動画共有サイトの充実化で苦境に立たされるビデオジャーナリスト
ジャーナリスト
ビデオジャーナリストという職業がある。ビデオ機器の高性能化、小型化、低価格化によって、テレビ局のような豊富な資金のある組織でしかできなかった取材が、技術的には1人のジャーナリストでもできるようになった。
報道写真家(フォトジャーナリスト)のなかからも、写真だけでなくビデオカメラによる報道を手がける人が現れ、その表現は広がっている。加えて、ブロードバンドの普及によって、撮影した映像をネットで放送することも可能になっている。
9・11のアメリカ同時多発テロをきっかけにはじまったアメリカのアフガニスタンとイラクへの攻撃では、現地から戦場の生々しい映像を中継するビデオジャーナリストたちが大活躍した。
彼らは、テレビ局社員がいけない戦場の最前線から、戦争の真の姿を報道する。あれこそが本物のジャーナリストである、ということに異論をもつ人はいないだろう。
しかし、このビデオジャーナリストは職業として、リスクや難易度に見合った報酬が得られているとは言い難い。
日本におけるビデオジャーナリストの草分けの1人、野中章弘氏(アジアプレスインターナショナル代表 http://www.asiapress.org/ )は、フリーランスのビデオジャーナリストたちを取り巻く環境は厳しい、と言う。
華々しい活躍をしているようにみえるビデオジャーナリストたちに支払われる報酬は安い。このためビデオジャーナリストが育たない、というのだ。
「あまりに安い報酬が改善されなければならない。ジャーナリスト個人のガンバリズムにも限界がある」
テレビ局の正社員は高給である。30歳で年収は1000万円を超える。野中氏と同世代の在京のテレビ局正社員の給与は約3000万円になるという。高給の社員を戦場に派遣するよりも、フリーランスのほうが取材費は安くつくのは明らか。
現地で死亡するような事故や事件に巻き込まれたときの補償にかかる経費を考えれば、テレビ局がフリーランスに仕事を依頼するのは経営判断としては正しい。その要請に、戦場報道のノウハウがあるビデオジャーナリストたちが応えることで活躍の場をつくってきた。
「日本のマスコミが報道してこなかったことは多い。私たちはフリーランスのビデオジャーナリストとして、そこに需要があると思っている」
だが、その需要に応えたとしても、適正な報酬は得られない。
「マスコミが市場を支配しているからです。変化の兆しはありません」という。
最近、映像を手軽にネットにアップロードできるYouTubeのようなインフラが整ってきた。この動きに対して野中氏は「我々とは関係ありません。私は市民ジャーナリストと、プロのジャーナリストとを分けています」とのことだ。
たしかにプロが命をかけて撮影した映像をYouTubeで流すことはありえないだろう。
インターネットでのニュース映像配信をビジネスとして成立させるためには、広告をとるか、課金することになる。ビジネスとして成功したと言える事例はまだない。
「十分な資金がないと、報道の質が落ちてしまう」
野中氏はアジアプレスという会社の経営者でもある。質の高い映像作品、ニュースをつくり、それをテレビ局に売ることで経営を成立させなければならないという使命感は強い。
だが、その使命感は空回りするのではないか、と危惧される。それは、インターネットによって、コストをほとんどかけることなく映像を配信する仕組みができたからだ。このインフラは、ビデオジャーナリストたちにとって諸刃の剣になるのかもしれない。
現場の市民がビデオカメラで撮影した映像が、YouTubeにアップロードされるようになるからだ。
私が戦場の当事者であれば、いつ取材に来るかわからない先進国のビデオジャーナリストを待つことはないだろう。
プロのビデオジャーナリストたちは、マスメディア所属社員では撮影が困難な映像を撮る努力だけでなく、ビデオカメラをもった無数の無名市民たちとも競争することになる。
無料で多種多様の映像をみた視聴者たちは、課金に厳しい目を向ける。ビデオカメラの全世界的な普及は、取材対象者と取材者の境界をあいまいにしていく。何をもってプロというのかさえも問われる時代になっている。
ビデオジャーナリストたちは、マスメディアだけに依存しない独自の映像コンテンツによる収益モデル構築を急がなければならない時期に来ている。そのためには、プロのジャーナリストは、プロの経営者と協力しあわなければならないだろう。
■関連情報
●MediaSabor 2007/07/02
「ビデオジャーナリストの未来─ブロードバンド時代に輝く存在たりえるか」
http://mediasabor.jp/2007/07/post_147.html
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