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NO STYLE 広告論 Cannes Lions 2007(カンヌ広告祭)現地取材 Vol.2

今回はカンヌレポートの二回目。前回は、スクリーニングや受賞式、連日なぜか深夜まで続くパーティなど、主にフェスティバルの様子をお伝えしたので、今日は今年の上位入賞作はどんなラインナップか、各カテゴリーのグランプリを中心に紹介したい。(受賞作はすべて以下のアドレスでご覧頂けますが、例年約1─2ヶ月で見られなくなってしまうのでお早めに)

http://www.canneslions.com



○Hondaが2007年「Best Advertiser of the Year」を受賞。
  壇上にASIMO登場の演出。


■フィルム部門

フィルム部門のグランプリは、前々回に予想した通り、UNILEVER CANADAの
「EVOLUTION」(Agency:Ogilvy & Mather,Toront)だった。

http://www.youtube.com/watch?v=iYhCn0jf46U

下馬評通りの結果で意外性はないが、かなりリアルなメイキング風の早回し映像を用いることで、世間に出回る広告に見られる女性の美しさはフィクションに過ぎない(DOVEはリアルな美しさをサポートするブランドである)というメッセージがズシリと伝わる。

映像のインパクトの強さで、ほかを抜きん出るものだった。もちろん映像だけがすごいわけではなく、多くの人が日頃雑誌などを見たときに感じている「これって修正してるよね」というあの違和感(=消費者のインサイト)を捉えたアイデアがベースにあったからこそ、世界の共感を得られたのだろう。ちなみに「EVOLUTION」はサイバー部門でもグランプリを獲っている。

ゴールドの受賞作から、その他の面白いところを紹介しておこう。例えば、COCA-COLAの
「VIDEO GAME」(Wieden+Kennedy,Portland)。タイトル通り、テレビゲーム風のCG映像。

一台のクルマがパトカーに追われながらダウンタウンを暴走している。クルマが急停車したかと思うと、中から、グラサンをした、いかにも“コワモテ”な感じのあんちゃんが登場。彼は目の前のストアに押し入るなり、店主ににらみをきかせてコカ・コーラをただ飲みする……かと思いきや、なんと律儀に金を払う。

その後も、肩で風を切って街を歩きながら、物乞いの前に札束を放り投げたり、不幸そうな男を美女たちが乗るオープンカーに放り込んだり、ひったくりから鮮やかに荷物をひったくって被害に遭ったおばあちゃんに返すなど、ならず者風の見かけを裏切る「スカッと爽やか」な振る舞いを連発。

ゲーム風の映像とあいまって、それがいかにも“コーラ”なシズルを放っているのだ。我々のような東洋人から見ると、若干おせっかいに思えなくもない「正義」を自信に満ちた態度で行うところが実に“アメリカン”なのだが、作り手は自国のそういった部分も承知の上で、ユーモアにしているかのような余裕さえ感じる。

「アメリカ」をわかっているといったらいのか。いまの世界にあって、CMで人間の「善」みたいなものを、このような形で描いたのは、ちょっと珍しいことではないだろうか。
「EVOLUTION」がサイバーでグランプリを取った以上、フィルムのグランプリはこちらでもよかったのではないかと、個人的には思った。

http://www.youtube.com/watch?v=7wt5FiZQrgM

その他、WIND ENERGY INITIATIVE「POWER OF WIND」や
http://www.canneslionslive.com/film/win_2_2_03927.htm

アムネスティ「SIGNATURE」
http://www.canneslionslive.com/film/win_2_2_04506.htm

も受賞式で盛大な拍手を浴びていた。グランプリやゴールドを獲るようなコマーシャルは、フィロソフィーやある種の社会性(特に公共広告でなくとも)を感じさせるものが多い気がする。一発ギャグの面白さではなく、人間に対する深い洞察が備わっているのだ。

リーバイスの「DNGEROUS LIASONS」はひたすらカッコよくてスタイリッシュな英国風CMで ある。
http://www.canneslionslive.com/film/win_2_1_01875.htm


