世界初!植物からポリエチレン生産 ─今ブラジルのさとうきびが甘くて熱い!─
- ブラジル在住ジャーナリスト
<記事要約>
ラテンアメリカ(中南米)で最大手の石油化学メーカー、ブラスケンは、さとうきびを原料とするエタノールから、プラスチック生産に使用される樹脂、ポリエチレンを生産する旨を発表した。
エタノールからポリエチレンを生産する調査と研究は、2005年の中ごろから始まっており、現在までに500万ドルの投資が行われた。地球科学研究所、ベータ・アナリティック社によれば、100%継続可能な物質で構成された製品であることがテストされている。
「われわれは、伝統的な石油化学からさらにもう一歩進みだし始めた。」と、ブラスケン社長のジョゼ・カルロス・グルビシキ氏はいう。「これは、世界の新しい必要性に応えた、テクノロジーの価値を示すものだ。」
グローボ紙 2007年6月22日(O Globo ブラジルの日刊紙)
<解説>
バイオエタノール生産における、ブラジルの勢いはとどまることを知らない。生産量はアメリカに次ぐ世界第2位、世界最大の輸出国だ。
6月上旬には、アメリカ人投資家ジョージ・ソロス氏が約9億米ドルの投資を表明。香港に本拠を置くノーブル・グループはエタノール生産工場を7000万ドルで買収。2006年にエタノール生産の合弁事業を開始した米穀物大手カーギル(Cargill)も、さらに事業買収を進めると憶測されている。
農産物加工、販売大手の米アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド(ADM:Archer Daniels Midland)は、ブラジル南部にバイオ燃料工場を建設中だ。日本からも昨年のホンダ(HONDA)に続き、今年5月からトヨタ(TOYOTA)も、エタノールとガソリン両方で走るフレックス車の販売を始めた。まさにエタノール分野への投資ラッシュといえよう。
ブラジルのバイオエタノールは、さとうきびから生産されている。燃やした時に二酸化炭素が排出されないことから、環境にやさしいエネルギーとして注目されている。また、太陽と水があれば植物は育成でき、持続利用可能な燃料として位置づけられている。今やまさに、畑で燃料を生産する時代に突入したのだ。
そんな継続可能な燃料から、プラスチックを作ることを思いついたのがブラスケンだ。プラスチック生産に使用される樹脂ポリエチレンは、従来、石油もしくは天然ガスから生産されてきた。ブラスケンの発表は、プラスチックをも、畑で生産する新しい時代の到来を示唆している。
ブラスケンは中南米最大手の石油化学メーカーで、石油化学基礎製品と熱可塑性樹脂をブラジル国内の14箇所の施設で生産している。ここのところ、電力技術とオートメーション技術のリーディングカンパニー、ABBグループと、性能向上に関する3000万ドルの契約を締結したり、ベネズエラの豊富な天然ガスを利用するため、ベネズエラ国営石化会社と2つのジョイントベンチャーを設立することに合意したりと、業界を騒がせている。
世界ではじめて承認された、さとうきびを原料とするエタノールからのポリエチレン生産のニュースは、大きな衝撃を与えた。発表後、ブラスケンのシリーズAの株は4,09%上昇。その日のサンパウロ証券取引所で3番目に取引が多い企業となった。
ブラスケン社長、グルビシキ氏によると、新しい樹脂研究のためのプロジェクトは、国内外企業の投資、支援を見込んでいるという。「緑のポリエチレン」は、すでに世界中の多数にわたる企業に紹介されており、クライアントはすでに従来の石油から生産されるポリエチレンの15%、20%高の値段を支払うことを約束しているという。エタノールから生産されるポリエチレンは、コスト的には、ナフタから生産される従来のポリエチレンと同じだ。ただ、その持続可能性という面での期待が高まっているのだ。
2009年以降、10万から20万の「緑のポリエチレン」の生産が可能な工場を建設する予定だ。
エタノールから生産される密度の高いポリエチレンは、自動車部門、食品の包装、コスメ用品などに利用されるという。
最後に、環境にやさしいはずのエタノールが引き起こす、環境破壊について言及したい。現在は、大豆などから生産するバイオ・ディーゼル(軽油の代替燃料で、ディーゼルエンジンを有する車両、船舶、農耕機具、発電機等に使用されている)メーカーの、大豆畑の開拓による森林破壊が問題になっている。大豆の価格高騰による食糧問題も深刻だ。
さとうきびに関していえば、ブラジルには未開拓の土地が広大にあり、その土地をさとうきび畑に利用することで、森林破壊なしに生産増量が可能だ。しかし、さとうきびは大量の水分を大地から吸い取る性質があり、土壌の健全性確保の徹底が急がれている。また、アメリカとは生産過程に違いがあること、遺伝子組み換え作物の議論はまだ起こっていないことを付け加えたい。
今後ポリエチレン生産も加わり、ますますブラジルのさとうきび畑の面積は拡大するだろう。自然に密接した生産であるからこそ、方法を間違えば世界規模での環境破壊を引き起こす危険があることに注意を促したい。
ブラスケン ホームページ
