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ミリオネアからビリオネアへ─ 富の二極化が加速するアメリカ

<記事要約>

経済のグローバル化により、急速にその形態を変え始めているアメリカ社会。特に、その二極化現象は、想像を絶するスケールで進行している。

ロサンゼルス郡に住むビリオネア(資産1200億円以上)は現在41人。錚々たるメンバーが、ロサンゼルスの長者番付に名を連ねている。

まず、トップはラスベガスの巨大カジノホテル、ミラージュのオーナー、カーク・カーコリアン。資産約2兆円。やや離れて、VIACOMの大株主、サマー・レッドストーンが9600億円。不動産王エリ・ブロード、7800億円。以下、“10 figure rich(10桁の収入の金持ち)”がずらりと並ぶ。

彼らの存在がロサンゼルスの財政の一端を担っているのは間違いないが、今後もその状況が続くとは限らない。(ロサンゼルス・ビジネスジャーナル5月号)

<解説>

大金持ちの事をミリオネア─百万長者と呼んだのも今は昔、きょうび、100万ドル(一億円)程度の資産はちょっとした家持ちであれば誰でも持っている。それもこれも、ここ数年間続いた土地の高騰や、株式市場の好調などが原因だ。

しかし、誰もがこうした幸運を享受できたわけではもちろんない。南米からの移民を中心とする多くの貧しい人々が、経済の裾野を支えている。

ハリウッドやビバリーヒルズといった特殊な地域を抱えるロサンゼルス郡では、二極化は天文学的な数字にまで広がっている。ロサンゼルスの平均的な家庭の年収中央値は4万4千ドル。約一千万人の人々の総資産の5%を、前出の41人のビリオネア達が占めていることになる。確かな事は統計がないので分からないが、ここまで極端な富の集中は世界でも例を見ないのではないだろうか。

株式市場やITビジネスの好調に支えられ、米国の富裕層は近年ますます増えている。米国の不動産価格が失速気味なのは世界に報道されているが、10億円を超えるハイエンド物件の取引は逆に加速しているという事実はあまり知られていない。

ビバリーヒルズのある不動産ブローカーは、当初19億円で売りに出された家が、26億円で売れたと語る。市場を見渡すと、5億円クラスの家の動きは完全に鈍っているのに、20億円以上の物件は右から左に動いているという。

こうした傾向はカリフォルニアの不動産市場に新たな動きをもたらしている。ロサンゼルス近郊の高級住宅街、マリブビーチ。成功したビジネスオーナーがリタイア後に住む場所として人気が高かった。

しかし、ビーチに面したウォーターフロントは、すでにこうしたミドルクラスリッチの手の届かない価格になりつつある。3億円程度で買える手軽な物件? は、ビーチ沿いにはなかなかない。

二極化は留まるところを知らない。資産ナンバー1のカーク・カーコリアンの昨年の資産ゲイン(有価証券、土地などの価格変動に伴って生じる売買差益)は73%。これはまあ極端にしても、2位のレッドストーンが13%、3位ブロードは17%、メガ資産がさらに富を産んでいる。

資産1200億円以上のビリオネアの人数の推移を見てみると、2000年18人、2003年22人、2006年41人。ここ3年でいきなり倍近くに増えた事になる。

もっともこれらのメガリッチ層を取り巻く状況は、2009年に民主党から大統領が出るとすれば、一変してしまうだろう。株や不動産取引への課税が厳しくなれば、リストから姿を消してしまうビリオネアも多くなる。

そうなるまでに、ビリオネアたちが取るであろう手段は、海外への資産移転だ。メロン・バンクのクリント・ホッジス氏は、メガリッチ層の資産はグローバルな流動性を持っている、と指摘する。世界経済のグローバル化はここ数年で加速した。中国市場、ベトナム市場を始め、米国外への投資対象はいくらでもある。

また、インターネットの普及により、ロサンゼルス市内からだろうが、コスタリカだろうが、情報伝達の面での差は全くなくなっている。税金の高い地域に住む理由は年々薄くなっているのだ。すでにメガビリオネアの一部には、米国を脱出しようという動きも出始めている。

いくら民主党が課税によって福祉を充実させようとしても、そこに課税対象がなければ話にならない。メガリッチの資産が海外に移転される事になれば、米国内は二極化どころか中流以下しか残らないという事にもなりかねない。富を国内に留めておくためには、二極化は必要悪なのかもしれない。



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