日本からは、松下電器産業「オキシライド電池」(博報堂)がブロンズを受賞(プロモライオンも受賞している)。乾電池だけのパワーで人を乗せた飛行機を飛ばすというアイデアは、比較的思いつきそうな気もするが、それをプロジェクトとして実現させたところが驚きだ。
下記YouTubeにてメイキング映像が見られます。

http://www.youtube.com/watch?v=_2_2q6njdOs  07:52


TOYOTA「MEET」はノスタルジックなトーンが好きだったので、受賞を逃したのは実に残念である。

ほかの部門の受賞作は以下の通り。

■アウトドア部門

グランプリは、南アフリカの「NED BANK」という銀行のビルボード広告。一見デザインも凝っているとは言えない、なんの変哲もないビルボードだが、太陽発電の装置が取り付けられており、貧しい村に無償で電気を供給することができるという。「世界の貧困」と「エコ」の両方にアプローチするアイデアが素晴らしいが、なぜ銀行がこのような取り組みをするのかがちょっと気になった。

http://www.canneslionslive.com/outdoor/


■メディア部門

メディア部門は、これまでのTV、新聞、雑誌、ラジオといった固定観念にとらわれない、斬新なメディア・プランニングを評価するカテゴリー。アイデアや表現が面白いだけではなく、実際にどれくらいの効果があったかという点なども審査基準になっているようで、毎年審査では「クリエイティブ・アイデアか、メディア・アイデアか?」といったところが争点になっている。

今年のグランプリは、「ASB BANK」というニュージーランドの銀行の電子マネーの広告。既成の広告に興味のない若者たちを振り向かせるために、誰もが興味のある“お札”をメディア化した。

といってもその表現は、お札に登場する「偉人」の顔をピクセル化してデジタル感を出すという、わりとシンプルなもの。ここが「クリエイティブアイデア」ではなく「メディアアイデア」を競う、メディア部門たるゆえんなのだろう。表現云々ではなく、「お金」をメディアにしたところが面白いというわけだ。本物そっくりの札を作ったようなのだが、法的には大丈夫だったのだろうか?

例年そうなのだが、この部門では日本の活躍も目立ち、

●日立製作所「タイムマシーン? 洗濯機?」(電通/ゴールド) 

●IKEA(アサツー ディ・ケイ/ゴールド) 

●小学館 「コミック」(電通/シルバー) 

●日清食品「どんべえ」(アサツー ディ・ケイ/ブロンズ)  

●Microsoft「Big Shadow」(GT.Inc/ブロンズ)

●原宿表参道欅会 「akarium」(777INTERACTIVE/ブロンズ)

と6作品が受賞している。

http://www.canneslionslive.com/

からメディアライオンの結果へジャンプしてください。

小学館は、日本発の技術である「QRコード」を日本独自の文化である「漫画」にリンクした点が評価されたようだ。各国のジャーナリストが情報収集のために利用しているプレスルームが会場にもうけられているのだが、そこで海外のジャーナリストからも、「QRコードって一体なんなの?」と尋ねられたりした。けっこう珍しいのだろう。
 
http://www.canneslionslive.com/media/win_3_1_00146.htm


■サイバー部門

なんとグランプリが3作品も出た(2作品は過去にあった)。
3つはちょっと多い気もするが、このジャンルへの応募作が多様化していて、ひとくくりにできない現状を表しているとも言えそうだ。
 
UNILEVER CANADA「EVOLUTION」のほか、Diesel「HEIDIES 15MB OB FAME」(Farfar,Stockholm)とNIKE 「NIKE +」(R/GA,New York)がグランプリを受賞している。

ひたすらクオリティの高いweb動画が「EVOLUTION」とすれば、Dieselは二人の女性が有名になるためにDieselのwebサイトをジャックして、自分たちの日常生活をリアルタイムで見せ続けるという、ふざけた着想が面白い。

彼女たちに拉致されてきた男がそこに加わるのだが、彼らが身につけているのはもちろんDieselの服である。「NIKE+」はスポーツ(NIKE)と音楽(iPod)のコラボをwebでサポートするアイデアが評価されたのだろう。リアルな体験にバーチャルなwebをかませるところは、今後webと広告がつきあっていく上での、大きなヒントになっているようにも思える。

メディア以上に、日本が大活躍しているのがこの部門。

●Microsoft「Big Shadow」(GT.Inc/ゴールド)

●資生堂「LIKE A DOLL」(BB MEDIA/ゴールド) 

●ユニクロ「UNIQLO.COM」(THA*/シルバー) 

●WEAVETOSHI「DAY DREAM」(QUBIBI/シルバー)

●小学館「COMIC」(電通+葵プロモーション/シルバー) 

