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誰のための医療情報か…  改正医療法を巡る医・官・民の意識の隔たり

■医療機能情報提供制度がスタート 

改正医療法が平成18年6月に公布され、この四月からは医療機能情報提供制度がスタートした。といっても私たちの身の回りで一体何がどう変わったのか、そう簡単に感得できるものではない。

法律は私たちの無関心も手伝ってか、役人に都合良くどんどん顔を変えてゆく。先日そんな事を考えさせられる興味深い場面に遭遇した。


■標榜診療科名を巡る患者不在の議論

それは7月5日から三日間にわたって横浜で開催された第41回日本ペインクリニック学会(会長:増田豊教授・昭和大学医学部麻酔学講座)でのこと。大会2日目の招請講演で壇上に立った厚生労働省の菊岡修一調整官(医政局総務課)と、聴講していた医師たちとの質疑応答の場面で感じたことである。

問題となったのは病院や開業医が広告できる標榜診療科名(内科や外科など)の扱いで、現時点ではまだ「ペインクリニック科」が認められていない事についての質問があった。

そのやり取りを聞いていて感じたことがある。役所にも医師にもそれぞれの立場、役割があって、その点を互いに主張するのは理解できるのだが、そこには患者が口を挟む余地は全くなく、まさに患者不在の論理が展開されただけだったように思う。

口では「患者のため」というのだが、いざ互いの利害に核心が触れると患者の居場所は消されてしまう。そんな思いを強くした。

現に、この問題を審議する「医道審議会医道分科会診療科名標榜部会」に対して厚生労働省の事務局がたたき台として提出した素案の中でも、今まで使われていた「アレルギー科」や「リウマチ科」が削除されており、患者団体を巻き込んだ撤回要求の動きにもなってきている。

今回の素案の中にも「ペインクリニック科」は含まれていなかった。患者サービスの向上という視点はどこに置かれているのだろうか。

そもそも日本ペインクリニック学会とは、痛みの治療を専門とする臨床医や研究者が集う40年以上の歴史を持つ学術集会である。病院などでは麻酔科の医師が中心になって、神経ブロック療法などを駆使した難治性の痛みを扱う専門外来(ペインクリニック・疼痛外来)として浸透してきている。

目には見えない「痛み」。他人には感じる事が出来ない「痛み」だからこそ、医師と患者をつなぐ医療改革のキーワードに成り得ると筆者は考えている。

さて、今回のたたき台について厚生労働省の菊岡調整官の説明はおおよそこうだった。

「医療機関からの広告にはかなり厳しい規制がある。基本的には標榜できる診療の内容は、看板や医療機関の名称としても使えるだろう。ただしこの問題は現在、医道審議会医道分科会診療科名標榜部会で議論しており報告書がまとめられる。ペインクリニック科で標榜する場合は『ペインクリニック・麻酔科』や『ペインクリニック・整形外科』など、実施にあたりバックボーンとなる診療科名を併記するのが望ましい。インターネットには誘因性がないので広告とはならないが、バナーは広告とみなす」

これに対してフロアーの医師からは、

▼病院名にペインクリニックという名称を申請したところ認められなかった。

▼横浜市は今年から「ペインクリニック」という広告を認めないと言われた。

▼看板を含めた広告の判断は都道府県にあると言われたが、全国共通であるべきではないか。

▼「ペインクリニックと痛みの治療は違う。しかし小児科と子どものクリニックは一緒だ」と言われ、どこに判断の基準があるのか分からない。

▼全国ペインクリニック開業医懇談会が行ったアンケート調査によれば、患者の4割がペインクリニックという標榜をたよりに来院している。

▼麻酔科と、痛みの専門外来であるペインクリニックとはまったく別ものである。

 

などという意見が聞かれた。全体としてはペインクリニックを標榜診療科名として早く認めるようにとの要望が出されたという印象を受けた。


■医者と患者の情報格差

このようなやり取りを耳にしながら、筆者は以前インタビューした患者さんの言葉を思い出していた。

「眼内レンズというのは、目の水晶体のようにはレンズの厚みを変えられないんです。それを知ったのは、皮肉にも手術した新しい目で読んだ専門書だった…」と、話してくれたのは東京都在住のMさん。

Mさんは数年前、70歳を目前にして白内障の手術を受けた。水晶体の白濁が進み好きな読書がだんだん出来なくなってきたからだ。水晶体は水と透明なタンパク質からできている。このタンパク質が変性すると白く濁る。これが白内障の正体だが、なぜ変性が起こるのか詳しいメカニズムはまだ解明されていない。

このときMさんは、医者の頭の中にある情報と患者側が持っている情報とでは格段の差があることを実感したという。その差を縮める努力はどちらがすべきか。大勢の患者との対応で、病状や治療の説明に十分な時間がとれないのは分かるが、余りにも対応が表面的すぎないか、と感じたという。

モノを買うときには溢れるほどの情報が手に入るのに、自分の命に関わる医療の世界で、それが極端に少ないのはなぜか。


■関連情報

○レジデント初期研修用資料 「医師の評価つき検索サイトの実現可能性」 2005/08/23
http://medt00lz.s59.xrea.com/blog/archives/2005/08/post_287.html

○医療広告ガイドラインの概要(株式会社ケアレビュー)
http://www.carereview.jp/ad_policy/index.html

○株式会社ケアレビュー プレスリリース 2007/04/25
  医療の質を‘見える’化する患者満足度情報専門サイト 『ケアレビュー』サービス開始
http://www.fideli.com/press/m/detail/bid/793/eid/1/index.html

○OSAMU2.0 LOG 虎ノ門で働く社長のブログ(病院検索・歯科検索ホスピタJP運営)
 「医療に関する情報提供の推進」2007/05/07 
http://www.osamulog.com/2007/05/post_62.html

○株式会社ファーマネットワーク 「Vol.10 第5次医療法改正のポイント・・・その3」
http://pharmanetwork.co.jp/info/contents/medicalmarket/vol10.html

○のんきな社会福祉士のひとりごと 2007/04/23
 「医療機能情報も公表制度」
http://blog.goo.ne.jp/mnpjj853/e/d5c7b211d4dbaa74634619b1bc597648

○病気に克 「医療機能情報公表制度がスタート」 2007/06/12
http://byoukinikatu.paslog.jp/article/649704.html

○アポプラスステーション医療・医薬情報発信地 メディログ 2006/07/03
 「社内で医療法改正の勉強会に参加して思ったこと」
http://www.apo-mjob.com/blog/medilog/2006/07/post_11.html

○くまにち.コム 「総合科」 「認定医」案に医師会反発 2007/06/06
http://kumanichi.com/iryou/kiji/sonota/109.html

○骨髄バンク 2007/06/02 
 厚労省:診療科名、明快に 38→26、「総合科」新設も
http://blogs.yahoo.co.jp/bone_marrow_bank/12371708.html

○歯科医療未来へのアーカイブス 2007/05/25
 「学会置き去りの診療科見直し協議に反発も」
http://fd005.exblog.jp/5641136/

○東京日和@代務医の日々 「学会置き去りの診療科見直し」 2007/05/29
http://blog.m3.com/TL/20070529/2

○熟年おじさんのひとりごと 2007/07/07
 「本当に機能するのか総合科新設(総論賛成各論反対で議論沸騰か)」
http://s-miyamoto.cocolog-nifty.com/nlc28m02/2007/07/post_d50f.html

 


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