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NO STYLE広告論 Communication is Passion Part1─CGMクチコミに潜む問題

さて。ようやくカンヌシーズンも一段落した印象です。受賞したクリエイティブには、まだまだコメントしたい、あるいは、もうちょっと掘り下げて考えてみたい優れたものもありますが、ずっと立ち止まっているわけにもいかず、ともかくその先へ──

これまでの連載12回を振り返ると、ネット空間に漂う無数のバイラルムービーから、ここ数年、特に傑作とされているものや世界中で話題になったもの、広告としてある程度の成果をあげたのではないかと思われるものを主に紹介してきた。これからも基本的には、その路線を進むことになると思うが、区切りのいいところで一度、広告の世界でいま起こっていることをちょっと整理してみたい。

それはなぜか? 広告の世界で最近やたらとクローズアップされている「従来型のマス広告とインタラクティブ広告、そしてGoogleを始めとする検索連動型広告の関係」について、あるいは「CGM(Consumer Generated Media:コンシューマー・ジェネレイテッド・メディア)は今後どれくらい影響力を持ちうるか」といったテーマについて、まがりなりにも一度自分なりの結論を出しておきたいからだ。

その“試練”を一度くぐり抜けておかないとこの連載は、視座を持たない「おもしろバイラルムービーガイド」で終わることにもなりかねない! そのレベルではMediaSabor(メディアサボール)の掲げる「時代の潮流を捉えるプロフェッショナルブログ」に値しないのではないだろうか。

日頃のクリエイティブの紹介より、ちょっとハードな原稿になるかもしれないが、今回と次回、おつきあいくださればうれしい。連載タイトル“NO STYLE”のゆえんである。


今朝の朝日新聞(7月27日・朝刊3面)で気になる記事を読んだ。見出しは「ブログで『宣伝』企業の影」というもの。「影」というからには、いいニュースではないのだろう。“旧ジャーナリズムの牙城”新聞では、デジタルメディアをネガティブに捉える記事を目にする機会が多い気がする。

ますます影響力を強める「ネット」に対して本能的な不信感でもあるのだろうか。それはさておき、この記事の内容はいかなるものだったのか。見出しから、ブログの「口コミ」効果について触れているのだろうというくらいの見当はつくだろう。

CGM(ブログ・SNS・クチコミサイト・Q&Aコミュニティ・掲示板・動画共有サイトなど)の口コミ広告効果については、連載の2回目に書いたことがある(「“広告”としてのブログ」 http://mediasabor.jp/2007/03/no_style_blog.html)。

あのときは、生活者が自発的に気になるモノやコトについての情報をブログから発信して、その存在がたくさんの人びとに知れ渡って行き、結局広告を打つ場合にひけをとらない宣伝効果が現れるケースについて書いた。しかしこの記事が取り上げている「ブログ」は、それとはまたちょっと性格が異なるものなのだ。

簡単に言うと、そこで問題視されているのは、いわゆる“アフィリエイトブログ”と言われるもの。つまり、生活者が自発的に商品をPRするのではなく、企業が支払うなんらかの報酬を目当てに、ブロガーがその企業の商品を推薦するコメントを書くわけだ。報酬は金銭とは限らない。記事では、「映画の試写会」や「レストランでの食事」を“フィー”として、コメントを書いていた女性ブロガーに触れている。

この場合もちろん、そのブログの閲覧者はそれが“広告”であるとは知らされていない。書き手がいいと思うものを、自発的にすすめているものとして読むことになる。

amazonなどのアフィリエイトとも違って、どこかのサイトへのクリックを促すわけでもないから、「広告」ということが見抜きにくいのである。こういった“広告に見えない広告”(「ステルス・マーケティング」というらしい)を一種の「やらせ」と見る向きも多く、ステルス行為をさかんに行っていた人気ブログが、そのことが発覚したのを契機に炎上したり、アメリカでは企業側が消費者団体の抗議を受けるといったケースまで出ているようだ。

しかし、日本ではまだそれほど大きな“事件”は起こっていないようで、企業側の“ネタ”(プレスリリース)をブロガーに提供するサービスもさかんになっているという。

記事が例として挙げているのが「プレスブログ」(エニグモ)と「Ameba PR」(サイバーエージェント)。「Ameba PR」では金銭報酬はないようだが、「プレスブログ」は1件につき報酬は100円以上、ケースによっては1000円を超えるらしい。

