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パルメザンチーズをめぐるドイツ・イタリア攻防戦

<記事要約>

欧州委員会では2003年、イタリア産チーズの「パルミジャーノ・レッジャノ」ブランドを侵害しているとして、ドイツが訴えられている。先ごろ、ルクセンブルグで開かれた欧州司法裁判所で、非イタリア産パルメザンチーズを流通させているドイツに、罰則をあたえるべきではない、との意見を法務官が陳述した。

─6月28日付 「イル・ソーレ24オーレ」(イタリアの日刊経済紙)より─


<解説>

パルメザンチーズと聞くと、アメリカ・クラフト社のつくる緑色の筒に入った粉チーズを思い出す方が多いのではないでしょうか。

「パルメザン」は「パルミジャーノ」の訳語ですが、もともとはパルミジャーノ・レッジャーノという、イタリアのエミリア・ロマーニャ地方で生産される最高級チーズのことです。

イタリア国内では、特定の地域で生産され、かつ品質管理の基準を満たしたものだけに与えられるチーズで、認証(D.O.P.)なしに、パルミジャーノ・レッジャーノの名でチーズを売ることはできません。

これより先、2004年の欧州委員会において、ドイツに勧告が出されていました。すなわち、パルミジャーノ・レッジャーノではないチーズに、パルメザンの名前をつけて販売することは認められないので、イタリアのパルミジャーノ・レッジャーノを保護するべく必要な措置を講ぜよ、と言い渡したのです。
ドイツ政府はその2ヵ月後、勧告には従わない、と回答しています。

総勢8人いるうちのひとりの法務官による今回の意見陳述とはいえ、イタリアが反発したのは言うまでもありません。

この欧州司法裁判所の法務官がドイツ政府を弁護した理由はこうです。

ドイツではすでに、「パルメザン」は特定の地域や製法で作られたチーズを指すものではなく、すりおろして使う硬質チーズを表す一般的な名称になっているから。

似たような事例があります。フェタチーズはギリシャ特産のチーズですが、「この名称をつけられるのはギリシャ産品のみ、他の国では認められない」という判決が、2005年11月に欧州司法裁判所で出ました。このときもギリシャに対抗するフェタチーズ生産国は「フェタ」は羊乳やヤギ乳を原料とするソフトチーズの一般的な呼称になっている、と反論していました。

本物のパルミジャーノ・レッジャーノ以外に、「パルミジャーノ」及び訳語としての「パルメザン」も認められないという、イタリアに好意的な判決が将来出たとしても、イタリア政府は手放しでは喜べないはずです。

なぜなら、こうして欧州司法裁判所で争っている間にも、パルミジャーノを連想させるような名前のチーズが、すでに市場に出回っているからです。

国内の農産物生産団体の調査によると、ベルギーでは「パメゼッロ」という名前の、スペインではイタリアの地名である「パルマ」をそのまま商品名としたおろしチーズが売られているそうです。

ヨーロッパから目を転ずるとさらに顕著です。チーズだけでなく、ほかの食品にまで及んでいます。

例えば。

 ─ アメリカ・カリフォルニア産の「コンタディーナ・ローマスタイル」というトマトソース(コンタディーナはイタリア語で農婦の意)

 ─ オーストラリア産の「ボロニェーゼソース」(ボローニャ風ミートソースの意)

 ─ 中国産の「ぺコリーノ」(羊乳から作るチーズ。中国産には羊乳が使われず、商品パッケージにはイタリア国旗がほどこされている)

工業製品の知的財産権の所有では日米に、ヨーロッパ内でもドイツに遅れをとってるイタリアです。せめて食の分野では、イタリアに帰属する権利を最大限保護できるよう、がんばってほしいものです。世界中でイタリア食品のニセモノが氾濫しているなんて、ホンモノを持つ国だけに許される悩みなのですから。

 

■関連情報

・パルミジャーノ・レッジャーノ生産者組合HP
http://www.parmigiano-reggiano.it/index.html?l=2

・欧州委員会HP
http://ec.europa.eu/index_en.htm

・イタリア農産物生産団体COLDIRETTI HP(イタリア語)
http://www.coldiretti.it/



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