http://www.braskem.com.br/site/portal_braskem/pt/home/home.aspx
■関連情報
○MediaSabor 2007-07-09
「食糧自給率の低い日本に迫る危機─矛盾だらけのバイオエタノール」
http://mediasabor.jp/2007/07/post_154.html
○BenjaminFulford(ベンジャミン・フルフォード)
「地球温暖化と環境破壊について」 2007-06-21
http://benjaminfulford.typepad.com/benjaminfulford/2007/06/post-1.html
○お金と健康と生きがい
「世界経済の拡大で資源争奪戦が始まった」 2007-06-18
http://jttaon.seesaa.net/article/45177021.html
○THE UNIVERSE...森羅万象
「飢餓人口をますます増やす「バイオエタノール」 2007-06-07
http://blog.so-net.ne.jp/jpdragon/2007-06-07-2
○石油最終争奪戦に備える─ 「もったいない学会」は100万人の国民運動です
「コメからエタノール燃料:賢愚の狭間で揺れる日本」 2007-05-16
http://oilpeak.exblog.jp/6862333/
○紺碧の世界に夜露死苦
「NHKも間違ってる?? バイオエタノール問題」 2007-05-09
http://coolway.air-nifty.com/unicorn/2007/05/nhk_5c2f.html
○渡辺真人 起業家のブログ(社長Blog)
「バイオエタノールガソリンについて」 2007-05-08
http://bcp-bcp.cocolog-nifty.com/bcp/2007/05/post_7f48.html
○環境の世紀 「BRICsの大発展とエネルギー資源争奪戦」2007-07-07
http://akihitoblog2005.blog.ocn.ne.jp/kankyo/2007/07/brics_3600.html
○ゴルゴ13総合研究所『俺の背後に立つな!』
「ゴルゴ13第54巻-2穀物戦争 蟷螂の斧」 2007-03-11
http://golgo.blog.ocn.ne.jp/blog13/2007/03/542_aeaf.html
○バイオエタノールって何?
「バイオエタノール、食料事情悪化の一因に」 2007-05-04
http://bioethanol.seesaa.net/article/40754965.html
○平成維新!安倍晋三[美しい国]VS小沢一郎「公正な国」
「恐るべし穀物メジャー」 2007-03-02
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○ジャパン・ハンドラーズと国際金融情報
「キッシンジャー博士2007年予測・裏読み」 2007-01-07
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○熟年の文化徒然雑記帳 「食料と燃料間でトウモロコシ争奪戦」2007-01-25
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○SHIPPHOTO 船の写真 「穀物メジャー Cargill」 2006/03/24
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○農業環境シンポジウム レスター・ブラウン博士 基調講演 開催報告と映像
「食料 VS エネルギー ─穀物の争奪戦が始まった─」 2007-05-23
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○イザ! さまよえる団塊世代 「豚が中国を滅ぼすかも・・・」2006/12/27
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○広瀬隆雄のADRを利用したBRICs投資
「ブラジルの農業(その1)」 2006/09/04
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○広瀬隆雄のADRを利用したBRICs投資
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「ついに アマゾンの森林破壊が2年間停止に! -グリーンピースとマクドナルドがカーギル社など大豆取引業者を説得」
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ズバリ!糧断 米国の狂牛病問題の本質を暴く─国際穀物メジャーに占領された日本
http://blog.goo.ne.jp/itagaki-eiken/e/47040a3b1c2b2c72b2cba890e478c0c0
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