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帰巣する社会

  • 株式会社ジャパンライフデザインシステムズ 代表取締役社長 

  • 谷口 正和

社会も人も、何かに戻りたがっているように見えます。国家でさえもそうです。単なるレトロ願望、懐かしさ志向だけでは片付けられない、もっと根源的な何かが人を突き動かしているように見えます。

鳥は必ず夕方になると自分の巣へ帰ります。これは帰巣本能のなせるわざですが、ポイントは「本能」というところです。本能とは「動物個体が、学習・条件反射や経験によらず、生得的にもつ行動様式」のことだそうです。

鳥は帰巣本能を生得的に持っていますが、人だってやはり持っているのです。人のDNAに刷り込まれた帰巣本能の行く先は、やはり自然、歴史、愛ではないでしょうか。

以下の3つです。

1)「生命への回帰」:生きている地球、自然との共生。自然治癒力、地産地消、マクロビオティック等。

2)「自己固有性への回帰」:個人歴史文化への回帰。故郷回帰、土着、産土、江戸回帰、
   平安奈良回帰等。

3)「心・愛への回帰」:愛と絆への回帰。人類愛、家族愛、仲間愛等。
 
今、顧客の3つの巣に帰ろうとする現象が多々見られます。

「こどものための日本こころプロジェクト」というものが発足しました。あの懐かしい線香花火を、花火問屋「山縣商店」を中心とした有志が復活させました。「線香花火 銀座」は老舗ギンザ・コマツによる「こどものための日本のこころプロジェクト」の商品です。パッケージデザインやロゴなども大変美しく、日本文化の原点を感じさせます。

安心食材の地魚、地野菜ブームです。これは出版界にも飛び火して、『旬の食材シリーズ』(講談社)は合計7冊発行し、20万部を突破しています。また地果実ともいうべき「あまおう」「赤ほっぺ」などブランドいちごがブームです。背景には特許庁が「地域団体商標制度」をスタートしたことや、健康志向の高まりで、安全さや旬に再度注目が集まっていることがあります。

植物コスメパワーが再注目されています。 植物は動物のように自分で移動できない為、紫外線や乾燥などから身を守る機能が色素や香り、苦味成分に含まれているといいます。

それら植物のパワーを取り入れたコスメを、使用される成分の花、葉、種実、大豆、果実、幹、根、海藻のカテゴリーに分けてCREA 6月号が紹介しています。

美容の世界は今、健康の世界と融合しつつありますが、女性誌はその辺に敏感です。新しいライフスタイルトレンドウォッチングに、女性誌は欠かせません。

まるで鳥が巣に帰るように人がみな何かに帰りつつある時代です。DNA、無意識、潜在意識などの見えざる「帰巣本能」によって顧客が正しい生命循環に戻ろうとしています。環境破壊、異常気象などの危機意識が、私たちはもちろん、都市や企業の「帰巣本能」を揺り動かしていると見ることも出来ます。

日本人が戻っていく最大の巣は、たぶん「四季」でしょう。近代化でその大半を失ってしまった日本の四季、その産物としての日本の旬。この取り戻しと回帰が、最大の消費モチベーションになるでしょう。

テレビが盛んに放映している田舎の旅、あるいは季節の旅、旬の旅。

テレビは最も人々の潜在願望を顕在化する鏡ですが、この視点で見れば、もう人々は大いなる帰巣を始めているのです。

今、私たちはどこに戻ろうとしているのでしょうか。顧客は一体何に帰ろうとしているのでしょうか。その目的地をよく見定めて、サスティナビリティ性をもった事業を構築していく時代です。

帰巣本能を英語ではHOMING INSTINCTといいますが、要は「ホーム」なのかもしれません。


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