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メタボリックシンドロームなど、「なんとかシンドローム」にご用心!

ある女性が人間ドックを受けたところ、メタボリックシンドロームの診断基準にあたるので薬を服用するように言われたそうです。その女性は以前に副作用で苦しんだ経験があるので、「その薬はずっと飲み続けなければいけないのか?」と聞いたところ、「途中で服用を中止すると効果がなくなるので継続するように。」と、きつい調子で言われたそうです。副作用はもちろんのこと出費の点でも心配なので、どうしたものかと私に相談に来られたというわけです。

ここでまず大切なことは、メタボリックシンドロームというのは病名ではないということです。検査数値によって病気の予防を心がけることは良いことですが、数値だけですぐに薬を(しかも一生!)飲み続けるというのは全く間違いで、まず、食生活や運動などのライフスタイルの改善を行い、それでも改善が見られないときに、はじめて薬の服用を検討すべきなのです。

そもそも、メタボリックシンドロームに関しては判断基準そのものの科学的根拠があやしいため、国内・外から異論が続出しています。実際のところ、わが国では高齢者は、やせているよりも小太りの方が長生きしている事実がありますし、閉経後の女性の軽度の高コレステロール血症などは問題ないとの報告もあります。コレステロールを下げすぎるとむしろ「がん」になりやすいこともわかっています。

そもそも検査の数値が標準値におさまっていると「正常(normal)」とされ、そこからはずれた値だと「異常(abnormal)」とされるようになったのは19世紀以降のことです。

なぜ、国をあげてメタボリックシンドロームなどを作りあげているのか? そこには製薬会社と役人、それに御用学者の思惑が見え隠れします。何しろ、数値をほんの少しいじっただけで何百万人が「病気」になり、何百億円の薬の「市場」が生まれるのですから!

代表的なコレステロール低下薬であるスタチンを例にとれば、スタチン系の薬剤の世界中の消費量のなんと4分の1が日本人、しかも、その6割を55歳以上の女性が使用しているのです。

医療費の無駄使いだけならまだしも、医薬品には必ず副作用(有害作用)があります。必要のない薬を飲み続けているうちに本当に病気になってしまうというのでは、笑うに笑えません。

京都大学医学部の福島雅典先生はメタボリックシンドローム騒ぎについて、「メタボリック症候群」という言葉は人々に『腹囲が大きければ病気だ。』と思わせかねない。肥満は、たとえば1日1時間歩く、間食をやめるなど、それだけでも改善できる。」とし、「メタボリック症候群と声高に叫ぶ必要は、私には感じられない。」と述べています。

ホリスティック医学のリーダーである帯津良一先生(NPO法人日本ホリスティック医学協会 http://www.holistic-medicine.or.jp/)は五木寛之氏との対談「健康問答」(平凡社)で、五木氏に「最近メタボリック症候群が騒がれていますが、どうなんですか。」と聞かれて、「あれは、私、余計なお世話だと言ってるんですよ。(笑)なにか、健康に関して不安感をあおっているような気がしますね。」と答えています。

また、「健康というのは数字では表せない、もっとなかにこもったもの、目に見えない『命の場』のエネルギーのようなところにあるものなんだと思うんですよ。」と述べ、メタボリック症候群のような考え方は「とんでもないところへ人々を連れて行っちゃう危険性があります。」とも述べています。

そもそも厚生労働省自体が生活習慣病予防のための標語として「1に運動、2に食事、しっかり禁煙、最後にクスリ」と謳っているのです。

とは言え、これからもあやしげな「なんとかシンドローム」が作られることでしょう。たとえば、背が低い人は「短身シンドローム」と診断され、カルシウム剤と成長ホルモン剤が処方されるかもしれません。

もう一度繰り返しますが、標準数値からはずれることが、即病気ではありません。また、生活習慣病予防は食事や運動など、ライフスタイルの見直しが鉄則です。医薬品は体にとって異物であり、必ず有害作用をもたらします。くれぐれも「なんとかシンドローム」に惑わされないように、ご用心、ご用心!


■関連情報


○権力とマイノリティ
 化けの皮がはがれる「メタボリックシンドローム」 2006/06/03
http://garasu2005.exblog.jp/3558662/

○内科開業医のお勉強日記
 「メタボリックシンドロームを考え違いしてないか?」2006/04/25
http://intmed.exblog.jp/3526779/

○アンチエイジングサロン 「べき論も度が過ぎると・・・」 2007/06/14
http://antiager.org/salon/02/2007/06/001368.html

○MediaSabor 「タミフル問題を考える─薬の専門家とは誰か」 2007/04/15
http://mediasabor.jp/2007/04/post_69.html

 


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