早速どんなものか見に行ってみた(http://www.pressblog.jp/)。トップページの冒頭には、現在配信中のリリース(登録者が広告する課題)が5つ並んでいる。「アクアクララではじめる、かんたんエコ」「おもいきり笑おう! あなたも白い歯に着替えませんか?/エンジェルクラウン」etc。

試しに、「エンジェルクラウン」に行ってみると、課題商品(エンジェルクラウン)についてのブリーフィングシートを読むことができる。「エンジェルクラウンとは、虫歯の治療で歯を削った際にかぶせる『クラウン』の一種で、今までのかぶせものと比べて、自然な歯に見える」商品らしい。

4項目から成る商品特性の説明に続いて、「原稿料支払条件」が記されている。その条件は「白い歯についてあなたなりのエピソードや考え・意見をまじえて自由に記載」(200文字以上)や「商品名をはじめとするキーワードを3つ盛り込むこと」などだ。

この課題の場合、原稿料は300円らしい。しかし、この原稿料は書いた全員がもらえるわけではなく、先着750名と抽選750名に限定。特に素晴らしい記事を書いた120名には、特別謝礼が出るという。

「プレスブログとは?」のタグが掲げられている。そこにジャンプしてみると、「無料会員登録」から「お金が振り込まれる」にいたるまでのプロセスが、イラスト入りで簡潔に記されており、その下に、「プレスブログ」の考え方を説明するステイトメントが用意されている。

「1.プレスブログは皆様こそメディアだと考えます」「2.皆様が書かれているブログは、情報発信力のあるメディアです」の2項目。それぞれにCGMの考え方を要約する文章がついている。

サイトの作りや参加までのシステムは、わかりやすいという印象だ。前述の記事によると、18万人が登録しているというが、これなら確かに実際に書くかは別にして、やってみてもいいと思う人は多いだろう。課題になっているのがエコ訴求商品や歯のかぶせものにする素材等、マス広告に適さない(口コミで広めるのに適した)ものであるのもうなずける。

サイトの片隅に「プレスブログ社会貢献プログラム」というタグがある。「NPOやNGOなどを対象に、“プレスブログ”を通じた支援活動を実施」しているようだ。確かにトップページの「配信中のリリース」コーナーには、先ほど紹介した課題のほかに、「社会貢献プログラム」として、NGO「セーブ・ザ・チルドレン」の活動を紹介する書き込みへの協力を求める“別課題”があった。

もちろん、これはボランティア。広報活動に多額の資金をさくことができない、あるいはその活動の性質上、ハデなマス広告ではメッセージを届けにくいNGOやNPOを支援するためのプログラムだ。

前述の記事では、「(ブログ)は自由表現が売り、誠実性が疑われる」とする専門家の意見を掲載するなど、「賛否両論ある」としながらも、どちらかと言えばこういった“スポンサー付きブログ”の増殖を懸念するスタンスを取っているように思えた。

しかし、広告する商品の性質や社会貢献プログラムの存在を考えると、これは「ステルス」(スポンサー隠し)のひとことで片付く問題ではないと思う(もちろん、課題はそういった公共性のある商品だけでもないし、このサイトの運営企業がどこまで社会貢献に本気なのかはわからないのだが)。

こういったプロジェクトの場合、参加者はただ企業に踊らされて書くのではなく、その「商品」にある程度の「理解」や「共感」を示した上で(少なくとも「面白そう!」と感じた上で)取り組むことが予想されるから、スポンサーがついていると言っても、「商品」に対する書き手の“思い”のようなものは、文章に確実に反映されることだろう。

スポンサーの言う条件を満たして書くとなれば、数百円の謝礼はお世辞にも高いとは言いがたく、その「商品」に対してモチベーションの高い人が参加するものと考えられる。金儲けだけを目的として書かれたブログは、「伝えようという情熱」に乏しく、「口コミ」効果を起こすことはあまり期待できないだろう。

つまり、この試みはいままでの感覚で捉えた「広告」というよりも、自分のブログに日々書く内容に飢えている(平凡な日記にはもう飽きた! もうちょっと内容のあることが書きたい)ブロガーへの「ネタ紹介」に近い。その意味では、さきほどの記事が提案する「ブログに“これは広告”との注意書きをつける」という対応策も、何か違うと感じてしまうのだ。

