0,2000056025,20345126,00.htm

●Phile Web 「長期試用で分かった “Apple TV” 真の実力」 2007/04/09
http://www.phileweb.com/news/d-av/200704/09/18198.html

●ASCII.jp 買う前に読む!! そこが知りたい『Apple TV』 2007/03/23
http://ascii.jp/elem/000/000/024/24497/

●GIZMODO 「Apple TVのハック5選」 2007/03/29
http://www.gizmodo.jp/2007/03/apple_tv5.html

●CNET  2007/03/26
「フォトレポート:絵で見る「Apple TV」─気になるその使用感は?」
http://japan.cnet.com/news/tech/story/0,2000056025,20345783,00.htm

●アップル─Apple TV
http://www.apple.com/jp/appletv/

●Apple TV(Apple Store Japan)
http://store.apple.com/0120-APPLE-1/WebObjects/japanstore?siteID=DdApwXELjLs-GmsWXy5Vr.0YOFNUW69YLw&family=AppleTV


●New Apple TV Commercial(YouTube映像) 00:29
http://www.youtube.com/watch?v=1HpHyMQR058&mode=related&search=

●Apple TV demo(YouTube映像)  04:14
http://www.youtube.com/watch?v=3G0PTIZdnQo

●Apple TV(イベントにおけるデモ:YouTube映像) 02:50
http://www.youtube.com/watch?v=E1mZaVsZgoE&mode=related&search=

 

 


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