●NATIONAL ASTRONOMICAL OBSERVATORY OF JAPAN
  「4D2U NAVIGATOR」(JUN KOSAKA OFFICE/ブロンズ)

●日本コカ・コーラ「Squeeze」(博報堂/ブロンズ)

●Microsoft「Handshake」(博報堂/ブロンズ)

●ナイキ「Cosplay」(GT,inc/ブロンズ) 

と9作品が受賞している。


■チタニウム部門

チタニウムはインテグレイテッド(統合キャンペーン)部門とチタニウム部門の二つに分かれている。インテグレイテッドのグランプリは、UNILEVER「AXE3」キャンペーン(Vegaolmosponce,Buenos  Aires)。

チタニウムのグランプリが、BURGERKING「XBOX KING GAMES」キャンペーン(Crispin Porter+Bogusky,Miami)だった。「XBOX KING GAMES」は、BURGERKINGがXBOX用のゲーム(もちろんその中にはBURGERKINGの商品やキャラが登場)を作って、それを大々的にPRしていくというキャンペーンだが、発想自体はそれほど目新しいものではなく、未来の広告のあり方を予感させる「フレッシュアイデア」に与えられるチタニウムにふさわしくないのではないか、という意見もあるようだ。(ちなみに昨年この賞を獲得したのは、日本のデザインバーコード)

同部門の審査員長を務めたアレックス・ボガスキーが主催するCP+Bのエントリー作ということや、ただの受賞に留まったNIKE+(サイバーではグランプリだが)の下馬評の高さを考えるとすっきりしない結果とも言え、今後議論の余地がありそう。

2004年のsubservientchicken(着ぐるみのチキンが、こちらの言うことをきくwebサイト。http://www.subservientchicken.com)以来BURGER KINGが続けている、様々なチャレンジングな試みを総合的に評価したとは言えるかもしれない。それにしても、フィルムゴールドのCOCA-COLAとはまた違った意味で、実にアメリカっぽいキャンペーンだと感じた。


■その他

かなり長くなってしまったので、プロモ部門、ダイレクト部門、プレス部門、ラジオ部門、ヤングクリエイティブ部門については公式サイトを見て頂くことにしよう。ひとつ付け加えるとすれば、毎年優れた広告を世に送り出し続けている「Best Advertiser of the Year」を今年はHondaが受賞。

「Cog」篇(03年ゴールド受賞)や「Grrrrr」篇(05年グランンプリ)など、ここ数年のカンヌでの人気作を一本にまとめた映像(多くはWieden+Kennedy,Londonが手がけたもの)が流され、壇上にASIMOが登場する演出はなかなか微笑ましいものだった。


●The Cog (Honda Accord Commercial):Rube Goldberg Machine
http://www.youtube.com/watch?v=uyN9y0BEMqc 02:01

●Honda Grrr
http://www.youtube.com/watch?v=BAaPkLHkY14  01:31

●Honda Impossible Dream
http://www.youtube.com/watch?v=fB_1gPRCLCo  02:00

●Honda Civic- Choir(クワイヤー:合唱団)「コーラス」
http://www.youtube.com/watch?v=GuyaVcqTgic 02:09 



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※広告批評 7月号の特集は「Web広告10年!」です。
目次は http://www.kokokuhihyo.com/magazine/new/index.html
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■関連情報

○MediaSabor  2007/07/02
 「NO STYLE 広告論 Cannes Lions 2007(カンヌ広告祭)現地取材 Vol.1」
http://mediasabor.jp/2007/07/no_style_cannes_lions_2007vol1.html

○渡辺英輝 29man(ニクマン) 「“Creativity”の再定義」2007/07/09
http://www.29man.net/blog/2007/07/creativity_24fd.html#more

○SPFDESIGN.BLOG 「Cannes Lions 2007 Young Creatives」2007/07/01
http://spfdesign.com/blog/archives/entries/000416.html

○カンヌ広告祭2007 
 「カンヌ07:大躍進したGT Inc(日本)の正体」 2007/06/27
http://cannes-lions.jugem.jp/?eid=49#sequel

○SUNTARO BLOG 「カンヌ広告祭2007 Banner Ad」2007/06/22 
http://blog.suntaro.com/2007/06/2007_banner_ad.html

○ecogroove 「カンヌ広告祭で、エコ広告がグランプリ!」2007/06/21
http://www.econakoto.net/ecogroov/article/14

 


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