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「部下のほうが高給取りなんて許せない」 管理職か専門職か、あなたはどっち?

  • 米国在住モチベーション・コンサルタント&コーチ

  • 菊入 みゆき

<記事要約>

読者とのやりとりを掲載する「悩み相談コーナー」に、ある企業の管理職から、こんな相談が寄せられた。

「技術者を一人雇いたいと思っている。しかし、自分の部下となるその人材は、自分よりも高い給与を得ることになりそうだ。なんとも不愉快でしかたない。どうしたらいいか?」

回答者は、事例と専門家のコメントを引用し、相談者をいさめる。曰く、
「部下の給与が上司を上回るなんて、よくある話です。マネージャーとプロフェッショナルでは、求められる能力、責任、受ける特典が違うのです。マネージャーという身分には、より安定的な雇用が保証されるなど、いい面もあるのですから、もっと長い目で考えてみましょう」

2007/5/8 THE WALL STREET JOURNAL(全米・世界に影響力を持つ経済新聞。1889年創刊)

<解説>

さすが、業績主義が主流のアメリカ、部下が上司より稼ぐなど珍しくないと言い切る。日本で、そうそう聞く話ではない。

しかし、そうは言っても、この相談者のように、上司と部下の上下関係を意識し、それをしっかり給与にも結びつけて考えるビジネスマンもいる。大手の経済新聞に掲載されるくらいだから、読者の共感を呼ぶ内容なのだろう。

回答者は、セールスパーソンの事例を繙く。コミッション(歩合)制で働くセールスパーソンの場合、稼ぎが上司を上回るのはざらで、社長の年俸さえ凌ぐこともままあるという。

また、この相談にも登場する技術の分野では、深刻な人材難が続いている。かなりの好条件を提示しないと、有能な技術者は雇えない。銀行や保険会社となると、事態はさらにきびしい。技術者たちは、そのような組織よりも、ハイテクの有名企業に入りたがるからだ。会社側は窮余の策として、技術部門用の特別な給与体系を作り、高額の賃金を提示して、技術者のリクルーティングや慰留に努める。

技術職は、自分の専門分野が波に乗れば高給で優遇される。能力がどこでも通用するから、より好条件の会社へと転職を繰り返し、望みの処遇を手にすることが可能だ。が、新技術の出現など時代のすう勢で、一気に給与が下がったり、解雇されたりすることもある。

一方、マネージャー職は、有能な部下に給与の面で追い越されることはあるが、ある程度長く雇用される。

どちらが、お得なキャリアパスなのだろうか。と、悩むことができるほど、両者にそれぞれのアドバンテージがあるのが、アメリカの人材市場の特徴といえよう。

日本の企業も近年は、専門職制度を導入し、技術者に対して管理職以外のキャリアパスを提示している。だが結局は、マネジメント職のほうが好条件となることも多く、技術のプロフェッショナルが、人も羨む処遇を得るという例は少ない。

筆者は、日本の技術者たちとコーチングなどでふれあう機会があるが、やはり、ふたつのコースのどちらを選択するかが話題になる。「技術者の仕事のほうが自分には合っている。が、この先、日進月歩の技術についていけるかが心配」「マネージャーにならなければ、給料が上がらない」などの声から、将来性や経済性を考えると、管理職コースに進むほうが得策、という状況がうかがえる。

日本の社会経済生産性本部の調査によれば、今年の新入社員は、「今の会社に一生勤めたい」と考える人の割合が45.9%と半数に近く、過去最高となった。「条件のよい会社があれば、さっさと移るほうが得だ」とする割合は25.7%で過去最低。業績・能力主義的な処遇を希望する割合は、6割を超えるものの、これも過去最低となった。

技術一本で厚遇され、企業を渡り歩くプロフェッショナルがいるアメリカと、多くの職業人が安定を優先させる日本。雇用事情と職業観については、両者の隔たりはまだまだ大きそうだ。


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