特に「プレスブログ」をひいきにしたいわけでも、CGMを礼賛したいわけでもない。あまりよくない商品を「いい」と誇大に言いふらすブログがあるなら、勘弁してほしいとも思う。ただ、このあたりには今後の「広告」のあり方を考える上での、重要なテーマがあると私は考えている。


■関連情報

<CGM関連の調査データ>

○GIGAZINE  2007/07/25
 「女性の半数がブログを参考にして商品を購入、男女全体では約4割」
http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20070725_blog_purchase/


○Ad Innovator 「世界のCGM広告市場は2011年に82億ドル」 2007/06/21
http://adinnovator.typepad.com/ad_innovator/2007/06/cgm201143.html


○MarkeZine  2007/07/27
「女子はブログ・プロフ・ふみコミュ、男子はゲーム・2ちゃんねる・モバゲーに人気
 ─中学生のネット利用調査」
http://markezine.jp/a/article/aid/1525.aspx

 

<欧米のクチコミマーケティング成功事例>

○Web担当者Forum 2006/12/06
 「欧米の成功事例に学ぶクチコミの基本パターン3」
http://web-tan.forum.impressrd.jp/e/2006/12/06/478?page=0%2C0

 

<クチコミマーケティング>

○キャズムを超えろ! 2007/07/25
 「WOMマーケティングを実施したから “ネットに悪評が溢れた” という論理は間違っている」
http://d.hatena.ne.jp/wa-ren/20070725/p1


○広告β:「私はいったいどうしたいのか?」 2007/07/24
http://kokokubeta.livedoor.biz/archives/51072735.html


○煩悩是道場 2007/07/10
 「ブログマーケティングに対するヘイトは解消しうるか」
http://d.hatena.ne.jp/ululun/20070710/1184043067


○Heartlogic 「ブロガー厚遇」問題への雑感 2007/07/07
http://www.heartlogic.jp/archives/2007/07/post_378.html


○[mi]みたいもん! 2007/07/02
 「ブログマーケティング問題で指摘された偏向について」
http://mitaimon.cocolog-nifty.com/blog/2007/07/post_250d.html


○Casual Thoughts 2007/07/01
 「“the cult of amateur”ユーザ参加型を懐疑的にとらえなおす」
http://d.hatena.ne.jp/ktdisk/20070701/1183247400

 

<ステルス・マーケティング>

○Web担当者Forum 2006/12/08
 「決してやってはいけないクチコミマーケの禁じ手」
http://web-tan.forum.impressrd.jp/e/2006/12/08/481


○徳力基彦 tokuriki.com  2007/01/11
 「製品がダメなら、ステルスマーケティングなんてやるだけ無駄では?」
http://blog.tokuriki.com/2007/01/post_258.html


○Garbagenews.com 2006/12/26
 「ステルスマーケティング」規制の対象に
http://www.gamenews.ne.jp/archives/2006/12/post_1765.html


○貧乏だけど心は萌え 2005/12/24
 「アメリカの口コミマーケティングは恐ろしすぎるwww」
http://revilog.com/binbou/archives/006713.html

 

<動画・画像CGM関連>

○CNET 2007/07/20
 インターネット無料動画サービスの利用が拡大─「テレビでネット動画視聴」の意欲も高い
http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20353145,00.htm


○小飼弾 404 Blog Not Found 
 「究極のアフィリエイト、ニコニコ市場」 2007/07/22
http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/50877247.html


○ITmedia News  2007/01/30
 「面白くないものが面白くなる」 ひろゆき氏が語る「ニコニコ動画」の価 値
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0701/30/news035.html


○P O P * P O P 2007/07/19
 あのバーガーキングの次に仕掛けるバイラルキャンペーン『Simpsonize Me』
http://www.popxpop.com/archives/2007/07/simpsonize_me.html

 

<クチコミマーケティングに関する新サービス>

○CNET 2007/07/18
 「ニフティとサイバーエージェント、企業向けにクチコミプロモサービス展開」
http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20352993,00.htm


○Web担当者Forum 2007/07/18
 企業の新商品やサービスをブログで紹介する「ブログで口コミ.com」がオープン
http://web-tan.forum.impressrd.jp/n/2007/07/17/1669

 


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