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若年層を蝕む携帯(ケータイ)電話依存によるデジタルデバイド現象

2007年5月、総務省が2006年末時点での通信利用動向調査の結果を発表した。
その中の「インターネット接続に個人が利用する端末」という統計資料によると…

・パソコンのみからインターネットに接続する人 …1627万人(18.6%)
・携帯情報端末のみから接続する人 …688万人(7.9%)
・両方を使ってインターネットに接続する …6099万人(69.7%)

携帯電話やPHSなど、携帯情報端末を利用してインターネットを利用する人は、全体の77.6%にのぼり、その中でも10人に1人は、携帯情報端末のみからインターネットに接続しているという。

このように、インターネットへの接続手段として携帯電話に代表される携帯情報端末を利用するのは、一般化していると言って問題はないだろう。

携帯電話からネットに接続し放題が可能となる“パケット定額制”や、携帯電話の小さな画面でも、パソコンの画面と同じようにWebページを閲覧できる“フルブラウザ搭載”などといったサービスや機能のおかげで、パソコンを使用した場合と遜色なくインターネットを利用できるようにも見える。

一見、接続端末が違うだけで、いつでもどこでもインターネットに接続できる“ユビキタス社会”が着実に現実のものになってきているようにも思える。また、自宅やオフィスではパソコン、出先では携帯といったように、相互が個人のインターネットへの接続可能状況を補完しているように見えるかもしれないが、果たしてそうだろうか。

あるWebコンサルティング会社によれば、Webマーケティングにおいて、ユーザビリティにしてもユーザー層も異なるパソコンと携帯を一緒にして考えては、うまくいかないとアドバイスしている。このことは、接続可能環境が柔軟になりつつも、実際、それぞれのユーザーの行動には違いがあることを示している。

さらに朝日新聞社発刊の週刊誌『AERA』2007年5月28日号においては、「デジタルプアの見えない壁 携帯オンリーが陥る下流スパイラル」という記事を掲載。情報収集やコミュニケーションの手段を、携帯だけに依存している若者は、パソコンスキルが身に付かないために報酬のいい仕事にありつけず、異質な意見を許容できない人間が育ち、そういう人間は狭い世界でしか生きていけなくなると指摘。多面的な情報比較がしにくい携帯によるインターネット利用のデメリットを挙げ、携帯ヘビーユーザーを“下流”と結びつけて論じた。

確かに携帯でのコミュニケーションに没頭し過ぎて、周囲が見えなくなっているユーザーはいるかもしれない。例えば、2006年11月に起きた間違い110番殺到事件。これは、携帯電話大手のKDDI(au)のインターネットサービスや電子メールが送受信しにくくなる通信障害が発生した際、ネットサービスを利用しようとしたユーザーの携帯電話に「送信できませんでした(110)」とエラー画面が表示されたため、エラーを示すコード「110」を問い合わせ番号と勘違いしたとみられる珍事件だった。

さらに、珍事件では済まされない恐ろしい事件も起きている。若者男女がなんのためらいもなく、自分のわいせつ画像を携帯サイトに投稿してしまうという事件だ。2007年1月には、こうした画像の投稿を放置していたサイトの運営者を逮捕し、携帯電話で自分の裸を撮影したわいせつ画像を投稿していた14歳から23歳の男女6名を書類送検した。

恐ろしいのは、送検された6名とも罪の意識がまったくなかった様子だったということだ。投稿した画像に、閲覧者が投票することでランク付けされたり、コメントが付いたりすることを純粋に楽しんでいたというのだ。

携帯はパソコンと違って画面が小さく、たとえ同じ部屋に家族がいてもバレることがないため、若年層の携帯ユーザーを中心に、こうしたサイトが普及しやすいとの指摘もある。

このような事件が発生すると、確かに携帯ヘビーユーザーは狭い世界に没入しやすいようにも思えてくる。特に若いうちに“インターネットへの接続は、携帯だけで十分”だと満足してしまうと、ネット接続という利用法以外にも有効な活用ができるパソコンへの関心が薄れてしまうことはあるのかもしれない。このパソコンへの関心が希薄になることにこそ危険性が孕んでいるのだ。

ここでいう危険というのは、若者がもっと大量の情報を上手に取捨選択、整理するスキルを身に付けることを放棄してしまうことだ。つまり、これが第二のデジタルデバイドと呼ばれる若年層の携帯依存情報格差社会の正体ではないだろうか。

情報化社会と呼ばれる現代では、目まぐるしい量の情報をどのように処理するかがひとつのテーマになっているといえる。単位時間あたりの情報処理量は、多くの場合、生産性と比例するからだ。

2000年頃には、最新のデスクトップパソコンでも、ハードディスクの容量は、20GBや30GBが主流だった。それが、現在では、1TB(テラバイト)=1024GBのハードディスクすら登場している。それと比較して携帯電話のメモリカードなどは、多くても8GB程度だ。手元に蓄積できる情報量からして格段に違うのだ。

同じ3分間でも、パソコンのキーボードと携帯電話のキーでは、入力できる文字量が違うように、パソコンと携帯をバランスよく使い分けしているユーザーと携帯依存度の高いユーザーでは、処理できる情報量に差が出る。

携帯かパソコンかの二者択一ではなく、過度な携帯依存がデジタルデバイドのトリガーになる危険性を孕んでいることを認識したうえで、若年層には、コミュニケーション以外の情報デバイス活用法について、一定のリテラシーを身に付けさせる工夫が必要なのではないだろうか。

 

■関連情報

●livedoorニュース 2007/06/19
 「増えるネット依存、子どもの闇の顔“学校裏サイト”って何だ?」
http://news.livedoor.com/article/detail/3202681/

●デジ・ラボ 「デジタルプア」 2007/05/30
http://www.dpartners.net/blog/2007/05/post_8.html

●《架空と現実》―ムイシュキン 
「ワーキング・プアはデジタル・プアと見つけたり」 2007/05/22
http://g-village.asablo.jp/blog/2007/05/22/1525004

●ちょっと気になる今日この頃 「デジタルプアの見えない壁」 2007/05/21
http://justforfun.z-kikaku.jp/archives/works/

●ITmedia アンカーデスク
「『下流』ではないケータイヘビーユーザー」 2007/04/28
http://www.itmedia.co.jp/anchordesk/articles/0704/28/news022.html

●ITmedia アンカーデスク
「ケータイ検索が“使えない”理由」 2007/04/25
http://www.itmedia.co.jp/anchordesk/articles/0704/25/news057.html

●FACTA online 「パソコン見放す20代『下流』携帯族」 2007/03
http://facta.co.jp/article/200703060.html

●Garbagenews.com  2007/03/01
「携帯しか使えないと『下流』なの? 『下流携帯族』論にダウト!?」
http://www.gamenews.ne.jp/archives/2007/03/post_2032.html

 


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