父親たちの離婚生活を支援する職場プログラム
- オーストラリア在住ジャーナリスト
<記事要約>
離婚や離別がビジネス(経営)に莫大な負担をかけていることを示す研究に基づき、CSA(Child Support Agency)は、「ステイイング・コネクティッド(Staying Connected)」と呼ばれる職場プログラムを開発した。離婚家庭の父親が対象で、個人的なダメージとビジネスへの損害を未然に防ぐことを目的としている。
マックォーリー大学のグレーム・ラッセル准教授は、従業員1,000人規模の企業の場合、離婚や夫婦関係の問題により、年間約18万豪ドル(約1,850万円)相当の病欠に加え、1万1,500時間の生産性の損失があると算出している。
メルボルンの消防・救急サービスや警察などでのプログラム試験実施を経て、CSAは銀行やIT企業、法曹界などにも目を向け始めている。
コースでは、離婚後の男性の差し迫った精神的な、あるいは健康上のニーズ、元妻との付き合い方、親子関係を築くための最善の方法といったことに重点が置かれている。
2007/6/16 Sydney Morning Heraldより
<解説>
ストレスを点数化した「社会的再適応評価尺度」によれば、配偶者の死を100とすると、離婚は73、別居は65で、失業の47や退職の45、親友の死の37よりもはるかに高い。
もちろん、ストレス耐性には個人差があり、人によって受け止め方やダメージはさまざまだろうが、ラッセル准教授は、「女性と違い、破局を乗り越えるために役立つ公共サービスに、男性がアクセスする可能性は極めて低い」と語っている。
たとえば、養育費や面接交渉権、慰謝料、財産分与といった、離婚が成立する前に向き合う必要がある現実的な問題に関して、専門家のアドバイスを受けることはあっても、「離婚生活」が始まってから、自分自身を取り戻すために他者のサポートを求める男性は確かに少ないだろうと思う。
だが、果たして、離婚後に家族と離れて独りで暮らす男性を支援するという視点は、これまでにあったのだろうか?
世界に先駆けて、家族法で「破綻主義」を採用したオーストラリアでは、婚姻関係が回復する見込みがなければ、離婚が成立する。原因や責任を追及する「有責主義」とは異なり、離婚に至るまでの事情や来し方はさておき、12ヵ月間別居するだけで「壊れちゃった」ことが事実として確認され、事足りるのだ。場合によっては、家庭内別居というのもアリらしい。
政府機関であるCSAのホームページには、「オーストラリアの結婚の40%が離婚に終わる」と書かれている。ずっと一緒にやっていくことができるカップルは、5組に3組というわけだ。離婚請求の7割は女性側からだという。
離婚家庭の子どもの大方は母親と暮らし、離婚後の公的支援は、ひとり親家庭が抱える切実な経済面の不安を軽減することが主眼になっている。共に暮らさない親にも「共同親責任」があるという概念が浸透している一方で、子どもが週末や休暇を一緒に過ごす父親に対する支援は、民間のサポートからもすっぽりと抜け落ちてきたように感じられる。
離婚したオーストラリア人男性の自殺率は、女性の9倍も高いのだそうだ。日本でも、離別した男性は自殺や肝硬変の割合が著しく高いとする研究があり、昨年は「離婚した男性の心筋梗塞の死亡率は、妻帯者の約3倍」という統計が厚生労働省の発表で明らかになった。
ステイイング・コネクティッドが画期的なのは、地域ではなく、父親の日々の活動の場である職場が舞台になっていることと、単親家庭の片割れである「もうひとつの離婚家庭」を対象としていることだ。もはや少数派とはいえない彼らが、つながり続ける(Staying Connect)ために、公私共にダメージ防止効果があることを期待したい。
■関連情報
○「世界の高齢者」編集者のブログ
「熟年離婚率が上昇している(オーストラリア)」 2007/07/07
http://d.hatena.ne.jp/wanbi/20070707
○モノ太郎の雑学コラム 「離婚率、15年ぶりに大幅低下」 2005/03/09
http://blog.livedoor.jp/doorsjapan/archives/15936539.html
○イザ!(iza)「なぜ?米の離婚率、過去30年で最低レベルに」
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/world/america/51510/
○世界おもしろニュース 「結婚もカネ次第? ─韓国から」 2007/02/03
http://blog.worldtimes.co.jp/archives/50630165.html
○ね式(世界の読み方)
「子供・結婚・離婚:家族の変容 ─ル・モンド記事」 2006/02/03
http://neshiki.typepad.jp/nekoyanagi/2006/02/enfan.html
○図録 主要国の離婚率推移
http://www2.ttcn.ne.jp/~honkawa/9120.html
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