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母親が実刑判決 ―未成年の飲酒に厳しいアメリカ―

  • 米国在住モチベーション・コンサルタント&コーチ 

  • 菊入 みゆき

<記事要約>

2002年、エリサ・ケリーは、親として最も賢明だと思う行動をとった。息子の16歳の誕生日のことだ。息子に、「家に友達を呼んでパーティをしたいから、ビールとワインを買ってきてほしい」と頼まれたのだ。ケリーは、合意する。翌朝まで誰も家から出ないことを約束させ、念のため、全員の車のキーを預かった。

しかし、近隣の家から通報され、ケリーと元夫は逮捕される。「私が酒を買い与えなくても、子どもたちは飲酒をしただろう。だったら、親の目の届く範囲で、彼らをコントロールするほうがいいと思った」と、ケリーは主張している。

今年6月11日、ケリーは27ヶ月の刑期を果たすために、入所した。
この事件は、子どもを持つ親の間で波紋を呼んでいる。多くの親が、ケリーと似たような状況下にあるからだ。

2007/6/25 NEWSWEEK(1933年創刊)

NEWSWEEK記事 
http://www.msnbc.msn.com/id/19263094/site/newsweek/page/0/

EUとの比較 
http://www.monitoringthefuture.org/pubs/espadsummary.pdf

国立アルコール乱用・中毒研究所の調査
http://www.niaaa.nih.gov/NewsEvents/NewsReleases/NESARCNews.htm

<解説>

今、アメリカは卒業シーズンを迎えている。そう、ここでの旅立ちの季節は、暑さが本格的になり始める6月なのだ。そして卒業といえば、パーティ。アルコールの問題が親たちを悩ませる。
アメリカでは、21歳未満の飲酒は法律で禁じられている。アメリカは日本よりも、未成年の飲酒に対する見方が、ずっと厳しい。

日本では大目に見られそうな、冒頭のケリーのようなケースでも、通報され、厳しい審判が下される。当然、高校の卒業パーティでは、アルコールはご法度だ。親たちが総出で監視をしながらのパーティもあると聞く。しかし、それでもティーンネイジャーは、監視の目をかいくぐる。

あなたなら、どうするだろうか。自分の子どもが飲酒する可能性は高い。自身が逮捕されるのを覚悟で、自分の管理下で飲ませるか。はたまた、効き目がないことを知りつつ、「飲んじゃダメだよ」と言って送り出すか。

その場合、アルコールの種類や飲む環境などに計り知れない危険があり、また、子どもだけで飲んでいるところを保護されれば、やはり親の監督責任を問われる。アメリカの親たちは、この究極の選択に苦しむ。

専門家の中にも、家で飲み方を教えよ、という意見がある。ブラウン大学で教育、心理、小児科学を教えるコール教授は言う。

「親たちはとにかく、『飲むな』と言って子どもを育てます。そしてある日突然、なんの指導もなしに、『いいよ、飲んで』と言う。人は、21歳になったからといって、いきなりお酒のよい飲み方を習得できるわけじゃないんです」

コール教授の育ったプエルトリコでは、子どもたちは家族のパーティで酒を飲むようになるという。アメリカでも、教授と方針を同じくし、自宅で子どもやその友達に酒を飲ませる家庭もあるようだ。

一方、それこそが問題だとする立場もある。もちろん、こちらが主流だ。「飲み始める年令が若いほど、のちに依存症などアルコールの問題を抱える確率は高まる」と、ティーンの薬物乱用問題の専門家は言う。

例え依存症にならないとしても、10代のうちから多量に飲めば、記憶などの学習能力に支障をきたす可能性がある。発達過程にある脳は、大人の脳よりもアルコールのダメージを受けやすい。マリファナよりも、アルコールのほうが危険なのだ。デューク大学医療センターで思春期の飲酒について研究するホワイト氏は、警告する。

ティーンにはとにかく飲むな、飲ませるなということなのだ。

学校教育の場でも、アルコールや薬物の危険性は子どもたち自身に叩き込まれる。小学校に専門家が来て、アルコールや薬物の危険からいかに身を守るかを、数週間にわたってレクチャーするなどのプログラムが、多くの州で採用されている。

このような対策が実を結んだのか、アメリカのティーンの飲酒率は、EU先進国に比べれば低い。2003年の調査によれば、15から16歳で1ヶ月に1度以上多量に飲むという人の割合が、デンマーク、ドイツでは6割近いのに対し、アメリカは3割弱だ。ちなみに、別の1996年の調査だが、日本では月に1から2回以上飲酒する人の割合は、中学3年生男子25.4%、女子17.2%だそうで、アメリカより若干少ない程度。

記事は、次のような専門家のアドバイスで結ばれていた。

「一番大切なのは、親が良きモデルになること。大人が誠実に、慎重に行動しなかったら、子どもが責任ある行動をとるわけがありません」

子どもにうるさく言う前に、大人が自分の飲み方を反省しろというわけだ。
これから、ビールのおいしい季節になる。2杯目をお代わりする前に、「子どものお手本になるか?」と考え、のちのち投獄される憂き目を避ける必要がありそうだ。

■関連情報

●健康情報 海外版 「未成年時代の飲酒がアルコール依存者につながる」 2006/06/26
http://www.e-expo.net/contents/global/2006/06/post_1.html

●リッジウッド便り「未成年の飲酒問題」 2007/06/26
http://jparidgewood.blog49.fc2.com/blog-entry-191.html

●ITmedia News 2006/11/14
mixiで19歳が飲酒運転を告白 大学が「指導不十分」と謝罪
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0611/14/news057.html

●アーベルグループ開発日記 「18歳は微妙なお年頃 第一回 飲酒」 2006/09/19
http://abelsoft.exblog.jp/3362287

●アーベルグループ開発日記 「18歳は微妙なお年頃 第二回 飲酒」 2006/09/20
http://abelsoft.exblog.jp/3371013

●日本の「食」の在り方 「未成年の飲酒規制に思うこと」 2006/07/25
http://blog.goo.ne.jp/earthdreaming/e/43bb8cc236096950bfc16d98dc1eb2d4

●いいんちょーの雑記帳  「未成年の飲酒」 2005/07/18
http://big-mt.com/blog/archives/2005/07/post_19.html


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