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アップル(Apple)社が台頭する音楽流通ビジネスの覇権争い

  • 米国在住ビジネス・コンサルタント
  • 鶴亀 彰

私の周りにもアップル社の話題の新製品iPhone(アイフォン)を持つ者がちらほら出て来た。誇らしげな顔で、あたかも自分がアップル社の営業マンになったかのように、熱心に微に入り細に入り、新規機能に付いて同僚に説明している姿を職場で見掛ける。

確かにそれは良く出来たワイド画面のiPodであり、携帯電話であり、インターネット・コミュニケーターでもある。3.5インチ(320x480ピクセル)の画面も鮮明であり、135グラムと軽く、縦115ミリ、横61ミリ、厚さ11.6ミリのサイズも手頃である。タッチセンサー式なのもカッコよい。

このiPhone(アイフォン)の人気もあって、音楽ビジネス業界に置けるアップルの地位は大いに上がっている。巨大な米国の同業界にあって、音楽ビジネス(販売)の最大手は小売業界トップの地位にあるウォルマートであり、二番手は家電やパソコン機器販売の大手ベストバイである。三位は最近まではネット販売の大手、アマゾン(Amazon)だった。だが戦況は変化し、現在ではiTunesやiPodをひっさげたアップル社がその地位を奪っている。

しかし従来の音楽ビジネスの巨人達も黙っていない。上記4社は音楽の流通業者であり、制作業者ではない。世界最大の音楽レーベルであるVevendi傘下のUniversal Music Groupがアップル社へのコンテンツ提供契約を破棄した。そこには制作者側である従来の音楽ビジネス企業の、新しい流通形態をとるアップル社に対する不満があると噂されている。それは音楽ビジネスの覇権争いにも繋がる。

その覇権とは価格決定力である。従来は制作者側がレコードやテープ、CDを制作し、価格を決め、流通業者側に渡していた。それは商品が手に取れる物だった。しかし、アップル社の場合の商品は目に見えないデジタル・データとしての音楽である。価格は手に取れる物より遥かに安価に設定され、その決定権はどちらかと言うと流通業であるアップル社側にある。

映画の場合や家電などの場合でも制作業者側と流通業者側の間で、どちらが価格決定権を持つかで覇権争いが繰り返された。映画の場合は映画会社と大手映画館チェーンとの戦いである。家電の場合では、大手スーパーが大量販売の力を誇示し、メーカー側に厳しい価格提供を強いたり、挙句には自社(流通側)ブランドでの制作・製造にまで手を広げるケースもある。

まさかアップル社が自分で音楽を制作し始めるとは思わないが、最近では大手レコード会社の手を離れ、有名バンドが自分達でマスターを作り、インターネットを活用し、直接ファンに販売するケースなども生まれている。音楽家と従来のレコード会社(最近ではその呼び名は実態に合わないが)、そしてアップル社などの流通業者との三つ巴の争いになりつつある。

今回のUniversal Music Groupとの提携破棄で、アップル社は米国で毎年制作される新作音楽の三分の一を失う事になる。一方Universal Music Groupの方も躍進著しい流通チャネルを失う事になる。

これからどうなるか、両者の動きが注目される。もっとも米国でのビジネス上の喧嘩は交渉戦略の一つでもある。提携が破棄されたとはいえ、お互いに条件が合えばすぐ仲直りすることも、米国におけるビジネスシーンでは日常茶飯事である。

今回の動きは、音楽ビジネス業界での価格決定権が新興の巨人アップル社の手に渡る事を不満に思うUniversal Music Groupの明確な意思表示であり、覇権を守り通す決意の現れであろう。その一方、Sony BMGはアップル社と一年間の音楽コンテンツ提供の契約を発表した。iPhone(アイフォン)の市場拡大のゆくえは、音楽ビジネスという戦場における、今後の合従連合や盛衰に大きな影響を与えそうである。


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■関連情報

○MediaSabor 2007/07/16
 Napster(ナップスター)は「自宅にものすごく膨大な量の楽曲が入っている試聴機が来るようなもの」
http://mediasabor.jp/2007/07/napster.html

○MediaSabor  「iPhone発売を前に、米アップルの株価上昇」 2007/06/26
http://mediasabor.jp/2007/06/iphone.html

○中島聡 Life is beautiful 「iPhoneのビジネスモデル」 2007/07/12
http://satoshi.blogs.com/life/2007/07/iphone-2.html

○CNET   2007/07/09 
 「ユニバーサル・ミュージック、『iTunes』での楽曲販売事業から撤退か」
http://japan.cnet.com/news/tech/story/0,2000056025,20352481,00.htm

○CNET 「iPhoneの日本展開が難しい本当の理由」 2007/07/03 
http://japan.cnet.com/column/mori/story/0,2000055916,20352074-2,00.htm

○CNET  2007/06/13
 アップル、人気SNSのBeboで「iTunes」の楽曲を販売へ─英紙報道
http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20350757,00.htm

○CNET  2007/06/04
 アップル、文化庁を激しく非難─「私的録音録画補償金制度は即時撤廃すべき」
http://japan.cnet.com/news/tech/story/0,2000056025,20350151,00.htm?tag=nl

○WIRED VISION 「Apple全製品の系統図」からわかること 2007/07/09
http://wiredvision.jp/news/200707/2007070920.html

○WIRED VISION  2007/06/22
  Appleは「ネットワーク・イノベーション」企業ではない
http://wiredvision.jp/news/200706/2007062222.html

○林檎の歌 「とうとう携帯電話まで手に入れたiTunes」 2007/07/02
http://applesong.blog8.fc2.com/blog-entry-576.html

○渡辺千賀 On Off and Beyond  「iPhone元年が始まって」 2007/06/30
http://www.chikawatanabe.com/blog/2007/06/iphone-1.html

○ITmedia News  2007/07/02
 「iPhoneはユーザーに対する裏切り」とFree Software Foundation
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0707/02/news023.html

○ITmedia News 「発売前のiPhoneを2週間使ってみた結論」2007/06/28
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0706/28/news009.html

○ITmedia News  2007/06/25
 「iTunesがAmazon抜く ─Appleが米国第3位の音楽小売店に浮上」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0706/25/news020.html

○100SHIKI.COM  2007/06/21
 iTunesのダウンロード速度を10倍速にしてくれる『Get Autobahn』
http://www.100shiki.com/archives/2007/06/itunes10get_autobahn.html

○iPod情報局 
  「iTunes plus登場!買ってみましたDRMフリー曲!」 2007/06/01
http://blog.nikkeibp.co.jp/arena/ipod/archives/2007/06/itunes_plusdrm.html

○maclalalaweblog 
 「ダウンロードサービスには未来がない:Forrester」 2007/05/15
http://randomnotes.weblogs.jp/maclalalaweblog/2007/05/forrester_87a5.html

○女性が「きれいに生きる」ことを応援するブログB-blog  
 スティーブジョブズのすばらしいスピーチ、「ハングリーであれ、馬鹿であれ」 2007/06/23
http://www.b-do.com/blog/2007/06/post_36.html

○iPhone Magic(YouTube映像)01:12
http://jp.youtube.com/watch?v=lcB8CKa73B0

 


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