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放送と通信業者の仁義なき顧客獲得競争

  • 米国在住ビジネスコンサルタント

  • 鶴亀 彰

我が家では長年、ディレクTV社の衛星放送でテレビや映画を楽しんで来た。時折大雨の時などにアンテナが影響を受けるせいか、画面がちらつく時もたまにあったが、140チャンネルを越える番組の多さに加え、全米中の野球やバスケットの試合など充実したスポーツ中継も楽しめて満足していた。

ところが最近、それを妻はタイム・ワーナー社のケーブル放送に変えた。現在タイム・ワーナー・ケーブル社が積極的な顧客獲得攻勢を掛けており、放送番組の他に高速インターネット接続やデジタル電話サービスを含めたパッケージ料金を格安で提供しており、そちらのほうが得なのだと言う。

今まで高速インターネット接続料は、プロバイダーのアースリンクが地元の電話会社との提携で提供していたADSLサービスに別途払っていたので、タイム・ワーナー・ケーブル社との契約に変えれば、それが必要でなくなり、我が家のエンターテインメント・通信コストが安くなるとの説明である。

タイム・ワーナー・ケーブルは現在、米国第二位のケーブルテレビ(CATV)会社である。1,460万軒の顧客を持つ。因みに第一位はコムキャストであり、彼らの顧客数は2,420万軒である。コムキャストはAT&Tのケーブル部門であったAT&Tブロードバンドを買収してからケーブルテレビ(CATV)業界の一位になっている。

コムキャストの方も負けていない。「ケーブル放送、高速インターネット、米国内無料で掛け放題の電話のパッケージを選択すれば、それぞれが29ドル95セント、つまりトータル89ドル85セントで済みますよ」と宣伝攻勢を掛けてきて、うるさい位に電話やDM、メールで売込みがある。

それを受けて今度は、タイム・ワーナー・ケーブルが新規プロモーションとして「最初の12ヶ月は通常料金から大幅に割引しますよ」と攻めて来る。長年使っていたディレクTVからは、すぐにメールが入った。彼らも「高速インターネット接続を提供しており、わずか10ドルの追加で楽しめますよ」と粘る。

AT&Tの本体は、2005年にSBCコミュニケーションズと言う大手地域電話会社に買収されたが、長年のブランドの強さを活かし、買収された方の名前が採用された。わずかにロゴが小文字に変わった。そこで彼らは現在、Yahooと提携した高速インターネット接続に加え、持ち前の電話通信での利便性を強調している。

衛星放送会社にケーブルテレビ(CATV)会社、電話会社の大手が三つ巴になり、仁義なき顧客獲得競争が繰り広げられている。消費者はしつこい位の売り込みに辟易しながらも、どのサービスが本当に得か、色々な会社のサービス提供価格とサービス内容、そして品質を見比べながら決めている。

一つオチがある。

いろいろ見比べてタイム・ワーナーに決めた妻であるが、ちょっと困った事がある。毎月100ドル程の出費であるが、チャンネル数も十分あり、インターネット接続も早く、市内・州内、国内、プエルトリコまで電話が無料ということで文句の付けようがない筈だった。

だが、顧客サービス担当者は近くにいない。全てインドである。切り替え後の電話接続がうまく行かなかったので、電話を入れたら、返って来た説明はインドなまりの英語だった。親切ではあるが、やはり米国人とは言葉のやりとりの仕方やスピードに違いがある。

また、インドからリモートオンライン制御で直そうとするが、うまくいかず、結局ロサンゼルスのタイム・ワーナー・ケーブルのセールス・エンジニアが出向いて来てくれて一件落着となった。 他社も人件費削減のために、顧客サービス部門はインドに置いている。

高品質の放送と通信のサービスに、我が家の住人全員が今のところは満足しているようである。


■参考情報

●IT-PLUS 小池良次の米国事情 2007/05/30   
「米国でついに始動する双方向CATV基盤“OCAP”」http://it.nikkei.co.jp/internet/column/koike.aspx?n=MMITbo000029052007

●FON Blog「FONとタイムワーナーケーブルが提携!」2007/04/24http://blog.fon.com/jp/archive//fonaaaaaaaaaaaaaie.html

●IT-PLUS 小池良次の米国事情 2007/02/22   
「AT&Tが苦闘する通信・放送融合の技術ハードル」http://it.nikkei.co.jp/internet/column/koike.aspx?n=MMITbo000022022007

●IT-PLUS 小池良次の米国事情 2006/09/07  
 「米通信キャリア・CATV、“第4世代”にらみ無線免許オークション白熱」http://it.nikkei.co.jp/internet/column/koike.aspx?n=MMITbo000007092006

●小池良次の米国情報通信ブログ 2005/08/17   
「次世代を目指す米国新通信法で米国は大騒ぎ」http://blogs.itmedia.co.jp/ryojikoike/2005/08/post_528f.html

●CNET  2003/05/26
「米電話会社、ビデオとTV配信サービスの提供でケーブル会社に対抗」http://japan.cnet.com/news/com/story/0,2000056021,20054631,00.htm

●CNET  2003/05/23
「米AOLタイムワーナー、ケーブル通話サービスに参入」http://japan.cnet.com/news/com/story/0,2000056021,20054600,00.htm

●CNET  2003/05/15
「Wi-Fiを武器に-電話会社vsケーブルTVの対決」http://japan.cnet.com/news/com/story/0,2000056021,20054369,00.htm


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