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多民族国家ベリーズの歴史 ─中米の異国である理由  


●左からクレオール・マヤ・メスチソ の女の子たち

ベリーズは、他の中米諸国と比較すると特異な点が多い。中米唯一、公用語が英語であること、黒人系混血が人口の3割を占めること、そしてカリブ諸国の影響が強いことなどが挙げられる。

私が初めてここに来たとき、余りにも他の中米諸国から逸脱しているところが多いので不思議な国だと感じたものだ。中米に英語圏があるということが初耳だったし、人種についても然りだ。しかし、その歴史を知ると全く不思議でもなんでもなく必然的に起こった事実なのだ。

16世紀の大航海時代を迎え、スペインが中米一帯を征服した。グアテマラに総督府を置いたスペインは、ホンジュラスやエルサルバドルと同様、一応ベリーズもその範疇には入れた。しかし、他の中米諸国ほど力をいれて支配することはなく、ベリーズは総督府から見れば僻地のような状態だった。

スペインは、金・銀が採れるメキシコやホンジュラスの支配に力を入れていたし、ベリーズの国土は大半が湿地帯だったので、スペインはこの地に魅力を感じていなかったからだ。

17世紀になり、イギリス人がジャマイカやトリニダード・トバゴなどカリブ諸国に進出し始めると、ベリーズにもその勢力が及んできた。イギリスは、スペインのベリーズ支配に力が及んでいないのをいいことに、この地に勝手に移住を開始、アフリカから黒人奴隷を送りこんだのだ。

奴隷たちは、寿司詰め状態で奴隷貿易船に乗せられ、長い航海を経てベリーズに到着しログウッドやマホガニーの伐採などに従事した。だから現在のベリーズ国旗には、斧を持つ黒人と白人が描かれているし、ベリーズ国歌「自由の地」にも「もう樹木の伐採を強いられることはない」という歌詞が入っている。


●ベリーズ国旗

彼らの子孫がクレオールと呼ばれる人々で、人口の25%を占める。多くが海辺の街ベリーズシティに居住し、クレオール語を話して生活している。ベリーズで話されているクレオール語は、英語を短くしたような感じだが、慣れないとまるで別の言語で、ベリーズ在住のイギリス人でも聞き取れないと首をかしげる。

This is our chicken. がDis da fi wi chikin.(ディス・ダ・フィ・ウィ・チキン)といった具合に表現されるから無理もない。また、主格と目的格が入れ替わるのも特徴的で、All of us がAll of we になったり、I don’t know. がMe no no.(ミ・ノ・ノ)と言われたりしている。

このクレオール語については、ブロークン・イングリッシュだと言って嫌う人もいる。しかし、異環境での生活を強いられたアフリカ人奴隷たちが、意思疎通のために創り上げた言語ということを考えれば、クレオール語は、むしろ奴隷たちの創造力のひとつだと言えるかもしれない。

また、ベリーズにはガリフナ族と呼ばれる人たち(人口の6%)もいる。こちらも黒人系だが、クレオールとは違うルーツで、セント・ビンセントの原住民とアフリカ奴隷の混血だ。彼らは流浪を繰り返しつつ19世紀初頭、ベリーズ東南部ダングリガにたどりついた。

毎年11月19日は国民の祝日(ガリフナ・セトルメントデー)で、彼らの入植を祝う祭りがダングリガを中心に開かれ、前日の夜から夜通しでどんちゃん騒ぎが繰り広げられている。

ちなみに、彼らの言葉(ガリフナ語)と音楽が世界遺産に登録されており、興味深い民族だと言える。

このようなわけで、ベリーズは中米に位置しながらも、カリブ諸国と似た歴史背景を持ち、つながりが深いのだ。ベリーズでは毎日ジャマイカのニュース番組が放送されているし、ベリーズで発行される教員免許の中にはカリブ諸国一帯で有効なものもある。さらに、ベリーズが1974年に加盟した「カリブ共同体」(カリコム)は、中米で唯一の加盟国だ。

ベリーズ人の友人に「ベリーズは、中米の一部か、カリブ諸国の一部かどちらだと思う?」と聞けば、「両方だよ」と答えてくれた。確かに、人種も文化も食生活もカリブと中米の混合だから納得できる。「ベリーズには、クレオール、ガリフナの他、マヤやメスチソ、インド人もいるけれど、民族紛争を起こしたことがないからね」彼は自慢げにこう続けた。

 

■関連情報

●世界ぐるっと!旅行 ─3Qワールド─ 「ベリーズの歴史」2006/12/23
http://sekaigurutto.blog32.fc2.com/blog-entry-388.html


●ラテンアメリカからみると:ベリーズ
http://la-news.cocolog-nifty.com/lanews/12/index.html

 

 


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