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託児所不足が招く、違法ベビーシッターの増加

<記事要約>

国家基金の調査によると、スイスでは、12万人の子どもに対して、託児所や家庭託児所の空き5万人分が不足している。託児所増加が遅れている原因は、開設の手続きが煩雑なこと。

スイスでは、政府でなく各州が保育政策を決定しており、「スイス託児所協会」の指針を採用したり、協会の指針に大きな影響を受けたりしている州が多い。託児所開設に当たり、チューリヒ州などのように、非常に細かい保育指針の提出を求め、障害児用のトイレを作るよう強要することもある。

保育士1人あたりの子どもの数も規制されている。スイスでは、一般に、保育士1人に子ども4人という少なさだ(表参照:オレンジ色部分が保育士、紫色部分がそれに対する子供の数)。保育内容、部屋の構造、保育士の確保・・・と、厳しい規則が保育料金を2割増しにしていると推測する専門家もいる。

  


政府は多額を投じて、託児所新設を支援している。おかげで、2003年から2007年には1万3000人分が用意された。さらに来年以降4年間は、1億2000万フラン(約120億円)の出資にも賛成している。しかし、これで最後だという。

政府当局では、次の4年間に1万3000人分がまた新設されるだけで、需要が完全に満たされることは長期に渡ってないと見ている。
2007/4/26号 FACTSより <スイスの時事ニュースを扱う週刊誌>



<解説>

スイスでは、「仕事か育児か」と悩む女性が多い。出産してもキャリアを中断しないことは、とても難しい。とくに乳児を預けるサービスの空きが、とにかく少ない。

たとえばチューリヒ州では、需要のおよそ60%しか満たしていない。2005年、0から5歳まで1万1545人のうち施設(一時預かりを含む)を利用できたのは、6831人のみだ(チューリヒ州統計局、2005年指数より http://www.kinderbetreuung.zh.ch

チューリヒ市郊外のある市営託児所の話。カウンセラーとして働くAさんが出産4ヵ月後に仕事に復帰しようと空きを問い合わせたら、5年待ちと言われたとか。一方、私営託児所の返事も「ウェイティングリストに名前を書いても、空きは数年見込めない」だった。Aさんは、結局、職場の託児所をやっと説得して仕事を再開することができた。

こんな調子だから、早々と、妊娠中から託児所探しをして申し込む人までいる。

そして費用も本当に高い。この市営託児所で、最低回数の「週2日(全日)」預けた場合を見てみよう。料金は家庭の年収によって決まり、年収が高いほど市の助成率は低い。年収6万フラン(約600万円)の家庭の場合は半額になるが、それでも月額400フラン(約4万円)。年収5万フラン(約500万円)の家庭だと、月額336フラン(約3万3600円)という具合だ。

スイスでは、7歳以下の子どもを持つ家庭のうち、両親共にフルタイムで働いているのは12%、パートで働いている母親は約37%、そして主婦専業の母親は37%だという(連邦統計局、2000年の数値)。 何らかの仕事を持っている母親たちが、子どもを長時間預けるサービスを利用できないとしたら、いったい誰に頼るか。両親や義理の両親だって、せいぜい週に1度といったところだろう。

そこで登場してきたのが、ナニーやベビーシッター。家庭で赤ちゃんや子どもの世話をしてくれる女性だ。正統派ナニーは、子どもや育児についてしっかりと教育を受けている。イギリスのナニー養成は有名で、ナニーを世界に派遣するエージェントも多数ある。そのイギリスのナニー需要が、スイスでも増加しているそうだ(2007/3/1号 FACTS)。

記事中、スイスで働くイギリスのナニーの数は公開されていない。しかし、5万人の違法ナニーがいるという調査結果が公表されている。不法滞在をしている若い外国人女性にとっては収入を得られ、雇う家族にとっては費用が安く済むことがやはり魅力なのだ。何しろ、トップレベルの正統派ナニーは月額4500フラン(約45万円)もかかる。   

違法ナニー5万人という数は、くしくも託児所の空きを望む子どもと同じ数。でも中には、乳幼児だけでなく、小学生の世話を任せる働く母親もきっといることだろう。スイスには学校に給食制度がなく、子どもたちがお昼に一時帰宅するという慣習が残っているからだ。

託児所事情を改善するには、各州の保育政策を変えなくてはならない。でも政党間で「信念の対立」があり-----保守派は、母親が育児をすべきだから託児所は増やさないでいいと主張し、左派は、託児所は単なる預け先ではなく教育の使命を持っていると叫ぶ-----、話し合いがなかなか進まない。託児所政策を全国統一しようという動きもあるが、実現への道のりは長い。


■参考情報

●西森マリーのUSA通信「イギリス人ナニーはアメリカのステータスシンボル」 2006/04/13
http://eng.alc.co.jp/eiga/usa/2006/04/post_13.html

●ちんぴら犬リューの更生日記 「スーパーナニー」 2006/05/15
http://pareana.exblog.jp/3613798/

●はじめの一歩「カリスマベビーシッター」 2007/01/20
http://blog.firstwalk.jp/?day=20070120

●たま店長のおすすめ本「お子様大好き」 2006/07/08
http://123no.blog68.fc2.com/blog-entry-60.html

●CINECHANの映画感想「あなたにはナニー・マクフィーが必要」 2006/05/14
http://cinechan.at.webry.info/200605/article_7.html

●Parallel J 『Nanny McPhee』(ナニー・マクフィーの魔法のステッキ) 2006/04/21
http://johnny.blog.drecom.jp/archive/306


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